昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

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水物語23

お辞儀バニー
11/26(月)

女をダメにする男になることなかれ!!

私の店のママは若くはない。
自分は結婚をしていて子供がいることを、大抵のお客さんは知っている。
だからかどうかは分からないけれど、カップルで飲みに来るお客さんが
結構多い。
カップルは大抵は夫婦だが、仲睦まじくしていても、なんらかの事情で婚姻
契約を結べずにいるカップルもいる。
結婚間近で一番楽しい時期を過ごしているようなカップルは来ない。
当たり前だ。彼らは他にもっと行きたいところがたくさんあるのだ。
長年こういう商売に浸かっていると、2人の関係が、前者か後者か、
この先もうまくやっていけるのか、いずれ駄目になるのか、
2人の様子を観察して、少し話をすれば、自ずとわかってくる。
本日訪れたカップルは、大きな声では言いたくないけれど、「いずれ駄目になり
そうなタイプの2人」だった。
まず第一に致命的だったことは集団で話をすることができないという点だった。
男の方が気難しく、こちらが構えてしまうので、話が繋がって行かない。
 「ねえねえ、もう終わり。なんで~、どこがオチだったの?」
彼女の方が酔っ払いながらケタケタ笑う。
 「お前さ、歌歌いなよ。歌いたかったんでしょ。」
まだ酔いの足りない彼氏が彼女の言葉を遮るように言う。
本当に誰かが歌でも歌ってくれないことには救い様のない沈黙がしばし続く。
「よしゃ。じゃあ歌っちゃおうかな?ええっとお…89714!!入れて!」
彼女は殆ど1人で歌い、1人ではしゃいでいた。
彼女はこちらに気を遣っているのだ。
実際、飲めば明るくなるタイプで、自分のために明るくなったり歌を歌ったり
しているのかもしれない。
でも私には、その横で、自分の歌の時しか殆ど口を開かない彼氏の相手をするの
にうんざりしてしまった。
カップルで来ているお客さんにあまり個人的な話をするのはタブーだし、誰もが
盛り上がれそうな、最近の流行ごとの話をしても、彼1人だけがそれを知らず
ぷいっと横を向いてしまう。
何か、そうせめて1つだけでもいいから、彼のほうからの話題提供があれば
まだ助かるのに、ハンカチを振って大声で叫んでも気付いてくれずに通り過ぎる
かなた沖の船のように、助けはまったくやってこなかった。

「きゃっやめてよお。もう。酔ってきたの?」
本人も相当酔ってる彼女の胸を彼がいきなりわしづかみにしている。
私がぼんやりしている間に、彼はにやにやしながら、彼女の体の色んなところ
を触ってからかっている。
彼らは街で見かける高校生の馬鹿っぷるのように、突然2人の時間に入りだした。
ママが目配せをする。
どうやらいつものことのようなので、私は、別のお客さんのところに移動をした。

私も酔いが廻ってきたので、トイレに行ったり、たばこを買いに行ったりして、
すっかり2人のことを忘れて店に戻ると、荷物を置いたまま2人の姿が消えている。
「何処に行ったんですか?この寒いのに。」
と私が尋ねると
「そこで出くわさなかった?踊り場で話をしてるんだよ。」
とママが教えてくれた。
「はあ?なんでわざわざ出て行くんですか?」
シーっ。いきなりママが私の言葉を遮り、2人は突然もめ出して、外で喧嘩をして
いるのだとささやいた。
私には、10分前まで、お互いの体に触れ合ってイチャイチャしていたカップルが
どうして喧嘩をしているのかさっぱり理解出来なかった。
ママももう1人の女の子も知らん顔を決め込んでいる。
痴話喧嘩は犬も食わないというし、その喧嘩もいつものことのようなので、
その2人に無理やり連れてこられたもう一人のお客さんと話をすることにした。
彼ら2人はどれくらいの時間席を外していただろう?
私がその間、2回トイレに行き、彼らの前を過ぎたとき、彼女はうつむいて泣いて
いた。

そんなところで泣く彼女も悪い。
でも、そんなところで、 女を泣かす男は醜い
と私は思った。男というのは、本人がどんなにそれを気に入らなくても、
男らしくあるべきだと私は思う。私が、女であることがどんなに嫌でも、
女を放棄せずに生きているように。
連れてきた自分の同僚をひとり置き去りにして、威張って帰ってゆく彼の後ろ姿
は格好悪かった。滑稽にさえ見えた。
2人は彼女が30代前半、彼氏は40代前半といったところだと思う。

たくさんの人が見ている前で、女を泣かせることは、本当に悲しいことだと
思う。
気分の悪くなる夜だった。



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