昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

水物語24

お辞儀バニー
クラブ時代~vol.7

華麗なる指名争い!!

「ベルサーチ軍団」に水をぶっ掛けられるまで、指名に興味が無かったという
話は前に書いたが、競争を掻き立てる立役者は他にもあった。
それは「グラフ」である。
店長室と女子更衣室にグラフがあり、同伴は「金」指名は「ピンク」場内指名は
「緑」のシールが貼られる仕組みになっていた。
指名本数が多くなると、入り口に設置してある自分の写真の位置が真中に移動し
グラフの名前の場所も真中に移動するシステムになっていた。
私は最初、当然何にも知らなかったので、自分の写真がどこに貼られているのか
グラフの名前が何処にかいてあるのか、全然注意をはらっていなかった。
何故かたまたま写真指名が重なった日に場内指名も重なって、その日だけで
ピンク2枚緑3枚が貼られた時、月始めですっからかんだったグラフに自分が
抜き出ているのを発見して、その優越感が私の上にしみのように張り付いて
取れなくなってしまい、動乱に自ら殴りこみをかけることになったのである。

指名が取れる子の違いと永遠にヘルプの子の違いって
なんだとお思いになりますが?

私は走りながら、それについて真剣に考え、自分なりに1つの結論に帰結した。
それは以下の3点である。
「常に相手の身になって考えること」
「対応力に柔軟性を持つこと」
「休まないこと」
「それでも駄目なら終わりを見極めること」


指名ナンバーワンの子は必ずしも美人ではない。どちらかというと、どの店も
ぱっとしない子がナンバーワンを勤めている。
何故なら、いつもちやほやされてすっかりスポイルされたきれいな女は
マメな努力を怠るからである。
そして口説いている本人も手の届かない女に大金を貢いでいることに早く
気が付いてしまうのだ。

そこそこかわいくて、そこそこ親しみやすくて、そこそこプライドがある
というのが理想的なのだ。
ミホはその点、プライド意外はそこそこに適っていたからナンバー・ワンとして
半年間ものあいだ君臨することができたのだろう。
ヒョウガラビキニの前ナンバーワンのお姉さんは親しみやすさと言う点がイマイチ
だったように思う。

どちらにしろ、強敵揃いと刃を交えるには、私オリジナルのやり方を考えなくて
はいけない。
私は色々な席のフリー客を回りながら、他の女の子の接客方法を眺めていた。
全員判で押したように同じ動作を繰り返している。
1挨拶をする
2小さなバッグから名刺をだす。
3お名刺交換お願いしますという
4もらった名刺をしまう
5パチン

私は挨拶をした後、昔からの知り合いのように、本日のニュースネタから話し
始めるようにした。相手を見極めて、それから名刺を渡したって遅くはない。
相手の名刺だって、むやみやたらにもらうものではない。そう思ったから。
5分も話をすると、自分を気に入ってくれたお客さんなら必ず言ってくる。
「そう言えば君の名刺もらったっけ?」
「次のお店でコースターにされちゃうんじゃないかと思って(笑)
 大事にしてくれます~?」
「いいから出せよ。」
「ああ、待ってください。今書きますから(笑)」
と言って、裏面に自分の出勤日と店の電話番号を書き込む。
「店の電話はいいよ。自分の番号書けよ。」
「お客さんの番号は?携帯かベル持ってます??」

という感じで、自然な流れを作って名刺交換するように心がけた。
何故なら、印象づけたかったから。どんなに綺麗な子でも一晩寝たら忘れられる
ようでは、この世界で指名をとるのは無理だ。
じゃあゆっくり話をすればいいと言うことになるけれど、当時まだ景気がよかった
お店の9時以降は、10分単位で他の席へ移動させられる。
短時間で強烈な印象を残すには、まわりと同じことをしていてはだめなのだ。

私は会社を辞めてから、サラリーマンの話についてゆけなくなるのが恐かったので
1新聞を読む
2芸能・スポーツチェックを怠らない
3前日来てくれたお客さんの名前・滞在時間・遣った金額をまとめておく。
4新規で入手した名刺のチェック。
5本日来る予定のお客さんに小さな手紙を作成。
6同伴のお約束電話。ご機嫌伺い電話。

等を行っていた。パソコンが家庭に1台ある時代ではない。携帯電話だって
ボロくてでかくて高い時代。
私は自分でいうのもなんだけど、休まないということとマメであるということ
だけは徹底していたように思う。
1ヶ月30日中29日出勤したこともある。1日は店で勤めている最中39℃の熱で
酒を飲んでいたら倒れて、ボーイに連れられて救急病院に行ったというもの。
ケバケバのお姉さんが、蝶ネクタイをつけた若い男の子に連れられて
救急病院に行くというのは、結構すごみがある。

休むと、誰かとデートをしていたんだと勘ぐられるのが嫌だったのだ。
休んでいる間にたまにしか来ない指名客が来て、ヘルプで着いた「ベルサーチ
軍団」の1人にあることないこと囁かれるのも心配だった。
実際そういうことがあったし。

しかし何はともあれ、努力のかいあって、ある程度のレベルまでは昇ることが
できた。しかしこの世界、自分の努力だけではどうにもならない。

売れっ子の女の子の紹介指名とフリーに付けてくれるホール主任の男の子との
人間関係が大変大事なのだ。
1ぴきオオカミでは絶対にナンバーワンにはなれない。

今思えば収賄のような気もするのだが、私は
店が終わると、店にいた6~7人のボーイの1人に、1000円札を渡し、
「これで皆でジュースを買って飲むといいわ。」
と言っていた。たったジュース1本でも、彼らからの情報量は驚くほど増え
いいお客をどんどん廻してくれるようになった。
ミホとも仲良しを装った。
グラフのシールがタワーを築き、入り口の写真が中央に設定され、
しょっちゅう店長に高い寿司をご馳走になることになった。
そんな風にして階段を昇りながらも、私はもっと大切なものを少しずつ失うこと
になった。それに気付いたのはずっと後だったけれど。 


ホーム
ネクスト バック




© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: