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2010.12.07

「ルビアンの秘密」に次ぐ鯨統一郎のジュブナイル向けミステリーだ。

○ストーリー
〈カープ〉を世界一の探偵事務所にしたい。夢だけは大きい18才の新人探偵アンナは，一緒に育った猫が死んだことで，耳が全く聞こえなくなってしまう。だがそれによりアンナには不思議なチカラが目覚める。

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前向きな性格だが，かなり天然なところのある主人公・アンナは，不思議なチカラを手にしたことで，探偵として認められていく。あっけらかんとしたサクセスストーリーで，次々に訪れる不幸も逆にきっかけとなり，アンナは探偵事務所の2代目社長にまでなってしまう。

連作短編集だが，ミステリーとしてきちんと伏線があったのは，第1話だけだ。先へ進むほど，表紙とイラストの本秀康（もとひでやす）のポップなイラストとピッタリな，ライトでご都合主義な展開になって行く。

第1話は100ページ近くあるものの，先へ進むほど1話あたりのページ数が50ページ程度と短くなっているのも，先細りの印象だ。

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だがこの作品の一番の欠点は，主人公が成長しないことだろう。不幸が訪れたことにより，新しいチカラを手に入れるのだが，結局はそのチカラに頼り切っているだけで，本人が知恵を絞って事件を解決しているのではない。

別に小説なんで，いろんなパターンがあって構わないが，ジュブナイルをターゲットにしているのだし，ライトな甘口だけでは飽きてきてしまう。

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鯨統一郎ファンとしては，毎度おなじみのテロ集団〈十新星の会〉の登場をチェックだ。

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「Aは安楽椅子のA」：ドジな新人探偵のアンナは，自分の首を賭けて，首探しの依頼を受ける。その時，アンナに不思議な奇跡が訪れる。・・・なんだこのイジワルな社長と，親切な先輩は？と驚く。第1話なので，きちんと事件に伏線と謎解きがある。

「Bは爆弾のB」：アンナの死んだ知人はテロリストだった？しかもその犯人として疑われていたのはアンナだった。・・・ワンパターンも鯨作品の特徴だが，このパターンはかなり強烈。事件は既にかなり強引な展開。

「Cは地下室のC」：探偵事務所の女社長が死んだ。しかも土日の間に餓死をしていた。不可能犯罪にアンナが挑む。・・・事件の状況はひじょうに魅力的だ。けれども，密室のでき方，犯人の侵入方法，餓死の理由と，どれも不自然過ぎる。

「Dは電気椅子のD」：あと一週間後に処刑が迫った死刑囚の冤罪を晴らしてくれ。アンナの推理は死刑囚を救うことができるか？・・・似たような事件が現実に起きているので，内容を茶化したような物語に不謹慎な印象を受けた。

「Eは英語のE」：英語しかしゃべらないはずの人物が，電話で日本語の言葉をつぶやいた後に，車で壁に突っ込んで死んだ。果たしてこれは自殺なのか？・・・言葉遊びは面白かったが，謎解きはほとんどギャグ。

「Fは不感症のF」：高齢で厳しい大学教授の依頼は，愛人の不感症を治すことだった。・・・なんでこんな短編を入れてしまうかなあ？推理のロジックは悪くないが，ジュブナイル作品に入れるのはやめるべき。

「Gは銀河のG」：密室で宇宙飛行士が死んだ，無重力状態で事故にあったように。・・・この短編も事件は面白い。だがトリックと言えない乱暴な結末で，あきれてしまった。

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