海の散歩道

【母子家庭】




【母子家庭】



市営住宅に引っ越す前に主人が『手切れ金』として250万用意した

主人は離婚後、子供たちに会うつもりはないと言っていた

今後、あたしや主人に家庭ができた時、ややこしくなるから、と・・・

当時、お金のなかったあたしはそれを受け取り、引っ越した




市営住宅に引越ししてからもお風呂がついていないという理由から

よく主人の家のお風呂を借りに行っていた

主人から申し出てくれたのだ

あたしの帰宅が遅かったので主人の好意に甘えた

『今から行ってもいい?』と電話すると

家にいても主人は外に出掛けていた

子供たちと顔を合わせるのを拒んだのだ

その割には電話はしょっちゅうかかってきていた

主人なりにあたしのことを心配してくれていたらしい





あたしは9時~20時まで働いていた

その間、子供たちは託児所

不倫していた彼ともそれとなく続いていた

彼は自分の離婚を口にするようになった

でもあたしは彼と一緒になるつもりはさらさらなかった

彼の奥さんの二の舞になるのは目に見えていたからだ

あたしはズルイ

彼はあたしが就職後、あたしの休みを彼の休みに合わせろとうるさくなり

あたしは彼とは別れた

彼の休みに合わせていたら子供と遊ぶ時間がなくなってしまう

そう思った





結婚中、ひとりで何もかもをやっていたので

母子家庭になってもそれほど大変ではなかった

誰かを当てにすることもなく自分が気の向くまま子供と遊べる

おまけに社会に出て働くこともできる

あたしは望んでいた『自由』を手にした




しかし次男の心には大きな傷が残っていた

街を走っていて主人と同じ車を見ると

自分でベビーシートのベルトを外し

『こわい、こわい』と椅子の下に隠れていた・・・




休みの日に会社に連れて行っても男性社員に会うと

あたしの後ろに隠れ、声を殺して泣いていた・・・



離婚はあたしにとってだけの『自由』ではなく

次男にとっての『自由』でもあったのかもしれない






© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: