12/18(火)
正義はどこにある? ― 小さな声に耳を傾けたい。
占い通りなのかどうかはわからないけれど、
お店のカウンターでの読書タイムは21時30を回っても終わらなかった。
つまり、店を開けた19時30分から丸2時間、ひとっこひとりお客が
入らなかったことを意味する。
寛大なママが、無料でビールをいっぱいご馳走してくれ、彼女と2人で
小さなグラスに注いだビールをすすりながら、
店が潰れるかもしれないな
ポツリとママがつぶやく。
去年に比べて、今年の12月はひどく暇なのは前々から感じていた。
金曜日と土曜日にしか、席がびっちり埋まらない。
ママが溢す気持ちがわからなくもない。
でも、こんなことを言うと恩知らずと思われるかもしれないけど、
お客さんを呼ぼうという努力をしないママの方にも問題があることも
やはり確かな話。
「ママは電話なんかしないよ。」
といつも言っている。確かに、電話すれば来るってものでもない。電話なんて
しなくたっていいだろう。
私がいつも、非常に気になっているのは、ママには、どんなお客さんでも
(性格という意味でですよ)受け入れる度量がちょっと足りないような気がする
ということ。
つまり、自分が気に入ったお客さんは、足繁く通えるような雰囲気を作るのだが
気に入らない人のところには、挨拶だってしない。
帰るときにお見送りもしない。
常連さんばかりが集まっている時、たまたまふっと入ってきた「新規」のお客さん
を完膚なきまでに叩きのめすような「知らない奴には興味なし」といった感じの
雰囲気を作っている。
昨日も、店の暇さ加減について愚痴をこぼし始めたので
「ママは自分の好きなお客さんだけしか大事にしないじゃない。お給料の金額
は決まっているもの。これる時にしか来ないのだから、暇になるのは
しょうがないことなんじゃない。」
かなりキツイことを言ってしまった。
ママは、自分のガサツさを売りにしているようだけど、全てのお客様にとりあえず
挨拶することと、全てのお客様のお見送りをすることは、徹底してもらいたいと
心の中でずっと思っていた。
でも、ここはママの店であり、私はお金をもらっているだけのアルバイトの身分
だから、差し出がましいことを言うのが嫌だった。
どうしてはっきりと、ママを責めてしまったのか。
それはママが遠まわしに、女の子の人件費がかかって大変だということと、
私に電話をして客を呼ぶように促しているのがわかったから。
話がひとくぎりついたところで、最初のお客さんが入ってきた。
私が前々から
大っっ嫌い!!!
なお客様。
自分1人しかお客さんがいない時は、文句を言いながら長々といて、
1人でも他にお客さんが来ていると、「一杯」だけ飲んで、帰ってゆく
独身。ケチな金持ち。
私のシフトチェンジ式笑顔は、彼の姿を拝見しただけで、5段階くらいシフトダウン
したけれど、なんとか気持ちを奮い立たせて、ふかしながら3段階くらい一挙に
上げて
「いらっしゃいませ~♪」
と言った。
今夜の彼は御饒舌で、今年一年の感謝を込めてお寺に行って説教をきいてきた話
をし、自分も和尚さながら説教を始めた。全然ありがたくなかったけれど。
何故彼のことが嫌いなのかというと、偉そうにいばっているくせに、大変なケチ
で、何度も何度もしつこく文句を言い続けるところ。
例えばレストランでお給仕の子が間違って水でもかけようもんなら
「いいんだよ。間違えは誰にでもある。僕は寛大な男だから他の店で言ったり
しないからね。でも君はちょっと不注意だったな。もちろんすぐに忘れるよ。」
と、頭を下げて謝っている人間に5分置きに言い続けるような人間だからだ。
今夜もしつこいことこの上なかった。
自分が往復料金を払って参列した結婚式が、招待制ではなく、北海道独自の会費制
で、交通費と会費を合わせてたくさんの金を使い腹が立ったこと。自分は客で
金を払っているんだから云々と言った話。自分の結婚式にはもっと気を遣うと
言っていた。そんなことを心配する前に、どうしたらあなたの言ういい女と
付き合えるのか、そっちの心配をした方がいいだろう。それから銀行で保証人なし
で金を借りることが出来ないことに対する腹立たしさも延々と語っていた。
私はにこにこ笑いながら話を聞いている振りをしていたけれど、段々飽きてきた。
私は電話が鳴った振りをして、「すみません」とぺこりと頭を下げて店の外に出、
こんな時、もしかしたら来てくれるかもしれないお客さんにこっそりと電話を
することにした。1人電話が繋がったお客さんはもう家で寛いでいた。
「ああ、じゃあいいんです。ごめんなさい。」
と切ろうとしたところ
「いいよ。せっかくのお誘いだもの。飲みに行くよ。」
と言ってくれた。家が店から歩いてこれるところにあるとはいえ、本当に
ありがたい。私のただの我儘に文句も言わずに付き合ってくれるというのだ。
ウキウキしながら彼を待っていると、やってきた彼はなんと、私の大嫌いな
そのお客さんと知り合いだった。
彼は全てを把握したようで、嫌いな文句男の話を上手に聞き流し、私に
「どうぞ。何か飲まれたら。」
と自分の側に行ってもおかしくないようなお膳立てまでしてくれた。
文句男はそれからすぐに帰り、私は今までゆっくり話しをしたことがない彼の
話を、いい機会だから聞こうと思い、側に寄った。
彼の声は、小さくて少しくぐもっているので、側に寄って耳を澄まさないと
聞き逃してしまいそうになるのだ。
彼は自分で何かを語るより、人の話を聞くほうが好きなのだと前から言っている
けど、頭のいい人だし、何かを質問するとわかりやすくきちんと話をしてくれ
るので、話を聞くのが割りに好きな私は今夜は徹底的に彼の話が聞きたいと
思った。
ところが、ママが彼の横に座り、私が彼にした質問にかぶるように、全てを自分
のことに置き換えて話始めた。
はああ。ママ、その話
200回は聞いてるよ。私たち
私の心のつぶやきを無視して、今夜も話好きのママのオンステージが
うしみつ時まで続くことになった。