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著者・編者 | 篠月しのぶ=著 |
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出版情報 | KADOKAWA |
出版年月 | 2018年1月発行 |
統一暦1927年6月29日、 ターニャ・フォン・デグレチャフ 中佐が率いる サラマンダー戦闘団 (正式名称「レルゲン戦闘団」)は、再編・休暇のため、東部戦線から帝都ベルンに帰還した。帝都で展開されている戦意高揚のためのプロパガンダに辟易とする ターニャ だったが、帰還報告をした レルゲン 大佐や クルト・フォン・ルーデルドルフ 中将の表情は憔悴しきっていた。最高統帥会議が帝国軍に求めている「勝利」の明確な定義もないという。
そんなとき、連合王国が帝国西方にある工業地帯への空爆を開始した。参謀本部は南方戦線の ロメール 少将を西方へ向かわせることを決める。帝都の食糧事情も悪化しており、パンやコーヒーの質が落ちていた。 ターニャ は、もし講和を結んだとしても、そのあとに訪れるであろう国民の暴発を考え、不安に襲われる――勝った日露でさえ日比谷での暴徒がいた。歴史を見れば、茫然自失とならずに『あれほど恵まれた条件講和』にすら大反対した暴徒が実在するのだ。世論に対する適切な説明を欠けば、ああなる(164ページ)。
ロメール 少将を帰還させるため、が率いる第二〇三航空魔導大隊の選抜中隊は、 アーデルハイト・フォン・シューゲル 主任技師がが開発した人間魚雷「 V-2 」に乗り込み、連合王国主力艦隊へ特攻を仕掛ける。 ターニャ は、この困難な任務を完遂し、連合王国空母艦隊に甚大な被害を与えた。
統一暦1927年7月17日、 ターニャ
らはイルドア王国に親善訪問し、かつて東部戦線に観戦武官として派遣された ヴィルジオニ・カランドロ
大佐に再会する。一行は豪華列車の中で、イルドア王国の豊かな食材を使った料理に舌鼓をうつ。
一方、サラマンダー戦闘団の再編にともない、後方の港湾守備隊へ配属された ロルフ・メーベルト
大尉や クラウス・トスパン
中尉は、そこで、敵コマンド部隊の襲撃を受ける。帝国の防衛能力は明らかに低下していた。
参謀本部に帰投した ロメール 少将は、 ターニャ は将校クラブへ誘い、「政治という分野に軍事的な脅威たるそれがあれば、軍事的な目標たりうるだろう。必要とあらば、独断専行すべき局面もありうる」(442ページ)と語る。
ターニャ
の階級は中佐――会社で言えば課長である。課長が、ゼートゥーア中将という取締役事業部長から直接命令を下されるのだから大変である。しかも、炎上プロジェクトの火消し役ばかり。
ターニャは、「勝利の定義要件さえ行方不明なプロジェクト。成功の希望など、株主を騙す詐欺師以外、持ちえない代物。スタートアップ企業のプレスリリースだって、今少しはもっともらしくやるだろうに」(159ページ)とこぼす。課長として冷静な分析である。
失敗プロジェクトは「中止」という選択肢もある。早期に中止を選択すれば、違約金は少なくて済む。会社が被る信用毀損も最小限にとどめられる。にもかかわらず、世の中のプロジェクトで、この「中止」を選択することは滅多にない――なぜか? ぜひ本書をお読みいただきたい。
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