掌編小説『雑草の栄養!』

雑草の栄養!

ある人の家の庭に生えた、ごく普通の小さな雑草の話です。
ある日、雑草はすぐ隣にいたチューリップに話しかけられました。
「おいおい、俺たちの栄養を横取りされちゃ困るよ。」
「そうは言っても、僕らはこうして生きていくしかないんだよ。いつ、人間とかに引っこ抜かれるかわからないからね。」
しかし、チューリップは納得できない表情で言いました。「まあそうだけれどさ、もっと別の、雨の水をとるとか、そんなことぐらいしなよ。」
しかし雑草にはそんな力ありませんでした。周りにそういう立派な花がいないと死んでしまうのです。
「いいよなぁ、君は。そんな立派な花なんて咲かせて。まあ僕はただの草だけどさ。」
「頑張れよ。自分で栄養をとる努力ぐらいきっとできるさ。」
チューリップは励ましてくれました。
しかしどのようにして栄養をとればいいか分かりません。
するとチューリップは、またアドバイスをくれました。「俺は、土から栄養をとっているんだ。根を通してね。」
しかし雑草の根はガッチリとチューリップの方へつながっています。
「自分の力で根を動かせよ。土がある方にな。」
力一杯に根を動かしてどうにかチューリップの根から離れようとしました。
そのとき、家の網戸がガラガラッと開く音がしました。
帽子をかぶり、片手に蚊取り線香、もう一方にスコップを持った人が出てきました。
「しまった!おい、引っこ抜かれるぞ!」
チューリップが雑草に向かって叫びました。
根を動かすのに一生懸命だった雑草は、人が出てきたことに全く気づきませんでした。
チューリップの言った人の方を見ると、もうその雑草から2メートルほど離れたところで別の雑草をむしっていました。
「でも!雑草は強い!コンクリートの間からでも、どんなところからでも生えてくる!!」と雑草は大きな声を出し、またチューリップの後ろにゆっくり気づかれないように近づいていきました。
そしてチューリップの茎の後ろに隠れると、草を縮めてうずくまりました。
「あ、蚊が来た!なんだよ、しつこいなぁ!」と人は手で蚊をたたいたり追い払ったり、たたいたりしています。
「この野郎!よし、スプレー持ってこよう。」そう言ってまた家の中へ入っていきました。
「今だ!早く移動しな!」チューリップが雑草に向かって言いました。
雑草はハッとしたように急いで網戸の逆方向にチューリップから離れようとしました。
「急げ!急げ!あぁ、やっと隅まで来たぞ・・・。」雑草はやっとの思いで家の壁の隅まで来ました。
でも根から取り入れると言ってもその取り入れ方が分かりません。
チューリップから遠く離れた雑草は、大きな声でチューリップを呼びました。
「チューッと吸うようにするんだよ。よく人間がやっているだろ?オレンジ色の水を棒みたいなので吸ってるの。」と例を挙げながら詳しく教えてくれました。
すると別の雑草が言いました。「無駄だよ、そんなこと。雑草って言うのは、そんな栄養じゃ生きていけないんだよ。」
「そんなことないよ!雑草だって立派な植物じゃないか。ただ名前を付けずに人間たちが勝手にそう呼んでいるだけであって・・・。 つ、土の栄養でも生きていけるよ!!」
とその雑草は思い切って言いました。
「勝手にしなよ!どうなっても知らないから!」そう別の雑草は言いました。
するとまた殺虫スプレーを持った人が出てきて、その辺にかけまくっています。
そして先ほど「勝手にしなよ!」と言った雑草はすぐに引っこ抜かれてしまいました。
その人は庭の隅にいる雑草のことは一切気づかず、今度はジョウロを持ってきて、チューリップやそのほかの花々に水をやりました。
「よーし、鮮やかになったな・・・。」
そう言って、家の中へ入っていきました。
「さあ、早く!土から栄養を吸い取るんだ。」チューリップが小声で雑草に合図しました。
雑草は不安そうに こくり とうなずき、根に集中して一気に吸い上げようとしました。チューリップよりはるかに根が小さい雑草はそんなことはとても難しいことでした。
しかし、根からゆっくりと冷たく新鮮な水が入ってくる気がしました。
「その調子だ!吸っているうちに、甘く感じてきたらそれが栄養だよ。」とチューリップは教えてくれた。確かに少し甘く感じます。
「よし!よくやったよ。それと、太陽の光を浴びて、自分で光合成もすることだね。」
雑草は多少 光合成するのが下手ですが、それ自体はすることができます。
「まあ少し不便だとは思うだろうが、慣れるととても楽なんだ。」
雑草はよかったと思いました。「こんなに立派な、特別な花におそわれるなんて。」と
思っていました。
これから雑草一人、いや、一つだけの生活が始まります。
うまく生活していけるでしょうか??
         <完>



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: