昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

水物語22

お辞儀バニー

同伴出勤~クラブ時代Vol.7

同伴出勤とアフターについては、私はお客さんに教えられることが多かった。
店に入ってまだ1週間しか経っていなかった頃、やっと何人かの人から指名を
もらえるようになり、
「今度同伴してあげるよ。」
と言われた時、そんなこと、私にはできない。と不安で胸がいっぱいになった。
当時の私は、同伴出勤というのは、お客さんとお店に来る前にホテルに行くこと
なのだと思っていた。真剣に。
私は泣きそうになりながら店長に相談に行ったところ、
「お前はまだ同伴なんてしてこなくていいよ。」
と言われ、
「でも、長くなってきたらしなくちゃいけないんですよね?」
と半べそをかきながら言うと
「まあ…そうだな。でも、それもすぐに慣れるよ。」
という店長の言葉に
「お客さんと寝ることに慣れたくなんかないです!そういうことをしろと言う
 のなら、すぐにでも辞めます!!」
と私は言った。
「はあ??別に寝たくなきゃ寝なきゃいいだろ。店に来る前に食事ぐらいは
 付き合ってやれるだろ?」
「……???」
「あの…店長、同伴ってどういうことをすることを言うんでしょうか?」
「……。」
「あのね、お前本当に何もわかってないんだね。普通は同伴出勤してくるまでの
 お客さんとの過ごし方の中身まで指導なんかしないんだよ。
 さっきお前が言ったように、ホテル行ってから来たって構わないし、喫茶店
 で10分お茶して連れてきたっていいしさ。そんなのは社交(私たちはこう呼ば
 れてました)とお客さんの普段の付き合い方に寄るんじゃないの?
 まあ、一般的には出勤1時間前くらいに待ち合わせをして食事してくるのが
 オーソドックスだけどね。」
私は自分がどんどん赤面してゆくのを感じ、挨拶をすると店長室を早々に引き上げ
た。誰か女の子に相談するんだった。恥ずかしい。でも、とりあえず体を売るよ
うなことはしなくていいのね。良かった。心臓はまだバクバクしていた。

 私が初めて同伴出勤をしたのは、入店してから3週間くらいしたころだったと
思う。私は1番オーソドックスなやり方を実践し、6時に待ち合わせをして食事
をし、7時に店に連れてきた。お客さんは自営業で時間に融通が利く為に、最初
新宿か六本木か渋谷かそのあたりに5時とふざけたことを言ってきた。移動が
全て彼の車であることが気に入らなかったので、なんとかごまかして、お店の
ある街で食事をすることに…
そのお客さんは店を辞めるまでお世話になった大変良い方だったが、私の頭の中
には、「お客さんの車に乗る=ホテルに連れ込まれる」図式が出来上がっており
最初のうちは、頑なに乗車を拒否していた。
同伴出勤が店にもたらすメリットは、ただじっと待っていなくても、とりあえず
早い時間にお客さんが入ることであり、普通の指名料よりも高い値段を取ること
で、早い時間の売上単価を上げることができる点であった。
女の子の側のメリットは、同伴指名料がもらえ、出勤時間よりも1時間遅れて入店
しても、その1時間分のお給料を補償してくれることにあった。
そしてお客さんの側のメリットは、2人で食事をしている間はただダラダラと
延長料金をとられることなく、楽しく過ごすことができる点であり、女の子に恩
を売ることで、今までよりも大事な扱いをしてもらえることにあった。
メリットは三つ巴のように見えて、やはりお金を払う立場はお客さんただ1人
なので、お客さんが感じるメリットなんて小さなものだった。
私は、進んで何度も同伴をしてくれる人は、段々気の毒になってきて、時々
手作りのお菓子をプレゼントしたり、たまには食事をご馳走したりもした。
ミホはいつも当然のことのように、お客さんにご馳走させて、アクセサリーを
買わせたりしていたけれど、見返りを期待するお客さんからどのように切り抜け
ていたのかは、未だに謎に包まれたままである。
ある日、今の私と同じくらいの年齢のお客さんにボーリングをしてから店に行こう
と誘われたことがあった。
彼は店の近所の会社の人間で、ゲームソフトを作る仕事をしていた。
彼は、社長に連れられて来た時に、私のことを気に入ってくれて、その後、自分
のお金で通ってくれるようになったのだが、正直言って安月給のため、月に2回
ぐらいしか来れないような人だった。
彼との同伴は土曜に決まり、午後2時待ち合わせという普段では考えられない
異常に早い時間だったが、2人でボーリングをし、散歩をして、晩御飯を食べて
楽しく過ごせることができた。2人で店に向かって歩いている時
「今ここで、お店に行くのはやっぱり止めたって言ったらどうする?」
と突然彼がつぶやいた。
内心結構焦ったが、
「う…ん。止めたとしたらどうするつもり?帰りたいとか?」
と穏やかになんとか言えた。
「帰りたい訳じゃないけど…今日俺に付き合って、早い時間から楽しそうに
 していたのは、 結局は店に連れて行くためだろ?
その通り。なんだけど、私は無理に楽しそうにしていた訳ではなかった。
目的は同伴出勤にあるけれど、一緒に遊んでいる間私は本当に楽しめた。
そのことを正直に説明すると
「じゃあ、俺の彼女になってくれる?」と言ってきた。
「わからない…」
「もともと彼氏ってすぐに作るタイプじゃないんだ。だから、正直言って今の
 ところそういう気持ちなのかどうか自分でもよくわからない。」
とかなり正直に言った。
彼は観念して同伴をしてくれたけれど…きっとうまくはぐらかされたと思ったの
だろうな。
同伴出勤をしてくれるお客さんは中年の家庭持ちの人が多かったから、こういう
ことを言ってきたのは、彼が最初で最後だったと思う。
本当に申し訳ないと今でも思うけど…店に連れて行くために付き合ったのかと
言われても言い訳できない。
それが同伴出勤という制度なのだから。


ホーム
ネクスト バック





© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: