10/23(火)
忘れられた名前
今日は出勤日。小雨が振り出しそうな寒い夜。
早い時間はお客さんも少なく、そのせいか店の温度自体がひどく低い。
常連2名とママを含め女の子3人で、昔話をしたり、これから先の人生の展望
について夢をみたり…うつらうつらと居眠りをしそうなのんびりした夜だった。
寒いからアルコールをたくさん飲んであったまりたいところだけど、
常連さんから3人でよってたかってご馳走になるのはやはり気が引ける。
いつも思うことだけど、この商売には暗黙のルールがある。
一月の収入の大体を把握しているお客さんに足しげく通い続けてもらうには、
やりすぎはタブーなのだ。3人が3様にそんなことを計算しながら、そんなことを
かけらも考えていないような顔を浮かべて大笑いを続けていることを、
お客さんはちゃんと知っている。ごり押しをしなくても、
「今夜は好きなだけ飲めよ。」とお金を支払う彼自身に言わせることが
プロの仕事なのだ。
にしても、暇だわ~と思っていると、知っている顔がドアの隙間からこそっ。
「まあ、久しぶりー!!元気だった?さあ座って座って!!」
と腕をひっぱりながらカウンター席についたお客さんは嬉しそうに照れながら、
「よく俺のことおぼえてたな~?!」と頭を掻いている。
が、名前は全然覚えていなかった。
その答えを探すようにしばらく灰皿に視線を集中させたが、
もちろん灰皿はなんにも答えてくれない。まいったなあ。
「こないだ私すごーく酔ってなかった?自己紹介もせずに飲んで
ばかりだったよね?お名前聞いてなかったでしょう?」
ひどい。これじゃただのいい訳だ。でも、何時までたってもボトルが
出てこないのはもっと失礼だろう。決心してそう口に出すと、くすっ。
「○○だよ。りえさあ。お前相変わらずだな。そんなに一生懸命に
ならなくてもいいよお。忘れてたんだろ。それでいいじゃん。俺はそんなこと
全然
気にしないからさあ。 まあ一杯飲みなよ
」
お客さんに慰められてどうするよ私。最低最悪プロ失格。
心の動揺を見せないようにしつつも気の小さい私は仕事が退けて
帰っきてからも、頭が禿げ上がるくらい真剣に反省している。