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よんきゅ部屋
電車で一人旅(南九州編)
ここにはどうしても乗りたい区間があった。それは肥薩線で、ループ線とスイッチバックが同居する全国で唯一の場所だ。大学の時にオケの先輩と卒業旅行と称して電車で九州一周をやったときに乗った路線、もう一度この目で確かめてみたいと思ったのだ。それと、ついでに九州新幹線「つばめ」にも乗ってみたかったので、それらをすべて組み合わせて夕方に宮崎まで行けるルートを綿密に計画して旅はスタートした。
まず、目的の場所に行くためには午前中に肥薩線に乗っていなければならない。そこで、神戸空港から鹿児島空港まで行くのがベストと判断。朝早くから神戸空港に向かった。神戸空港は当時開港してわずか3ヶ月、とてもきれいだった。国内線しかなく、行き先もかなり限られているのでもちろん規模はかなり小さかったが。午前8:35、鹿児島空港に向けて出発し、9:40に到着した。
実は鹿児島空港からタクシーで行けるそう遠くないところに、肥薩線の嘉例川駅がある。嘉例川駅は、某局で全国を鉄道で旅する番組が放送されたときに登場した駅。明治に建てられたままの姿で残っている数少ない駅の一つである。ここには「名誉駅長」さんがいて、観光客にいろいろと解説もしてくれたりする。
<嘉例川駅駅舎>
タクシーで駅に到着すると、なんとバスツアーの団体がすでにいるではないか!その団体の真ん中にはなんとテレビで見た名誉駅長さんが。「テレビで見たわよ~」という声がちらほら。私は横で解説を聴いているしかなかった。駅のホームに出てみると、何とも言えないローカルな雰囲気。線路脇にたくさんの花が咲いていて美しい。どうやら、ホーム跡らしきものが向かいにあった。昔はきっともう少し多くの列車が運転されていて行き違いをしていたのだろう。
(嘉例川駅ホームより)
10:20、緑の中から真っ黒のディーゼルカーがエンジン音を立てて到着。特急「はやとの風」である。JR九州は観光用につぎつぎと車両をリニューアルし、これもその一つ。中は木がふんだんに使われていて、レトロな雰囲気である。早速、車内販売がやってきた。せっかくなので、プリン(なぜプリンかはわからないが)を購入して、食べた。味はなかなかよい。途中、霧島温泉駅では行き違いで数分停車している間に地元の名産をホームで販売していた。地元の人はとてもフレンドリー、心が和んでくる。今では鉄道も車に完全に押されてしまって細々としたローカル線だが、昔はその中にある駅からさらに支線がのびていた。その痕跡が少しだけ見られたりする。きっと30年くらい前だったら、鉄道の旅もさらに楽しかっただろうにと思った。
(「はやとの風」号)
10:57、終点の吉松に到着。ここから先、いよいよメインイベントが待っているのだが、次の列車は11:42までない。次の列車は「しんぺい」という観光列車。指定券を買わなければならないので、改札で購入してぶらぶらしようと考える。ふと左を見るとSLが置いてある!早速そばまで行ってみた。C55、吉松と都城を結ぶ吉都線で活躍したSL。小さい頃見ていたSL大百科だったか、その本でみた美しい姿そのままだった。この機関車の特徴は動輪の美しさ。スポーク動輪(自転車の車輪みたいな感じ)に水かきのような補強がなされていている。今もきれいに保存されているのがすばらしい。
(C55型蒸気機関車、吉松にて)
しばらくして次の列車を待つためにホームへ。すると今度は赤いディーゼルカーがやってきた。人吉から来たお客さんを降ろす。そこで先ほど乗ってきた「はやとの風」が接続していくのだが、なんとすぐに発車してしまう。放送はちゃんとあったのだが、発車と同時に私のそばでのんびりしていた夫婦が「待ってくれえ~!」と絶叫して走り出す。しかし、列車はすでにスピードを上げていて止まってくれない。残念ながら30分後の普通になってしまう。もし鹿児島まで行くのであれば相当な時間のロスである。油断は禁物だ。
そして、いよいよ「しんぺい」号に乗って、ループ線&スイッチバックの旅へ出発!発車と同時にここならではの弁当と記念グッズを買いに車内の売店へと走り、席に戻って簡単に昼食。しばらくすると、絶景が見えてきた。少々曇りがちだったのがここへきてなんと晴れてくれた。えびの高原を見下ろす絶景である。
(えびの高原。空気がかすんでいないときには遠く桜島まで見えるらしい)
車内は「はやとの風」同様、レトロな感じ。木の色が美しい。2両編成だが、2両目にも運転席からの景色がテレビに映し出されている。観光スポットにくると放送で解説もしてくれる。観光に特化した路線であることをうかがわせる。前回訪れたときには確か急行列車に乗ったと思う。宮崎から吉都線と肥薩線を経由して熊本まで行ったはずだ。まだその頃はビジネスといった意味合いもあったのだろうか。
いくつかのトンネルを抜けると、最初のスイッチバック駅である真幸(まさき)に到着した。ここではしばらく停車。地元の名産をここでも販売していた。やっぱりみんなフレンドリーである。ホームには鐘があって、それを鳴らす家族連れもいた。のどかな駅である。
(真幸駅。この後列車はバックしてさらに転線して山を登っていく)
11:59出発。運転士さんは車両の端から端へと走って大忙し。私のすぐ近くにいたおばあちゃんが「頑張ってくださいね」と声をかける。「どうも」と軽くあいさつをして方向転換後の運転台へと向かっていった。ここはスイッチバックのための線路がかなり長く敷かれている。その理由は蒸気機関車が加速性能上うまく坂を登れなかったからだそうだ。走っていく途中、真幸駅を下に見ながらお別れ。地元の人が手を振ってくれている。心和む風景だ。
(真幸駅で手を振ってくれる人たち)
旅はさらに続く。どんどんと勾配を上ってこの路線の最高点である矢岳(やたけ)駅に到着。ここもまたのどかな風景。駅前は山あいの田園風景。田んぼの脇には鯉のぼりが飾られていた。ここの駅舎内には漢字で書かれた時刻表。本数の何と少ないこと(1日4または5本)、乗降客はほとんど観光客なのだろうか。
12:24出発。しばらく行くと、列車が何もないところでいきなり停車。左右の風景に注目とのこと。左を見ると、これから行こうとする人吉市街、右を見るとなんとかすかに線路が見える。ここからループ線でそこまで降りていくのだ。さらに見えているのはスイッチバックの終点部分だった。ここに大畑(おこば)駅がある。この風景を見せるためにJRでは草刈りをしたのだとか。観光列車ならではの演出だ。
(大畑ループのスタート箇所から。実は中央部分かすかに線路が見える)
ループを終えてスイッチ委バックを通過して大畑に到着。ついてここでもしばらく停車。肥薩線は一時期鹿児島本線として使用され、多くの蒸気機関車が走っていたという。大畑は峠越えをする前の大事な水の補給場所になっていたそうだ。ホームの橋には水をためた噴水のようなものがあったが、これは昔、機関士がすすで汚れた顔を洗っていたもので、当時ここはいろいろな意味で難所であったことを示している。
12:45に大畑を発車、あとは終点人吉駅まで坂を下っていくことになる。12:57、くま川鉄道の列車を横に見ながら人吉駅に到着。そこから13:05発の「九州横断特急」に乗り換える。真っ赤なディーゼルカー、中はすっきりした感じ。熊本を通って、別府まで行くというなかなか変わった区間を運転する特急である。ここから先はずっと球磨川沿いを走る。かなり雨が降った翌日らしく、水はかなり濁っていたのがちょっと残念。推量によってはラフティングをしている姿なども見られただろうに。と、そうこうするうちに14:12新八代駅に到着。
(九州横断特急。人吉にて)
新八代からは九州新幹線「つばめ」に乗って、鹿児島へと向かう。発車は14:49なので時間が空いた。お腹が空いたので何か食べようかと思ったが、駅では見つけられず断念。しばらくして「リレーつばめ」号が到着。これには限定3席のデラックスなグリーンシートがある。かなり広くて快適だそうだが、さすがに終点でいきなり乗り込んで見物というわけにもいかず、これも断念。しかし、九州の特急列車はとにかくきれいでなかなかしゃれていて、鉄道の旅が楽しめる土地である。しばらくすると、つばめが到着。中にはいると、これまた木目調の美しい車内。乗客は少なかったが、これが博多まで通じてくるとかなり話は変わってくるだろう。将来はどうなっていくのだろうか。
(九州新幹線「つばめ」、新八代駅にて)
発車してからあっという間、15:29に鹿児島中央駅に到着。新幹線のホームができてからずいぶんと構内は変わったようだ。前回来たときにはまだ西鹿児島駅だった。東京や大阪からの寝台特急などもホームに並んでいて、旅の風情を感じさせたものだが、現在は八代より南の鹿児島本線が第3セクターになり、遠方から乗り入れる列車はない。
さて、次の電車までまた40分空いている。今度こそおやつでもと思ったが、結局何だかんだしているうちにどこにも入れずとなった。駅構内に売店でもあるかなと思って早めにホームに行ってみたら何もない!!しかも次に乗る列車には車内販売もないというアナウンス!!お腹は空くし、のども渇くしと相当辛い状況である。結局自販機でジュースのみを仕入れ、空腹が辛いが、宮崎で後輩と合流して飲みに行く約束だったので、それだけを楽しみに乗る。
鹿児島中央から宮崎までは、特急「きりしま」号に乗る。次々とおしゃれで高速運転が可能な車両が導入されるJR九州において、なんと一時代前の主力だった485系がやってきた。後日知り合いに聞くと、この区間は勾配や曲線が多いために高速運転の効果が出ないから車両が変わらないらしい。内装はかなりボロボロ、壁ははげているし、カーテンも破れかけ...空腹のむなしさも手伝って、どんどん悲しい気持ちになってきた。
(「きりしま」の車窓から見る桜島)
16:12に鹿児島中央を出てしばらくは、海の向こうに桜島がきれいに見えた。その後、旅の疲れから爆睡...。気づいたときには都城だった。しかも夕立のような強い雨。大丈夫かと思っていたら、しばらくしてすぐに晴れた。青井岳あたりを通過しているときに、やはりこれでは高速化は無理かなと思うほどの山の中を走っていた。その後、清武付近で、どうしても見つけたいもの(これはいつかの日記で書く予定)を探したが結局見つけられず、そうこうするうちに、18:18、宮崎に到着。以前に来たときには高架ではなかったが今では立派な高架になっていた。隔世の感を覚えつつ、階段を下りて後輩たちと合流、南九州列車でひとり旅は終了した。
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