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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年08月24日
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巨大な根元にある小さなドアから、しわくちゃの小柄な老婆が顔を出した。

「あの子ならいっちまったよ」
「ええ、知っています。ありがとう」

トールは微笑む。先ほどまで、緑の少女はこの老婆の家にいたはずだった。

世界の流れが速くなり、大波小波が人々を襲っている。もちろんそれは少女たちも例外ではなく、色々なネガが出てきては、それをクリアするための状況が用意されていた。
気分が落ちたり上がったり、波間に浮き沈むようにして人々は光を目指している。そのスピードが昨今はあがっているのだ。

ネガをひとつ越えれば、ひとつ軽くなれる。
だから嫌悪すべきではないが、渦中にあれば沈んでしまうのは仕方のないことだった。
交互に助けのロープとなり、泳いでゆければいいのだと思う。

トールははるか高い枝を見上げた。姿は見えないが、少女がそこにいるだろうことが感じられる。
彼は登って追いかけようとはせず、視線を手元に戻した。

(久しいな。あの子が元気になってよかったことだ)

笑いをふくんだ世界樹の声が聞こえる。トールが守人としてルシオラの魂をずっと護っていた間、大樹は一緒に彼女をみていたのだ。

(おかげさまでね。ひさしぶりに音楽でも?)
(おお、よいな。ハープを頼むよ)

銀髪の錬金術師は軽く手を振って愛用のハープを呼び出した。太い木の根に腰かけ、幹によりかかって弦をはじく。
柔らかな音色がゆっくりと流れ出した。



上のほうの枝に座っていた緑の少女は、下でハープが鳴り出したのに気づいた。
彼が来るのに気づいてなんとなく逃げだしてしまったが、なぜ会いにくいのか、心がさまざま絡み合って自分でも説明がつかない。なんとも晴れないもやもやとした気持ちを振り払うように、彼女は歌いはじめた。

下でいうところの賛美歌に近いような曲を、透き通った高い声でゆっくりと少女は歌う。
彼女は歌うのが好きだった。よくステーションのタワーのてっぺんで一人で歌っている。そうしていると、そのうちに他の人が加わって合唱になったこともあった。

何曲か歌い終えると、聴こえてくる曲がスカボロー・フェアに変わった。少女はそれに乗って歌う。
あわせるように風が吹き、さわさわと枝が鳴った。


  亜麻の上着を作ってと伝えて
  パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
  縫い目も針あともないものを
  そうしたら彼は私の恋人

  一エーカーの土地を探すように伝えて
  パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
  海の水と砂浜の間にある土地を
  そうしたら彼は私の恋人

  皮の鎌で刈り入れてと伝えて
  パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
  そしてヒースの束にまとめて
  そうしたら彼は私の恋人……


きれいな声で歌いながら少女は思った。

(……トールだったら、きっと普通に解決しようとするんだろうな)

スカボローの市に行く人に伝言を頼んで、無理難題を押しつけてみたところで。魔除けのハーブの名前を唱えながら、じゃあ、これこれしてくれたらね、なんて逆に無理難題を言ってきて結局すれ違ってしまうわけでもなく、はいはいわかったよ、とただの軽口で終わるのでもなく。

あの彼ならば、彼女が提示した無理難題を、ひたすら真面目に解決しようとするのだろう。

そう思ったら可笑しくなり、笑って続きが歌えなくなってしまった。

なんだかもう、本当に自分がまだ一人でいたいのか、もうフリだけになってしまっているのか、自分自身でもよくわからない。
もうどうでもいいか、と馬鹿らしくなってきた少女は、彼のすぐ上の枝までそうっと降りていき、斜め上からじっとトールがハープを弾いている姿を見ていた。
かすかに青みがかった銀色の髪に、木漏れ日がきらきらと反射している。かつてどれほどの時を、彼はこうして大樹によりかかって過ごしたのだろうか。

しばらくして曲が途切れると、彼はふと上を見上げて微笑んだ。

「こんにちは、歌姫さん」

「……あのさ」

少女は太い枝に腹ばいになり、足をぶらぶらさせた。ハープをゆっくりと爪弾きながら、視線でトールが続きを促す。

「もしあたしが、縫い目も針跡もないシャツを作ってくれっていったら?」
「どうにかして作るだろうね」

予想したとおりにトールは答えた。
一エーカーの土地も皮の鎌も、問題が技術的なものに集約されるかぎり彼の答えは変わらないことに気づいて、うーんと悩む。

「じゃあさあ……たとえばさ。あたしが転生のとき、ものすっごい試練を設定したとして。その試練に悪魔みたいな役が必要だから、やってくれって言ったら?」

その時初めて、ハープの音色が途切れた。青灰色の瞳で少女を見つめ、一瞬の間をおいてトールが答える。

「……受けるよ、その役を」
「でもその時のあたしに嫌われちゃうかもよ? すごいひどい試練で、ひどい悪魔だもん」
「それでもその役が必要なんだろう?」

彼は微笑んだ。
なんにでもなれるよ、あなたが真に望むなら。
たとえその時は蛇蝎のごとく嫌われる役回りであったとしても、その試練の経験を彼女の魂が望むならば、なんの否やがあろう。
輪廻の輪は続き、そこで終わるわけではないのだ。

「……すごいな。後で申し訳なくなりそうだ」

言いようがなくなって彼女は呟いた。

「すごくはないさ。私という魂の中には、強大なエネルギーの坩堝があって、つねに流れる先を探しているんだよ」

それを愛として変換すれば、その質量の巨大さゆえに、絶対的な支え手といわれるようなものにもなれる。
なれるが、その流れ先として想われるほうにとっては、ある意味いきなり天災が降ってくるようなものだろうよ、と彼は笑った。

だからすごくはないし、どんなときでも少女が申し訳ないという気持ちを持つ必要はないのだと。

彼女はぽかんと口をあけた。
彼自身のこの莫大な愛を……天災だって?

それが降ってきたら、毎回世界一幸せな気分になれるのに。
こんなにも深く自分は愛されていたんだと、いつでもしっかりと支えられているんだと確信できるのに。
だからこそ申し訳ないような気分にもなるのに、それは嵐と同じだから気にするな、応える必要もないと彼は言うのか。

「……しあわせな天災だね」
「ありがとう。よかったよ、逃げられてしまうのでなくて」

トールは笑って立ち上がり、伸ばされた手をとって少女を枝から下ろした。

そして二人は、手をつないでルキアへと帰った。





















*************

>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)


緑ちゃん&黒さん&じぇいど♪さん、はっぴーばーすでぃハート
……黒さんって今日でいいのかな? とりあえずおめでとうはいいのかw


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 8/25 世界樹のヒーリング 







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最終更新日  2009年08月24日 06時37分30秒
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