昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

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水物語12

お辞儀バニー
クラブ時代~vol.5
ナンバーワンミホの場合

前に、ビビアン・スー似のかわいい子と仲良くなり、その子が、店始まって以来の
ナンバーワンに化けたって話は書きましたよね。
その子の名を仮名としてミホとします。
その子は、私がその店で働いていた頃のことを思い出す時、忘れることのできない
大きな存在なので、今日は彼女について語りたいと思います。

ミホは15歳の時、複数の男にレイプされて、それ以来、「男なんて信用できた
もんじゃない」と一貫して考えるようになった。
「りえちゃんにはわからないと思うけど、私あの時本気で死のうと思ったの。
 踏み切りまで行って、何時飛び込もうかって考えたのよ。」
そんな彼女が5年たっても生きて来られたのは、バレエの魅力のお陰だといつも
言っていた。
何故、彼女がこの業界にやってきたのか?ロンドンにバレエ留学する資金を貯める
ため。と名目上彼女は言っていたが、もっと親しくなってから、
男に復讐するため
であったことが判明した。
「あいつら、バカなんだもん。いい子にしてれば何でも買ってくれるし、いい気味
 よ。」
と彼女はいつも言っていた。
そんな彼女の接客スタイルは、多重人格的やり方だった。実際彼女は恐ろしい
ほどの多重人格者だったのだが。
普通、指名が重なると、お客様同士がお見合いすることにならないように、
なるべく死角になる席にセッティングをするのが、この業界の常識である。
そうしないと、相手方の席に行っている指名した女の子の姿を見て、お客様が
嫉妬してしまうこともあるから。
彼女はそれを巧みに利用して、お客様好みの女を上手に演じきっていた。
例えば、少女のような純粋な女の子が好きなお客様の席では、こくりこくりと
うなづくだけで、時々恥かしそうに微笑み、自分の方から決しておねだりをする
ことはなかった。逆に、気が弱く話ベタで、Mっ気のあるお客さんに対しては
壊れた水道の蛇口のように話続け、「あんたそんなんだからダメなんだよ!」
と説教までたれていた。
悪戯っぽくウインクをしたり、酔ったふりをしたり、彼女いわくキモイ客の耳元
でささやいたり、本当の彼女はどこにいるのか?誰もわからない。
でも、楽しくてやめられない。そんな非現実的世界の女王様的雰囲気を彼女は
持っていた。
私は、どちらかと言うと、休まない・マメな連絡を欠かさない、という古い型の
仕事を頑なに守る方だったし、お客様からプレゼントをもらうことに
抵抗がある方だったから彼女のやり方はある意味新鮮だった。
彼女は着々と指名数を増やし、あっという間に、水着デーで蛇皮のビキニを着た
お姉さんを抜いてトップに踊り出た。
今までの均衡が崩れ、成り上がり者にトップを盗られたと言う事で、多少の動乱
があったものの、彼女の不動ぶりに誰もが小さくならざるを得ない時代が訪れ
今まで冷たくあしらっていた連中でさえも、彼女にやさしく微笑みかけ、
おこぼれを貰おうと必死の攻勢に出始めた。
「ばっかみたい。」と彼女は言っていたが、私もそう思った。
そんな不動のNO.1の彼女は、男に復讐を楽しんでいるようで、その実、馬鹿な男
に貢ぎ続けていた。
彼女が貢いでいた男は、店の従業員だった。永沢(仮名)は、どうしようもない
タラシで、永沢がミホと付き合っている間も、私に誘いの言葉を囁くような
トンチキ野郎だったが、彼女は好きでたまらなかったらしい。
「彼の実家に行って、お母さんに会ってきたの。スナックをやっててね。借金が
 多くて大変みたいだった。だから…」
「あんたまさか…」
「だって、将来はお嫁さんになるんだし…見捨てられないでしょ。お金貸して
 あげたんだ。」
「……。それで、いくら貸したの?」
「300万」
「……。」
「そんな怖い顔で見ないでよお。りえちゃーん。」
彼女は、あの馬鹿男と本気で結婚しようと思っているらしく、奴の母親に300万
貸したばかりか、永沢自身にも借金返済のための200万を肩代わりしたという。
彼女のロンドン留学の夢は、その貯金残すところ50万を切っている。
 ある日、お見送りを終えて、店に入ろうとしたところ、永沢が、入口の壁に
もたれかかって、私を見てにっこりと微笑んでいた。その目は遠くを見つめて
いるように見えたので、もしかすると私の後ろにある、駐輪場の自転車に微笑ん
でいたのかもしれない。
足早に店に入ろうとしたところ、
「立派だね。りえちゃんはきっと売れっ子になると思ってたんだ。」
と背中に抑揚のない声が突き刺さってきた。
「もうミホもそろそろ落ち目だし、今にりえちゃんの時代がくるよ。」
その言葉にカチンときた私は
「でも、そのミホのお陰で、今あんたはメシ食ってるんじゃないの?」
と言い返してやった。
 「誤解されてるみたいだけど、俺はあいつに何かを頼んだことなんか1度も
  ないよ。りえちゃんは友達だから聞いてると思うけど、おふくろのこと
  だってあいつが勝手に買ってでたことなんだ。でもさ、あいつは俺に金を
  使う。俺はあいつに貢いでくれる客を紹介する。あいつは売れっ子になる。
  店は喜ぶ。晩万歳じゃない。」
黙って店に戻り、もう2度と永沢とは口を利かないと誓った。
後でわかったことなのだけど、彼は彼女と付き合っている事を幹部の連中に漏ら
し、その代わり、彼女を
飼い殺しにする
ことを約束していたらしい。
飼い殺しとは、読んで字のごとく、死ぬまでこきつかうことを言う。
この業界ではつまり、客がとれている間は、本人が辞めたくてもあの手この手で
辞めさせないようにすることである。
ミホはその後、半年間トップの座を守り、妊娠をして辞めて行った。
その子が永沢の子であるかどうかは、彼女も最後まで話さなかったし、彼女が
その後どうしているのかも分からない。


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