昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪

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水物語40

お辞儀バニー
達成感と焦燥感

クラブの話に戻ろう。
みほが去った後、不動のナンバーワンが消えたことで、店の幹部は
さぞかし頭を悩ませたことだろう。
今まで考えられなかったような女の子が週代わりでナンバーワンの地位を獲得
したけれど、指名数はみきの半分にも満たなかったような気がする。

私はただ、お金が欲しかったけれど、どうせやるなら一番になりたかった。
それもただの一番ではなく、お客さんが本当に私を指名して良かったと思える
自己犠牲の上に成り立つ一番に。

私は体を売らないという絶対的な信念を掲げていたけれど、
情に訴えられて知らん顔できるほど薄情でもなかった。

私は私に会いにきてくれる全てのお客に対して分け隔てなく、楽しい時を作る
努力をし、体が許す限り、アフターに付き合ってべろんべろんに飲み歩いた。

朝起きると、というか起きるのは殆ど昼過ぎだったけど、
前日に来てくれたお客さんの名前、いた時間、彼らが払った金額、話した内容
を手帳に書き込み、全員に短い手紙を書いた。
今のようにメールが発達した時代ではない。
電話でひとことで済むところをわざわざ手紙にするところが狙いだったのだ。

夕方にたくさんのお客に丁寧な電話をし、その日の同伴客をゲットする。
お客の収入に合わせた夕食をとり(お客によってはデニーズになる)
お店に出勤。
高くておいしいものを食べさせてくれるお客も大事にするけれど、マックで
500円のセットを一緒にほおばるお客も大事にした。

そうした庶民的な戦略が受けたのか、ある日私は不動のナンバーワンになっていた。在籍100人の女の子を抱える店で、毎日指名ナンバーワンをとった。

女の子の競争心を煽るためだけに開かれる、お店終了後の指名ナンバー3発表会で
毎日私が10本の指名を取ることで、女の子の態度がすっかり変わってしまった。

あくまでも意地悪を続けるベルサーチ軍団も頭の上がらない古いお姉さんが、
すっかり私の味方をするようになったのだ。
おこぼれの紹介指名を欲しがっていることは一目瞭然だったが、ベルサーチ軍団
にいじめ抜かれることを考えるとどうしても利用してしまう自分がいた。

私がナンバーワンをやった期間は3ヶ月。
今思えば血を吐くような3ヶ月だった。

一度一番になってしまうと、その地位を守れなくなった時が引退時なのだと
思った。相撲界と一緒。
横綱は横綱でなくなる時に引退するしかなくなる。
一度落ちて再チャレンジはありえない。

私は自分の地位を守ることに固執してゆき、ある時お客さんのことよりも
自分の地位や収入を第一に考えてしまっている自分に気づき、自分の醜さを知り
ホトホト嫌になった。

いつも成績を気にして焦っている自分がいる。
都合が合わないというお客様に「どうしても来て欲しい」と駄々をこねる。

そんなにまでして私が求めていることってなんなんだろう?

私は虚ろな気持ちになり、うまく眠れなくなり、きらびやかな世界において、
自分はなんて孤独で、敵の多い環境にいるのだろうと思った。
もしかしたら、みほも同じ気持ちだったのかもしれない。

私はわけもなく涙が出ることが多くなり
やがて店を辞めた。

お店最後の日には、今まで自分を応援してくれたたくさんのお客さんが
訪れ、私も気を張って笑顔で去った。

あの経験が良かったことなのか悪かったことなのかよくわからない。

ひとつ言えることは、何事も極めるということは、ある程度の犠牲の上に成り立っているのだと言うこと。

あのまま続けていたら、私の心は完全に壊れていたことだろう。
それを甘さと言う人もいるかもしれない。
でも私は自分良心を捨ててまでお客を利用することはできなかった。





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