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2023.11.11
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カテゴリ: 書籍
重力のからくり

重力のからくり

 一般相対性理論における「なめらかに連続的に変化している」重力場は量子力学の対象にはなりえず、一方で、「量子化されている」ものは微分計算を含むアインシュタイン方程式の対象にはなりえないのです。(247ページ)
著者・編者 山田克哉=著
出版情報 講談社
出版年月 2023年8月発行

同じブルーバックスで『光と電気のからくり』『量子力学のからくり』『真空のからくり』『時空のからくり』『E=mc2のからくり』を著した山田克哉さんの著書。アメリカで教鞭をふるい、アメリカ物理学会会員でもある。

最初に、「質量」と「重さ」の違いついて1章を割いている。この2つが異なることは意識はしていたが、本書の説明を読んで再認識できた――あらゆる質量は(なぜか理由は分からないが)慣性という性質を備えている。慣性とは、加速/減速のしやすさ(あるいはしにくさ)のことだから「力」であり、単位はN(ニュートン)。重力の単位もNで、地上における重力の値は物体の「重さ」と同じなので、重さの単位もNとなる。一方、質量の単位はkg(キログラム)である。

第2章では万有引力を取り上げる。万有引力とは、質量をもつ者(物質)どうしが、互いに引っ張り合う力のことを指す(48ページ)。このニュートンが発見した万有引力の法則は、2つの質量の間に働く引力は、2つの質量の積を距離の2乗で割った値に比例する。比例定数は重力定数Gだ。
しかし、質量(重力質量)が、なぜ重力を生み出すのかはわかっていない。2つの質量のあいだには、重力を伝達する重力子(グラビトン)という粒子が交換されることによって重力が発生するという仮説が出されているが、重力子はまだ観測されていない(80ページ)。重力子は、本書最後の超大統一理論のところで再び登場する。作用反作用の法則(ニュートンの第3法則)よれば、地上をはうアリに働く地球の重力(作用力)と、アリが地球を引っ張る力(反作用力)は同じである。しかし、地球の慣性質量があまりにも大きいために地球は加速されない。
万有引力の法則から、アインシュタインの一般相対性理論が導き出された。逆に言えば、重力の弱い空間では、一般相対性理論は万有引力の法則に近似できる。

第3章では質量保存の法則を取り上げる。
アインシュタインは質量とエネルギーが等価であることを発見し、有名な公式 E=mc^2 を導き出した。質量保存の法則はエネルギー保存の法則に発展するが、量子力学が登場し、エネルギーと時間の不確定性原理によって真空から飛び出てきた粒子は、ディラック定数の半分という、きわめて短時間のうちに真空へと戻り、消滅することがわかってきた。だが、その短時間の中においても電荷保存の法則は破ることができない。そして、陽子1個分の素電荷eより小さな電荷は、この宇宙には存在しない。
電荷保存の法則がゆえに、宇宙全体での全電荷はゼロとなる。つまり、仮想粒子はつねに自身の反粒子とペアを組み、対生成と対消滅を繰り返す(117ページ)。これに対し重力には引力しかなく、あまねく宇宙の隅々まで重力が影響を与えている。

第4章では「見えない力として、ダークエネルギーを取り上げる。
プランクの放射の法則によれば、電磁波のもつエネルギーの量は連続的には変化できず、不連続的にしか変化しない。ある周波数をもつ電磁波のエネルギーには最小値があり、その最小値がhfである(134ページ)。連続的に変化する周波数をもつ電磁波に量子力学を適用すると、エネルギーの“飛び飛び性(離散性)”が電磁波の「粒子性」となって現れ、粒子となった電磁波は「光子」とよばれる(138ページ)。
また、プランクの放射の法則は、電磁波を全く放出しない絶対ゼロ度の黒体の中に、なおhf/2で表される量の電磁波のエネルギーがとどまり続けるという。これこそが真空のエネルギーである。この真空のエネルギーは、万有斥力をもたらすダークエネルギーの正体と考えられている。

第5章では、「見えない質量」として、ダークマターとヒッグス場の関係を取り上げる。
この宇宙を構成する質量の割合は、1)ふつうの物質(5%)、2)ダークマター(24%)、3)ダークエネルギー(71%)と考えられている。観測によると、渦巻き銀河の中心にある星やガスの回転速度と、中心から離れた星やガスの回転速度がほとんど同じであり、ケプラーの第三法則が破られたように見えた。だが今日では、観測にかからないダークマターの重力が働いており、ケプラーの第三法則は有効に働いていると考えられている。
ビッグバンの直後、宇宙空間は光子で満ちており、光子には質量がないために重力が作用しなかった。が、まもなくヒッグス場が登場し、質量が誕生する。一方、ダークマターはヒッグス場と無関係に発生した質量と考えられているが、その起源は不明である。

第6章では、本書のタイトルでもある重力のからくりを取り上げる。
アインシュタインの重力場の方程式をひと言で言い表すと、「1)何が時空を曲げ、2)その結果、時空はどのように曲がるのか」を示す方程式です。1)に対応するのが右辺で「時空を曲げる原因」を表している。2)に対応するのが左辺で、こちらは「時空の曲がりの程度(曲率)」を示している(234ページ。
アインシュタインは当時、宇宙は膨らみもしないし縮みもしない「静的な構造」をしていると考えており、静的な宇宙を保つためのものとして「宇宙項」を付け加えた。その後、宇宙の膨張が確実なものとなり宇宙項は取り消されるが、宇宙が加速度的に膨張していることが分かった今日では、宇宙項を復活させ、それにダークエネルギーが対応していると考えられている。
真空のエネルギーがダークエネルギーの正体だと書いたが、観測値によれば前者は後者に比べて120桁も大きいことがわかった。その原因は分かっていない。
重力場について、一般相対性理論はをなめらかな連続値として見るのに対し、量子力学は飛び飛びの離散値(量子)として見るため、両者の相性は非常に悪く、超大統一理論(SUT)への道は険しい。これが、本書のサブタイトルでもある「相対論と量子論はなぜ『相容れない』のか」に結びつく。ループ量子重力理論と超弦理論による量子重力理論は、別々の観点から重力場を量子化することで超大統一理論を目指す。

本書は、最新の宇宙論の知識を整理するのに役だった。これまでループ量子重力理論や超弦理論の上辺を見知っていたつもりだが、本書を読んで、超大統一理論(SUT)へ果たす役割が理解できた。また、ニュートンの方程式やプランクの法則、アインシュタインの重力場の方程式など、要所要所に数式が登場すが、恐れることなかれ。山田さんの絶妙な解説で、その数式の意味するところを日本語で理解することができる。そして、量子力学の数式と相対性理論の数式の接点を見比べることで、この宇宙の美しさを垣間見ることができるだろう。

ところで、本書で「万有斥力」として紹介されているダークエネルギーは、重力を相殺する力ではないし、重力よりさらに小さい力であるが、宇宙が膨張しても一切減少することがないので、重力に代わって遠い未来の宇宙の姿の左右する唯一の力になるのではなかろうか。また、本書冒頭で、重力は弱すぎるといっても過言ではないほど「きわめて弱い力」としているが、その原因には触れずに終わっている。もしかすると、本書終盤で触れているように、4つの力のうち、反対の力が存在しない重力だけは別のものなのかもしれない。そうなると、超大統一理論は大いなる誤解ということになる。

私が生きているうちに超大統一理論は完成しそうにないが、それでも、ブラックホールの蒸発にはじまり、宇宙の大規模構造、ダークマターやダークエネルギーなど、新しい発見や理論が次々に登場する宇宙論からは目が離せない。






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最終更新日  2023.11.11 13:27:36
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