昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

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水物語25

お辞儀バニー

インドの打楽器奏者のように…
12月4日(火)

11月いっぱいで2年半勤めていた女の子が辞めたので、12月よりシフトが少し
変更になった。当初増員はしないという話だったが、月曜日だけ働きに来る子
が入ったので、私は月・火・木から火・木・金に変更になった。
そして火曜日は私とママの2人でやることになった。
今日は2人だけでやる最初の日。
お天気も悪いしどうせ暇だろうと多寡をくくってカウンターで読書に励んでいると
見慣れた顔ぶれが後から後からやってくることに…
お客様が入ってきた時に、まず最初にすることは、おしぼりを出すこと。
客席側に廻ってコートを預かりクローゼットへ。
お客様のボトルを出してお飲み物を出す。
それからお通しの盛り付け。スナック菓子の準備。
大抵のお客様はたばこを吸うから、お通し盛り付け前に灰皿を出す作業も
入る。
マクドナルドのマニュアルよりも簡単そうなこの作業。
レジの前で「少々お待ちください。」と言って、全部が揃うまで誰とも口を
きかずに済めばそりゃあ簡単に違いないだろう。
でも、お客様は私が一連の作業をやっている間、話し掛けてくるし、誰かの
水割りを作っている途中に新しいお客さんが入ってきたり、
「ビールをくれ」と突然言われたりもする。
「144850」と、突然カラオケのナンバーを叫ぶお客様もいる。
優先順位を守りながら、全員のお客さんに気を配り、しかも売上のために自分も
飲まなきゃいけないとなると、正直言って酔ってなんていられない。
大脳だか小脳だか視床下部だかなんだかわかんない部分をフル回転させて
指先を動かし、時には足を使い(笑)、目配せをしてママと無言で役割分担を
しながら、忙しさを乗り切るのである。
昔「ノルウェイの森」を読んだ時、緑が料理する様子を後ろから眺めていた
主人公のワタナベくんが、緑の姿を「インドの打楽器奏者のように見える」
と比喩していたけれど、まさにそんな感じになる。
氷がすっかりなくなったアイスペールに氷を補給するついでに、お通しの入った
鍋に火をつけ、ウイスキーのおかわりを出しながら、灰皿の吸殻に目を走らせ、灰皿を交換したところで火を止めて新しいお通しの盛り付けをする。
その間トイレに立ったお客様のためにおしぼりを出し、女性がついていない
ボックス席に移動して全員の飲み物のおかわりを作成。丁度入ったカラオケの
曲に合わせて手を叩きながら立ち上がり、笑いかけながらまた空になったアイス
ペールに氷を補給。
クラブにいた頃と違い、ボーイが細細したことをしてくれる訳ではない。
ママに洗い物をさせるのは絵的にみっともないので、小さな時間を利用して
洗い物もこなす。
小さな店とはいえ、3人で仕事をすることに慣れてしまうと、久しぶりに2人きり
でボックスにまで団体が入ると、結構堪える。
水商売というのは、お客様に楽しく飲んで頂いてなんぼの世界。
恋愛ごっこを楽しむ架空空間で、飲み物を作りつづけるだけで精一杯とは
情けない話だ。
でも、収支を合わせるために、少ない人数でサービスが低下しがちになるのが
今の現状。
クラブ時代とは別の悩みに頭を悩ませながら今夜も時間が過ぎてゆく。
ありがたいことは、カウンターの中で世話しなく動きながらも、一生懸命やって
いることにお客さんが気付いてくれていること。
私は時々お客としてお店に遊びに行くので、お客様の席からカウンターの中を
眺める機会が何度もある。
カウンターの中にいるだけでは気付かないことがたくさん見える。
不思議なのもので、お客様の席からお客様を眺めると、どのお客様が退屈そうに
していて、どのお客様がイスから立ち上がれないほど酔っ払っているのかが
よくわかるのだ。
カウンターの中からは、私はどんなお客に見えるのだろう?

カウンターの中で1人きりで奮闘していると、時々横一列に並んだお客さんが
日曜日に動物園にやってきた観衆のように見えることがある。
その檻が「ナマケモノ」の檻ではなく
忙しく動き回る「アライグマ」の檻に見えていればいいのだけど…

今日も私は観衆を前に、たくさんの楽器を鳴らし続ける。
インドの打楽器奏者のようなアライグマとして…

イメージ湧きますか???



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