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2025.10.27
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カテゴリ: 書籍


三体

三体

 史強「地球人を虫けら扱いする三体人は、どうやら、ひとつの事実を忘れちまってるらしい。すなわち、虫けらはいままで一度も敗北したことがないって事実をな」
著者・編者 劉慈欣=著
出版情報 早川書房
出版年月 2024年2月発行

1967年の中国――文化大革命の嵐が吹き荒れる中、大学教授で理論物理学者の 葉哲泰  ( イエ・ジョータイ )  は、反動的学術権威として紅衛兵になぶり殺しにされた。告発したのは妻で物理学者の 紹琳  ( シャオ・リン )  だった。天体物理を専攻していた娘の 葉文潔  ( イエ・ウェンジ )  は、ただ見ていることしかできなかった。
2年後、生産建設兵団に入った文潔は、内モンゴルで森林を伐採し、開墾を進めていた。だが、それはただ破壊しているだけのようにみえた。文潔もまた濡れ衣を着せられ、監禁された。時間が流れ、文潔は 雷志成  ( レイ・ジーチョン )  楊衛寧  ( ヤン・ウェイニン )  によって救出された。彼女の論文に価値があることが知られ、紅岸基地の最高機密レベルの研究プロジェクトに参加する資格が与えられたのだ。ただし、一生そこを出ることができないという条件で。

四十数年後、ナノマテリアル研究者の 汪?  ( ワン・ミャオ )  は作戦司令センターに連れてこられた。そこで、高エネルギー粒子加速器を使った実験を行っている〈科学フロンティア〉に関わった多くの科学者が自殺したことを知らされる。葉文潔の娘で理論物理学者の 楊冬  ( ヤン・ドン )  もまた、「すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった」というメモを残して自殺した。
汪?は、楊冬の恋人で理論物理学者の 丁儀  ( ディン・イー )  を訪ねた。酒の匂いをプンプンさせている丁儀は、ビリヤード台を高エネルギー粒子加速器にみたて、汪?に、新しい加速器で実験したところ、同一の粒子、同一の衝突エネルギー、同一のパラメータだったにもかかわらず、違う結果が出たことで、物理学者たちがパニックを起こしたことを告げた。丁儀は、「それは、宇宙のどの場所においても適用できる物理法則が存在しないことを意味する。ということはつまり‥‥物理学は存在しない」と言った。

汪?は、ライカM2にモノクロフィルムを入れ、趣味の写真撮影のために街に出掛けた。1本分を撮り終え帰宅して現像してみると、写真の真ん中に奇妙な数字の列が写っていた。それはカウントダウンする時間のようだった。
汪?は、それらの写真を〈科学フロンティア〉会員の 申玉菲  ( シェン・ユーフェイ )  に見せた。彼女は理由も示さずに「研究を中止しなさい」と言った。
やがて、汪?はカウントダウンの数字が見えるようになった。病院を受診すると、飛蚊症という診断だった。医師は心の問題だと告げた。
汪?はナノテクノロジー研究センター向かうと、超強度ナノマテリアルの実験装置のシャットダウンとメンテナンスを命じた。すると、カウントダウンが止まった。

汪?はVスーツを着ると、申玉菲がプレイしていたVRゲーム「三体」にログインした。そこは3つの太陽がある世界で、惑星の運行に法則性がなかった。
汪?は葉文潔を訪ね、楊冬が子どもの頃に書いて日記帳を見せてもらった。そして、宇宙背景放射の観測施設を紹介してもらう。中国科学院国家天文観測センターの電波天文観測基地に到着した汪?は、突然、宇宙背景放射のゆらぎが大きくなったことを確認した。カウントダウンは続いていた。
作戦司令センター所属の警察官・ 史強  ( シー・チア )  が汪?を尾行していた。史強は汪?に「科学で説明がつかないように見える出来事の背後には、かならずだれか黒幕がいる」と告げ、彼らに反撃するために「仕事に行け。研究をつづけろ」とアドバイスする。
汪?は再び葉文潔を訪れ、紅岸基地の思い出を聞かされる。紅岸基地の真の目的は――。
数学の天才にして三体問題の特殊解を次々に発見した申玉菲の夫、 魏成  ( ウェイ・チョン )  は殺害予告電話に怯え、史強に助けを求めた。汪?も呼び出され、3人で申玉菲の家に行ってみると、玉菲が殺されていた。

汪?が「三体」バージョン2をプレイし終わると、オフ会に招待された。辺鄙なところにある静かで小さな喫茶店で、参加者はたった7人だった。
汪?が「三体」に5回目のログインを行うと、そこは情報化と原子力文明に到達した世界だった。ゲーム内でアインシュタインは「三体問題に解は存在しない」と言った。汪?がログアウトすると、突然、「緊急事態につき、『三体』のサーバはまもなくシャットダウンします。残っている時間で、自由にログインしてください。『三体』はこれから、最終ステージへと直接ジャンプします」というメッセージが表示された。
汪?が「三体」にログインすると、三体艦隊が4光年離れた恒星系へ向かって出発するところだった。ログアウトした汪?に、地球三体協会への招待メールが届く。
地球三体協会の集会には300人以上が集まっており、多くの著名な科学者や文学者、政治家が含まれていた。地球三体協会反乱軍の最高司令官は 葉文潔  ( イエ・ウェンジエ )  は、?せ細った拳を振り上げ、意外なほどの力と決意がこもる声で「人類の専制を打倒せよ!」と叫んだ。

葉文潔は紅岸基地における研究で、太陽鏡面が電波を1億倍にも増幅できることに気付いた。地球文明はおそらく、カルダシェフの分類におけるII型文明のエネルギーレベルでメッセージを送信できる。1971年秋に文潔が送信した1万2千メガヘルツの電波は、光速で宇宙全体へと広がり始めていた。8年と数ヶ月後、「応答するな! 応答するな!! 応答するな」という警告メッセージが届いた。それは、約4光年離れている太陽系にもっとも近い恒星系で三重星系として知られる ケンタウルス座α星  ( アルファ・ケンタウリ )  からのものに違いない。文潔は「来て! この世界の征服に手を貸してあげる。わたしたちの文明は、もう自分で自分の問題を解決できない。だから、あなたたちの力に介入してもらう必要がある」と返信を打った。まもなく、文潔は 楊冬  ( ヤン・ドン )  を産み、山の中で一人で暮らしながらツバメの命を救おうとしているマイク・エヴァンズに出会う。
数年後、文潔は西ヨーロッパのある大学に客員研究員として招聘を受け、ロンドンにヒースロー空港に到着した。彼女はヘリコプターに乗せられ、巨大なパラボラアンテナが並ぶ巨船〈 審判の日  ( ジャッジメント・デイ )  〉に着陸した。エヴァンズは彼女を出迎え、三体艦隊が450年後に地球に到着することを告げた。そして、文潔は地球三体協会(ETO)の総帥に就任する。地球三体協会は、人類文明に絶望し、みずからの属する種に憎しみと叛意を抱き、自分とその子孫を含む人類すべてを滅亡させることを最高の理想としている人々の集まりである。ETOはVRゲーム『三体』を使って三体文化を広め、プレイヤーが一定のレベルに達し、三体文明の魅力に惹かれはじめると、三体協会が直接連絡をとる。プレイヤーの思想傾向をテストし、最終的な合格者を地球三体協会のメンバーとして迎え入れる。
人類に絶望した学識者が集まり、三体協会は大きな組織となり、やがて内部は3つの派閥に割れ、対立するようになる。,

三体世界は、千年以上前から、他の星系の知的文明の情報を監視していた。そして地球という世界の存在を知った。そこにはひとつの太陽が存在し、恒紀が永遠につづいている。つねに気候が温暖で、作物がよく育つそのパラダイスだった。だが、地球までの距離がわからない。そこで、監視員は「応答するな! 応答するな!! 応答するな」という警告メッセージを送った。もし返信が来れば、地球までの距離がわかる。
三体世界の元首は監視員に向かい、「おまえが送信した警告メッセージは、三体文明から生存の機会を奪うかもしれない」と断罪した。そして、光速の100分の1の速度が出る三体艦隊を地球の方角へ向けて出撃させた。8.6年後、地球からの返信が来た。地球の位置を把握した三体世界は、三体艦隊の第二陣をキャンセルし、科学執政官は陽子1個からなる人工知能「 智子  ( ソフォン )  」を開発した。2つの智子が地球へ向けて放たれた。智子は光速に近い速度で地球に到達し、粒子加速器の中に潜み、誤った実験結果を導きだし、宇宙背景放射全体をちらつかせる。

著者は、中国の 劉慈欣  ( りゅう じきん )  さん。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を執筆。本作は2006年から連載され、2008年に単行本として刊行されると、人気が爆発。中国のみならず世界的にも評価され、2015年、翻訳書として、またアジア人作家として初めてヒューゴー賞を受賞した。
訳者の大森望さんは、あとがきで、「小説のテーマは、異星文明とのファーストコンタクト。カール・セーガンの『コンタクト』とアーサー・C・クラークの『幼年期の終り』と小松左京の『果しなき流れの果に』を一緒にしたような、超弩級の本格SF」と絶賛しており、英語圏でもブームになったそうだが、はたしてそうであろうか。英語圏でブームを巻き起こした発端が、オバマ大統領(当時)、マークザッカーバーグCEO、ジェイムズ・キャメロン監督。日本では、新海誠監督が話題にしたり、『ダイヤモンド』『日経サイエンス』が取り上げたというから、そこにビジネスの臭いがしてくる。
葉文潔が紅岸基地でみたFORTRAN、汪?が思い出したMS-DOS――このあたりはリアルな技術史を下敷きにしたハードSFらしい展開なのだが、出だしが文化大革命なので、外国人としては、この世界に没入しにくい。VRゲーム『三体』も、世界史とは違う中国古典を読んでいないと面白みがわからない。
とはいえ、SFによる登場する太陽系に最も近い恒星系「 ケンタウルス座α星  ( アルファ・ケンタウリ )  」の異星文明を、「三体文明」として、ここまでリアルに構築した作品は初めて読んだ。また、三体艦隊が太陽系に到達するのに400年以上かかるという設定もリアルだし、そのために人類を絶望させる戦略にも「なるほど」と感嘆した。シリーズものとして、400年にわたる大河SFを書けるようにするための伏線であるような気もするが‥‥。
三体シリーズが「超弩級の本格SF」になるかどうかは、今後の展開次第だろう――と思いつつ、気が向いたら、次回作を買ってみようと思う。






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最終更新日  2025.10.27 12:06:26
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