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2025.08.10
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カテゴリ: 書籍
赤ちゃんは世界をどう学んでいくのか

赤ちゃんは世界をどう学んでいくのか

 この時期は、「9ヶ月の奇跡」と呼ばれ、赤ちゃんの社会的能力が飛躍的に向上するのです。
著者・編者 奥村優子=著
出版情報 光文社
出版年月 2025年6月発行

著者は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所協創情報研究部コミュニケーション発達研究グループ主任研究員で、専門は赤ちゃん心理学、2児の母として3歳と0歳の娘さんを育てている奥村優子さん。研究内容を自らの経験に当てはめて紹介することで、わかりやすく具体的な内容となっている。AIモデルを構築するには、膨大なデータと訓練が必要だが、赤ちゃんはわずかな経験から学習し、高度なコミュニケーションができる。どうやってそれを成し遂げているか、本書では主に2歳までの赤ちゃんを対象に、科学的に明らかにされた学びの力や道徳性に関する最新の研究成果を紹介する。

赤ちゃんのかわいらしさには「ベビースキーマ」という外見的な特徴が関わっており、大人はこのベビースキーマに引きつけられ、養育行動が促されると考えられている。新生児は視力が0.02程度という極端な禁止であるにも関わらず、相手の顔を注視することでコミュニケーションを行う。6ヶ月の赤ちゃんは、人の顔だけでなく、サルの顔も区別できる能力を備えている。ただし、月齢とともに識別能力が人の顔に特化していく。
赤ちゃんは、社会性が発達する過程において、まず自分と相手の二項関係を確立し、9ヶ月頃になると相手の先にある対象(世界)を認識して三項関係として関わっていく。この段階で、赤ちゃんが注目している対象の名前を養育者が伝えることで、赤ちゃんはその単語を適切に学習することができる。この時期は「9ヶ月の奇跡」と呼ばれる。
子どもは、他者からの情報をただ受け取るだけではなく、情報提供者の信頼性や背景を考慮しながら、状況に応じて最適な情報源を選んで学習していく。

2歳以下の赤ちゃんは、自分のお菓子を分け与えることに、自分がお菓子をもらう以上の喜びを感じる。だが、自分から進んで行っていたお手伝いを、おもちゃが与えられるとしなくなる。赤ちゃんにとってお手伝いは、自発的黄道だと見ることができる。3歳児になると、他人に親切だった人を進んで助ける傾向があり、意地悪をした人をあまり助けません。
赤ちゃんは1歳を過ぎる頃から平等な分配を好むようになり、1歳半頃になると、他人の状況を見て分配行動を決めていく。赤ちゃんにみられる正義感は、人間が利他の精神を持ち合わせて生まれてくるという可能性を示唆している。赤ちゃんは、有能で社会的地位の高い人物を好み、同時に攻撃的で暴力的な行動をとる人物を避ける傾向がある。
幼い子どもの援助行動は、評判を得ることが目的ではなく、純粋な動機によるものとされている。4歳頃から、子どもは自分の良い評判を維持しようとして、不適切な行動を抑えるようになる。

3歳前後の中年齢群の子どもは、ひらがなを明示的に読めなくても、音と文字の対応を理解し始めており、ひらがな文字音知識を持っている可能性が示唆されている。2歳児は目的語項が省略されても理解できるようになる。一方、カナダの英語学習児では、代名詞文を理解できる一方で、項省略文の理解が難しいという結果が得られた。
経済力が高い家庭の子どもが聞いた言葉の数は、経済力が低い家庭の子どもが聞いた言葉の数を大きく上回り、3歳の終わりまでにその差は3200万語に及んだ。これを「3000万語の格差」と呼ぶ。子どもの言語能力やIQに影響を与えるのは、家庭の経済状況そのものではなく、養育者がどれだけ多く、質の高い言葉をかけたかにあるといえる。第一子の語彙発達が早い理由として、第一子は親からの言語インプットを独占する時期があり、親から直接話しかけられる機会が多いことが挙げられる。
アメリカの母親は子どもの言語能力の発達を促す働きかけに価値を置くのに対し、日本の母親は子どもとの情緒的なコミュニケーションの確立を大切にしていることが報告されている。

赤ちゃんとデジタルメディアの接触については、相関関係と因果関係に注意しなければならない。たとえば、メディア視聴時間が長いこと自体が言語やコミュニケーションの遅れを引き起こすわけではなく、メディア視聴時間が長い家庭環境には、親子の関わりの少なさや、生活環境が整っていないなど、他の要因が影響している可能性があるからだ。テレビがついていると、親の関心がテレビに向かいやすくなり、その結果、親子の関わりが大幅に減少する傾向がある。
ただ、赤ちゃんは直接的な体験を通して学習できるが、メディアから得た知識を現実に応用することは難しい。赤ちゃんが言語を学ぶためには、人との関わり合いが必要なのだ。9ヶ月の赤ちゃんは、互いに会話を交わすことはできませんが、ただ同じ場にいるだけで覚醒状態が高まり、学習が促される。
最近の研究から、幼い時期からの絵本の読み聞かせが、子どもの言語発達や読みの発達に重要な役割を果たすことがわかってきた。NTTコミュニケーション科学基礎研究所は、絵本に出現する言葉を詳しく調べるため、「NTT絵本コーパス」を作成した。本に多く出てくる動物名を絵本コーパスで分析したところ、1位は「ネコ」、2位は「クマ」、3位は「ウサギ」という結果でした。一般的に馴染みのある「イヌ」は9位という結果になった。

ロボットとの関わりにおいては、5歳児はロボットからも語彙を学習したが、人間から教わった場合の方が正答率が高いことがわかった。さらに、4歳児は、人間からは学習できましたが、ロボットからは正確に学習できなかった。
ただし、自閉症の子どもにとっては、ロボットが有効な学習ツールとなる可能性があるという。自閉症の子どもは、対人コミュニケーションに苦手意識を持つことが多いが、ロボットはシンプルで一貫した反応を示すため、安心して学べる環境を提供しやすいとされている。赤ちゃんは、ロボットがコミュニケーション可能な存在だと示されると、話し相手として適切だと判断する。
奥村さんは、近い将来、ロボットは幼児教育を支える学習コンパニオンとして、私たちの生活に浸透していくという。

奥村さんは冒頭で、「赤ちゃんは限られた情報から新しい概念や言語を素早く学び取ることができます。現時点で最先端の人工知能(AI)でさえ、こうした能力を持つとはいえません」と記しているが、まさにこの点を知りたくて、本書を手にした。学生時代(約40年前)にAI研究をやっていて、その後、子どもが産まれ社会人にまで成長する過程を目の当たりにして、AIとの学習能力のギャップを思い知らせたからだ。
もちろん、いま子育て真っ最中の親御さんにもおすすめできる内容だ。見よう見まねでやっている子育ての方法に理論的な裏付けがあることは頼もしいと感じるだろう。
本書を読んで、AIと赤ちゃんの学習能力の差は、次の3点にあると感じた。
+赤ちゃんには学習情報源を正しく取捨選択できる能力が備わっている。
+赤ちゃんは双方向コミュニケーションによって相手から取得する情報量を調整できる。
+赤ちゃんには利他精神が備わっており、それによって相手から正しい情報を引き出しやすくできる。
逆に言えば、生成AIに、これら3つの機能を実装することで、次のフェーズへ発展できる可能性がある。
生成AI業界に、発達心理学者が教育心理学者が多く加わることを願う。






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最終更新日  2025.08.10 19:06:52
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