物語 「水たまりの中の少年」

水たまりの中の少年 作・-落ち葉-

 ある雨の日、学校から帰る少年は傘を差しながら冷たくなった手をぐっとにぎりしめて小走りでいた。そのシトシトとした雨は、すべてを水色と灰色で染めたようだった。その日が一番寒い日だということを少年は知らなかったため、手袋もマフラーも何もしていなかった。「早く雨なんてやんでくれよ。それで、ちょっとでもいいから太陽の日差しを僕にあててくれよな・・・。」少年はそう思いながらも、家に着けばあついほどのストーブが待っている・・・。とも思った。やっと家の玄関の前に立ったときには、もう手の感覚がほとんどなかった。その手で自分のマイカギで玄関の戸を開けた。ほとんど外と気温は変わりないようだが、少しくらいは家の中の方が温かみは感じる。自分の部屋へ入ると真っ先にストーブの電源を入れ、カバンを机の横に置き、ストーブの前でうずくまった。もちろんまだまだ雨は降っていたのでその部屋はずいぶん暗かった。はじめはとても冷たい送風が出るので五秒くらいは「うっ・・・。」と言って固まっていたが温かくなってくるとすぐに手を出し、両手をこするようにして温めた。あっという間に真っ暗になった。少年はいつ頃からこんなに暗くなったのかすら分からなかったので、時を感じながら明かりをつけた。どちらにしろ今日はもう遅いし、勉強なんてしなくていいや。と、心の中で思った。その日はとても疲れていたのですぐに夕飯を食べてシャワーでも浴びて寝よう。なんて前もって予定を考えながらゆっくりと行動していた。
「明日の準備はもう明日でいいや。」なんてことを考えていたが、それでも、どうせやる気がさらになくなって学校に行く気さえなくなってしまうだろうと考えていた。
夕飯をすませ、シャワーを浴びたところ、気もほとんど変わらなかった。
 次の日も雨で、少年は昨日の寒さのことを考えて手袋とマフラーをし、学校へ向かった。実は準備は昨日のうちにやっておいたのだ。雨の日は特に下を向いて歩くことが多くなる。昨日より雨の量が多いので、水たまりもよくできていた。そのみずたまりに映る自分の顔が、やけに寂(さび)しそうに見える。いくら寂しかったって、多少「まあ、元気出せよ。」と言ってくれる友達もいるがそれだけでは元気にはなれなかった。この少年は、少しでもいやなことがあるとずっと考え込んでしまう方だったので、先週もういまでは友達ではなくなってしまった友達が言った一言が頭に雑草の根みたいに残っていた。
「お前はもっと人のことを考えろよ! もう絶交だ。」
もう一週間もたったのに、そのせいでやる気そのものをうばってしまった。「こっちが言ったって聞いてくれない。むしろ、こっちが聞かないさ。」と久しぶりに小さく独り言を言った。学校が自分の前に近づくにつれて、享年の息が荒(あら)くなった。本当に学校に行きたいという気持ちがなくなったのだ。確かに、素直に「ごめん。こっちが悪かった。」と言えばよいのだが、その勇気もないし、どのようなタイミングで言えばよいのかも分からない。こんなことを考えているうちに、もう学校の正門の前にいた。先生や自治委員のやる気のない挨拶(あいさつ)を聞いていると、自分の気持ちと重なるような気がして、逆に気分がよくなった。「ちょっと待てよ。」少年は口に出したのか、心の中で言ったのか分からないようにした。
「けんかをしたのだから、もう一度はっきりと堂々と話し合おうじゃないか。」
さっきの「ちょっと待てよ。」の時点で少年の気持ちがガラリと変わった。
その雑草を一気に土ごと引っこ抜いて、気が狂(くる)ったような・・・。しかし、そのときはやる気だったのだが、いざ学校の階段をのぼって生徒がたくさんいる教室に入り、「おはよー!」と言われた瞬間にやる気がなくなった。少年が大きくため息をつくと、胃がキリキリと痛む感じがした。「やっぱり今日も彼と会うのはやめよう。」と思って廊下(ろうか)に出ると、その彼という「今では友達ではない友達」がいた。
彼はこちらをにらむように一瞬見て教室に入っていった。
----この続きは「物語 水たまりの中の少年2」でお楽しみください。----


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