ふたり暮らしの手帖

ふたり暮らしの手帖

PR

プロフィール

サリィ斉藤

サリィ斉藤

バックナンバー

2025.11
2025.10
2025.09
2025.08
2025.07
2025.06
2025.05
2025.04
2007.07.19
XML
カテゴリ: 本の話
去年、当時の文化庁長官だった河合隼雄さんが脳梗塞で倒れられた、というニュースを小さな新聞記事で見つけたときは、喉のあたりがキュッとしめつけられるようなショックを受けました。

その後も、意識が戻られない重篤な容態が続き、長官職は後任に譲られ・・・
約一年を経て、とうとう、訃報に接することとなりました。

私が、中学・高校時代を通して、授業以外にも多くのことを学んだある先生は、教職の傍ら、ユング心理学を研究し、カウンセリングを学んでおられました。
まだ「学校カウンセラー」なんて存在が日本で認められていなかった、二十数年前のことです。

日本におけるユング研究の第一人者が河合隼雄さんです。
その先生が、よく河合さんの著書や、言葉を生徒たちに伝えてくれました。
生徒たちに課題図書として紹介してくれた 「大人になることのむずかしさ」 という一冊の本が、どれだけ、自分と周囲の折り合いがつかない、思春期の嵐のような私の内面を鎮め、救ってくれたか。



臨床心理士の仕事の現場で、時代精神や社会のしがらみにうまく対応できない、たくさんの(多くは若い)人々と全力で向き合ってきた、その経験の重み。
それが一つひとつの言葉、文章から滲み出て、生きにくいこの世を生きていく力を・・・と、語りかけてくれたように思います。

一度だけ、文化庁主催のお堅い講演会を聞きに行って、ご本人のお話を直接聞きました。
やわらかい関西弁、柔和な笑顔が印象的でした。

思えば、かつての私の恩師は、大げさにうなづいたり、こちらの目をまじまじと覗き込んだりするようなことは全くなかったけれど、静かに目の前にいてくれるだけで
「あぁ、先生は私の話を全身で受け止めてくれている」
と、素直に信じられるような人でした。
その佇まい、河合さんにも通じるものがあったように思います。

訃報を聞いて、本棚から吉本ばななさんとの対談集を取り出し、読み返しました。

なるほどの対話


この対談集は、京都の町屋で撮影されたという、火鉢をはさんで向かい合う二人が表紙になっていて、掲載されている対談中のショットもとてもいい写真ばかり。

もちろん、二人の言葉も味わい深く、考えさせられたり元気をもらったり出来るのだけれど、ここではばななさんの「あとがき」を引きたい。


 一人の人の人生がここにあるんだな、とその傘を見て私は強く感じ、胸がしめつけられた。
 その町屋の居間でお茶を飲んでいるとき、
 『こういう造りの家にいると、なつかしいし、くつろいで眠くなってきた』と河合先生はおっしゃっていた。
 でも、じゃあそこで三時間くらい寝ていくか、とはいかないスケジュールが切なかった。

 天職にあり志がある人の常で多忙を極める毎日だと思うので、そんなふうにちょっとくつろいだ気持ちになれる場所が、地球の上でたくさん、たくさん河合先生を待っていることを、心からお祈りしています。」



河合さんの魂が、これから地球を離れた夢の世界で、安らかな旅路を辿られることを。
深い感謝とともに、祈っています。今日は本当に哀しい日でした。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007.07.20 13:20:30
コメント(8) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: