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黒澤明監督のこの映画は、50年ほど前の映画だが、映画史上不朽の名作である。 ところで、この映画に一つのミスティリーがある。それは、七人の侍のうち、映画の上では三人の侍が生き残るが、出演した俳優の実人生とは、逆になったということである。 この映画では七人の侍のうち、四人が死ぬ。いずれも種子島(鉄砲)でやられている。残った三人は、俳優では、志村喬、加東大介、木村功である。ところが、実人生では、この七人のうち早く亡くなったのはこの三人。逆である。ミスティリーである。しかも、七人の中で、一番早く、種子島にやられるのは、前哨戦での、俳優千秋実であるが、実人生では、彼が七人のうちで、最後の99年に亡くなっていて、かつ、一番長生きであった。 そこで、下記のように、一覧表でまとめてみた。人物名役柄俳優映画上の生死順実人生の生死順勘兵衛リーダー志村喬生き残る 82年2月74才3五郎兵衛参謀稲葉義男本戦初日戦死298年4月77才6七郎次名秘書役加東大介生き残る 75年7月64才1平八温和な調整役千秋実前哨戦で戦死199年11月82才7久蔵孤独な剣の名人宮口精二本戦2日目戦死385年4月72才4勝四郎雑用係の若者木村功生き残る 81年7月58才2菊千代反抗的な乱暴者三船敏郎本戦2日目戦死497年12月77才5 ちなみに、巨匠黒澤明は98年9月に亡くなっている。88才であった。 こういう個性的な名優ぞろいの映画はもうできないであろう。 「七人の侍」の前半は町での七人の侍の編成と、村に行き戦いの準備(人的、物的資源の準備)をするのが中心である。面白いのは組織つくりで、いろいろな性格・技量の人材を選抜している。プロ野球の巨人のように、ホームランバッターばかり集めるような組織つくりではない。組織の妙を心得ている。 後半は、いよいよ、四十人くらいの山賊との戦いである。前哨戦があるが、本番の戦闘は、村の中の二日間となる。最後の日は、残った敵十三騎との雨中の戦いとなる。戦いの始まる前、「一本の刀じゃ五人と斬れん」と菊千代が刀を何本も土に刺しているシーンがある。 いろいろ、失敗もあったが、ようやく賊を殲滅する。 映画の最後、戦死した四人の墓に風が吹きつけるシーンで勘兵衛は七郎次に「今度のいくさもまた負けだな。」と言う。七郎次が「エッ」と怪訝な表情をすると、勘兵衛は視線を田植えする農民に向けながら最後の有名な言葉を言う。「勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない。」
2006.06.06
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雇用の常識「本当に見えるウソ」私:著者は、日本の労働市場は非常に特殊だという。 「ジョブ・職務」と「メンバーシップ・帰属」という2つの概念を使うとそれが明確になるという。 日本では正社員になり、雇用契約を結ぶときは、「職務内容」は詰めない。 他の国のように「雇用=労務と報酬の交換契約」ではなく、「雇用=組織の構成員となること」だね。 日本では、正社員は職務でなく、会社に帰属することに対して賃金が払われる。 これを「職務なしの帰属:メンバーシップ・ウイズアウト・ジョブ」という。A氏:「タテ社会論」でも出てくるね。私:逆に、非正規社員は契約時に職務内容は明確だね。 しかし、メンバーシップは弱く、景気が悪くなるとすぐに首をきられる。 「帰属なしの職務:ジョブ・ウイズアウト・メンバーシップ」だね。 正規社員と非正規社員とは白と黒のように鮮明に別れる。 著者は、これに対して、グレーゾーンがあってもいいのではないかと提案しているね。A氏:「ほどほどのメンバーシップ・ほどほどのジョブ」かね。私:最後のほうで著者は、無用な主な対立軸は、若者対熟年軸、非正規対正社員軸、労働者対企業軸(企業悪者対企業かわいそう)、そしてアンチ小泉対小泉礼賛軸の4つになるという。 これが「竹中平蔵対森永卓郎」「八代尚宏対雨宮処凛」といった形でテレビにとりあげられた。 しかし、ワーキングプア→若年失業→塾年悪玉論は、実態と乖離しているだけでなく、子どもの学費負担が増えてくる熟年の給与はダウンしてきており、年代格差は縮小してきているという。 そこで著者は、戦後の日本をさかのぼっている。 1960年代、70年代までは、日本は中進国で賃金も国際的に低い方だった。 だから、国内の雇用は伸びる。 企業内の管理職ポストも増える。 国も失業者は増えないから、雇用保険の準備金は潤沢。 年金の積立も増えていく。A氏:しかし、1985年のプラザ合意以後の円高で日本は「世界一高い人件費」に悩まされることになるね。 並行して、原油高が企業収益を圧迫しだす。私:1989年のベルリンの壁崩壊で、経済のグローバル化が進む。 人件費が高いから雇用問題が深刻化する。 失業率増加や非正規の問題もこの時代の流れの中で起きてきた。 そこへ小泉政権が登場するが、誰が政権をとろうとこの問題は避けられなかっただろうね。 著者は最後に、移民など、いろいろな雇用改善策を提案しているが、急速に進むグローバル化や、日本の少子高齢化などの雇用市場の変化などに対しては、直ぐに効果ある名案がなかなか期待できそうもないようだね。A氏:しかし、必要なのは、感情的にならないで、事実をよく共有化して、その上に立って対策を考えるべきだね。私:まだ、若者の引きこもりとシャッター街の関係や、ワーキングプアと働く主婦との関係があるが、要するに、風評に踊らされないことだね。 この本は出だしで、「未成年による凶悪犯罪が昨今急増している」という風評の例をあげ、データでは「未成年の凶悪犯罪は激減している」ことを示しているね。 マスメディアには要注意だね。A氏:君のブログの「日本一早い平成史・1989~2009」での森達也氏も同じように「未成年による凶悪犯罪が昨今急増している」のウソを指摘して、「メディアリテラシー」の重要性を強調しているね。私:それにしても、来週の参議院選で各党がこりずにマニフェストを出しているね。 昨日、俺の家のポストに「みんなの党」のチラシが入っていた。 渡辺喜美氏の顔写真の裏に「アジェンダ2010」というのが書いてあった。 「マニフェスト」は詐欺の臭いがするとして「アジェンダ」としたらしい。 しかし、4パーセント以上の名目成長で10年間で所得を5割アップだという。 昨年、民主党は「財源なき社会保障」のマニフェストで失敗したが、「みんなの党」は「新しいビジネスモデルなき名目成長」だね。 「アジェンダ」にしても、カンバンを変えただけで、これも詐欺臭いね。 国民の「マニフェストリテラシー」が必要だね。
2010.07.04
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私:この連載欄は、安倍首相の過去をおっているが、今日の朝刊で興味をもったのは、吉田松陰について、作家であり昭和史にくわしい半藤氏の「吉田松陰」の評価だね。 A氏:安倍首相は、自身の一族を輩出した長州を意識しているようで、長州の生んだ幕末の思想家・吉田松陰についてもよく言及しているね。 安倍首相は2月の施政方針演説で、吉田松陰の「知と行は二つにして一つ・知行合一」という言葉を引用したね。 私:吉田松陰の言葉というより陽明学の有名な言葉だね。 半藤氏は「安倍さんは、吉田松陰をよく持ちあげる方だなあと思う。松陰の好んだ『千万人といえども我ゆかん』という孟子の言葉も使うが、安倍さんからすれば、自分が正しいと思ったことは実行する、自分の善意が通じなければ相手を攻撃していい、と思っているのだろう。安倍さんは長州の『腹くくる』の精神、つまり、討ち死に覚悟で行動する精神をかなり意識されているのかなあと」とインタビューに答えている。 A氏:このプログでも小島毅氏の「吉田松陰テロリスト」説を紹介しているが、半藤氏も「松蔭はかなり危険な思想家だ」と評価して、松陰の記した『幽囚録』には、ものすごい膨張主義・侵略主義が書いてあるという。言っている。 私:祖父の岸氏は日本の膨張主義、国威拡大主義のエースだったという。 半藤氏は「確かに東京裁判には戦勝国による復讐裁判という側面はあった。でも、そもそも向こうがこちらに来たのではなく、こちらが向こうへ山ほど押しかけているわけだから。日本国内だけの理屈ならば、『自存自衛』かもしれないが、国際社会の一員としては通用しない。日本はやはり戦争責任国なのです」と言う。 A氏:岸氏は戦後憲法をGHQによる「押し付け憲法」と批判しているね。 私:半藤氏は「戦後の婦人参政権などが加わった新選挙法による国民の選良が、徹底的に討議して、GHQ案に日本人の意思と気持ちをこめてどんどん筆を加えたものが憲法です。それが『押しつけ』なら、いまの(国会での)集団的自衛権の方がはるかに『押しつけ』ですよ」と言う。 たしかに国会討議での「首相のヤジ」など、国会討議での安部首相の集団的自衛権の「上から目線」の「押し付け」姿勢は松蔭に似て極端だね。 安倍首相は「平成の陽明学」者だね。
2015.06.09
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私:日本だけでなく外国でも観光客が急増しているという。 国連世界観光機関(UNWTO)の統計では、2000年から17年に世界の国際観光客到着数は2倍に増え、17年は7%の「高度成長」ぶり。 A氏:16年のランキングだと、日本は国際観光客到着数で世界16位だが、増加率が高く、12年から17年に3倍以上になった。 今や観光は日本第5位の産業だが、多すぎる観光客のせいで「観光公害」が出ているほど。 私:日本の国際観光客到着数の急増の原因を小熊氏は、世界各地を訪ねた経験からいうと、観光客からみれば、日本は「安くておいしい国」になったからだという。 ここ20年で、世界の物価は上がり、欧米の大都市だと、サンドイッチとコーヒーで約千円は珍しくないし、香港やバンコクでもランチ千円が当然になりつつある。 ところが、東京では、その3分の1で牛丼が食べられる。 それでも味はおいしく、店はきれいでサービスはよく、ホテルなども同様で、これなら外国人観光客に人気が出る。 1990年代の日本は観光客にとって物価の高い国だったが、今では「安くておいしい国」なのだと小熊氏は指摘する。 A氏:なお、00年から16年に、フランスは国際観光客数が7%しか伸びていないのに、日本は400%の伸び。 国際観光客数ランキング30位までの国で400%以上伸びたのは、日本・インド・ハンガリーの三つ。 この三カ国は、外国人観光客からみて「安くておいしい国」だといえるだろうと小熊氏はいう。 私:ここで小熊氏は、視点をGDPに置く。 「安くておいしい国」ということは、日本の1人当たりGDPが、95年の世界3位から17年の25位まで落ちたことと関連しているという。 「安くておいしい店」は、千客万来で忙しいだろうが、利益や賃金はあまり上がらず、観光客や消費者には天国かもしれないが、労働者にとっては地獄だろうという。 元経産省官僚の古賀茂明氏は「日本には、20代、30代で高度な知識・能力を有する若者が、高賃金で働く職場が少ない。稼げないから、食べ物も安くなるのだろう」という。 A氏:一方で日本では、観光客だけでなく留学生も増え、12年度の約16万人が、17年度には約27万人。 もっとも世界全体でも00年の約210万人が14年の約500万人に伸びてはいるがこれまた日本の増え方には特徴がある。 日本は非英語圏で、日本語習得は難しいのに、それでも留学生が集まるのは、「働ける国」だからだという。 日本では就労ビザのない留学生でも週に28時間まで働けるが、米国では留学生は就労禁止で、独仏や豪州、韓国は留学生でも就労して生活費の足しにできるが、日本より時間制限が厳しい。 そのため日本に来る留学生の層は、おのずと途上国からの「苦学生」が多くなるという。 私:いま日本では年に30万人、週に6千人の人口が減っていて、17年末の在留外国人は前年末から7%増えたが、外国人の労働者で就労ビザを持つ人は18%。 残りは技能実習生、留学生、日系人など。 こうした外国人が、コンビニや配送、建設、農業など、低賃金で日本人が働きたがらない業種を支えている。 外国人のあり方は、日本社会の鏡で、外国人観光客が喜ぶ「安くておいしい日本」は、労働者には過酷な国ということで、そしてその最底辺は、外国人によって支えられている。 そこで、小熊氏は、もう「安くておいしい日本」はやめるべきだと提言する。 客数ばかり増やすより、良いサービスには適正価格をつけた方が、観光業はもっと成長でき、牛丼も千円で売り、最低賃金は時給1500円以上にすべきだという。 そうしないと、低賃金の長時間労働で「安くて良質な」サービスを提供させるブラック企業の問題も、外国人の人権侵害も解決しないし、デフレからの脱却もできないし、出生率も上がらないだろうという。 A氏:小熊氏は、「日本の人々は、良いサービスを安く提供する労働に耐えながら、そのストレスを、安くて良いサービスを消費することで晴らしてきた。そんな生き方は、もう世界から取り残されている」という。 私:しかし、日本のこれらの背景には、日本の現在の実質賃金の低下や社会保障の将来不安という経済構造や、さらに少子高齢化問題が基底にあり、移民問題など簡単にいかない難しい問題が多いね。。
2018.05.31
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