ミステリの部屋

ミステリの部屋

2005年05月29日
XML
カテゴリ: 海外ミステリ
季節はずれですが、聖夜と聞くとどんな景色が目に浮かびますか?

この物語の語り手である猫のフランシスは、
『夕闇に浮き上がる明るい四角い窓、その内側からは安心と信頼と愛情とほんとうに神聖な世界とが輝きだしてくるような気がする』と偶然何軒かの古い家の裏窓を見て連想しますが、すぐに、
そんなクリスマスなんかほんとはありはしない、『あの窓の向こうに座っているのは、いつだってつまんない連中。』と甘い想像に水を差します。

このように、フランシスの語り口は冷徹でときに毒があって、一人称で語られるハードボイルドの探偵小説を思わせます。

飼い主のグスタフに対しても『野心だとか性急だとかいうことばは、この人畜無害の俗物には身につかない』と辛らつに語りますが、実はこの生きるのが不器用な飼い主に深い愛情を持っていることがおいおいわかってきます。

物語はグスタフとフランシスがボロアパートに引っ越してきて、無残な猫の死体を見つけるところから始まります。その後も続く事件を、青髭やパスカルなどのユニークは猫たちと一緒に探っていくのですが、次第にわかっていく事実と、その過程でフランシスが見る悪夢はおぞましくて目を背けたくなるものです。

それを救うのが、生意気で若々しいフランシスの魅力です。
危険だとわかっていても飛び込まなければ好奇心が膨れ上がって死んでしまう、と言い切る向こう見ずさとポジティブさ。


猫による猫のミステリですが、人間に対する皮肉は胸に痛く突き刺さり、こころ揺さぶる素晴らしい作品でありました。

作者のアキフ・ピリンチはトルコ生まれのドイツ育ち、マイノリティといわれる立場です。1990年に発表された本作はその年のドイツ・ミステリ大賞を受け、ひさびさのドイツ文学のヒットとなりました。


猫たちの聖夜   著者: アキフ・ピリンチ /池田香代子




猫たちの森   著者: アキフ・ピリンチ /池田香代子
 「猫たちの聖夜」の続編








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年05月29日 18時48分39秒
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

バックナンバー

2024年12月
2024年11月
2024年10月
2024年09月
2024年08月
2024年07月
2024年06月

コメント新着

月見草@ Re:夜のピクニック:恩田陸(07/06) 「夜のピクニック」のご紹介ありがとうご…
アルビレオ@ Re:白馬への旅、2日目(07/30) 白馬 行って見たくなりました。ワタスゲ…
アルビレオ@ Re:マフラー(01/29) samiadoさんの優しさがしみます。36ufh
アルビレオ@ Re:冷凍ロールケーキ(02/07) 書き出しの「待っていたロールケーキが届…
アルビレオ@ Re:節分もどき(02/03) 恵方巻きって確かに子どもの頃 福岡には…
アルビレオ@ Re:つらいときは(02/02) 「情けは人のためならず」って、何か辛い…
アルビレオ@ Re:マフラー(01/29) samiado さん 編み物も🧶されるんですね…

お気に入りブログ

『サステナビリティ… shovさん

未定の予定~ラビ的… みっつ君さん
留年候補生W2.0… 留年候補生W2.0さん
魔女の隠れ家 たばさ6992さん
ちょっと休憩 ときあさぎさん

キーワードサーチ

▼キーワード検索

サイド自由欄


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: