ミステリの部屋

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2005年09月20日

春期限定いちごタルト事件：米澤穂信

(8)

テーマ：ミステリはお好き？(1498)

カテゴリ：日本ミステリ（や・ら・わ行作家）

「さよなら妖精

この話の主人公は小鳩常悟朗と、小山内ゆき。
この高校一年生コンビは、なんと小市民をめざして同盟を結んでいるといいます。
お互いに目立ちそうな場面では助け合い、逃げるための理由にお互いの名前を使ってもいいと決めているのです。

日常の謎系ミステリは好きな方です。
青春小説も好きです。
だけど、最初のうちは、小市民を目指すなんて正直言って気味の悪い若者たちだと思いました。

小市民っていうと、浮かんだのはビットリオ・デ・シーカの映画「自転車泥棒」のイメージ。富裕ではないけれどひたむきに生きる人みたいな。

少しいらいらしながら読みすすめるうちに、どうもこの2人は小市民と言う枠に納まるような器ではないのではないかと気づいてきます。

目立たず無色透明でいたい彼らに、小鳩君の小学校時代の同級生で新聞部員の堂島健吾から、無理やり謎が持ちかけられます。

最初は抵抗していたけれど、「おいしいココアの作り方」で、解き放たれた鳥のように生き生きと推理を語っていたではないですか。
ああでもないこうでもないと討論をたたかわせる場面が面白いです。
そしてこの謎ときはみごとでした。

あるときやっと手に入れた「春季限定いちごタルト」ごと、小山内さんの自転車が盗まれたことから、2人がなぜ小市民を目指そうとしたのかが明かされていきます。

ああ、理由があったのね。
気味が悪いなんて思ってごめんね。

とはいっても具体的なことはほとんどわからないままです。
小山内さんの過去に何があったのかはまったく語られないけれど、過去の呼び名からはただならぬことが想像されてしまうのです。

2人の関係は微妙、2人の過去はミステリアス、2人は小市民の星になれるのか。

続編を希望します。