Sep 3,1980(Wed)




毎日聴きつづけているが、私にとってエヴァンスの演奏は飽きる暇がない。
演奏の完成度としては、この作品は彼のクオリティとしては並以下かもしれない。
だがそんなことはどうでもいいと思える。
なんと壮絶な演奏だことよ。
マーク・ジョンソン曰く、
「死ぬ2週間前のキーストン・コーナーはまさに特別な心に染み入る演奏だった。客席は取り付かれたように静まり返って聴き入っていた。テープに残して置けなかったのは残念だ。」
と語っていた。 その演奏が残っていたのだから、これは奇跡とも言えるだろう。
晩年のエヴァンスの演奏は、技術面では衰えを見せていたのかもしれない。
全盛期の演奏と比べると、何かが内面から変わっている。
技法的にいうと、ダイナミックレンジが広くなった、メロディとリズムとの置き換えの多用等々…
それはこのトリオに出会ったがゆえに寄るものか。
高木宏真氏のいうところの"エヴァンスが病魔に負けてゆくドキュメンタリー"は進行してゆく。
テクニックを超えた感動的な演奏でもあり、それが素晴らしいかどうかは他人が決めるものではないのかな。
この日のファーストセットも定番『Re:Person I Knew』から。
何か目立つものがあるというのでもないが、気持ちがかな~り技術に先行していっているような…
『Tifany』は相変わらず美しい。途中、ジョンソンが上手く引っ張ってゆく。
深い叙情をたたえた演奏だ。
『Your Story』が表現する世界は日を追うごとに幅広くなってゆく。
悲しみも喜びも全て含有したいい演奏だ。
あとは喜びしか残ってないというところまで悲しみを表現している…
この日の『My Romance』は少し、抽象的な方向に振っているか。


夜の部に入る。
これまであまりレパートリーに入っていなかった曲が並んでいる。
もともとエヴァンスは曲についてはそれほど思い入れ等があるわけではなく、よい演奏を引き出すための材料でしかないという面も強いが…
このセットはあまりにも消耗しすぎていたのか、いつものような過度の繰り返しが見られないように思う。
『The Two Lonely People』の演奏は昼との対比が興味深い。
昼には決まらなかったコードの置き換えが綺麗に決まっているような…
体調とは裏腹に精神力が充実していることの証明か。
『A Sleepin’ Bee』『haunted Heart』はこの頃にはあまり演奏されなかった珍しい曲だ。
『Five』でこの夜は終わる。


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