ハジマリノ歌 19話「巡り逢い」


「おい、お前。カディスの軍服は脱いでおけ」
バルドルがマリに言う。
「あっ、ありがと。忘れてた」
マリはその場で服を脱ぎ始めた。
「バ、バカッ」
「うひょー」
バルドルは動揺し、パレが歓声を上げた。
しかし、彼らの想像したような光景は見られなかった。
マリはその下も普通の服装をしていた。
「何期待してたのよ、エッチ」
リカードがプッと噴き出した。
そんな事をしている内に、入国検査をされる門に着いた。
入国前に一度止められる。
「ご苦労様です。IDカードを見せてもらえますか?」
バルドルと運転手は普通にIDカードを取り出し、検査官に見せる。
「(おい、俺たちのカードは?)」
「(知らない・・・。俺だって彼女に何も持たずに連れて来られたんだ)」
「どうしました?」
検査官がリカードとパレの顔を覗き込む。
「あぁ、渡すの忘れてたわ。ハイ」
マリがポケットから二枚のカードを出した。
それは二人のIDカードだった。
「いつの間に・・・」
二人はそれを受け取り検査官に見せる。
「たしかに。あの、その女性は?」
その質問にリカードが機転を利かせて答えた。
「さっき途中で見かけたんです。聞いたらバレンシアに向かう途中だと」
「そうですか。じゃあ入国手続きをしますので、一度こちらへ」
「判りましたぁ」
マリはジープから降りる。
「あとで基地の前まで来てくれ。迎えに行く」
「判った」
リカードがそう伝えるとジープは門を潜って国内に入って行った。

マリは入国手続きが済み、基地を目指す。
「場所くらい教えてくれてても・・・」
場所が分からず迷っていた。
人に訊きながらやっと目的地に着いた。
そこにはリカードが立っていた。
「ちょっと、場所くらい教えてくれてても」
「ごめん、うっかりしてた。じゃあ話してもらうよ、みんな待ってる」
リカードはマリをエスコートした。
部外者であるマリを普通に基地の中へと入れた。
「えっ、いいの?私が入っても」
「みんな今はそれどころじゃないからね。君一人がいた所で誰も気にしないよ」
バレンシアは予想以上に情勢が悪いようだ。
話しながら歩いていくと、一つの個室の前でリカードが止まった。
そして中へ入る。
マリも続いて中に入った。
中にはバルドルとパレの姿があった。
「座って」
マリはソファに座らされる。
リカードは椅子に座った。
「正直俺たちも状況が上手く読み込めていない。もう一度話してくれないか?」
「えぇ、私もそのつもりだったわ。話すわね」
ベッドで寝転んでいたパレが起き上がり、座った体勢になる。
「まず私の事から話すわね。私はマリ。今はノヴァの下で働いてる、医務兼戦闘員ってところかな」
ノヴァという名前にバルドルが反応する。
だが、今は話を聞こうとリカードが制止した。
「今回は彼があなたたち二人を脱獄させるよう私に命令したの。その理由は、レオン・クラインとトール・ロンド王子の逃げ場所を確保する為」
「ちょっと待て、トール・ロンド?そいつは今誘拐されているんじゃないのか」
「レオンはそんな事をするほど血迷っていないって、ノヴァが」
「あぁ、あいつはそんな事をする奴じゃあない。トールだってそうだ、迂闊に捕まるほど―」
そのリカードの発言にバルドルとパレが注目した。
「お前、その二人を知っているのか?」
リカードは少し黙り込んだ。
そして一度息を吐き、口を開いた。
「二人は俺の幼馴染だ」
「そういやリカード、カディス出身だったっけ?」
パレが言い、リカードは「あぁ」と答えた。
「それで、逃げ場の確保ってどういう意味だ?俺たちとどう関係がある」
「えっ、うん。これは今の話を聞いての私の推測なんだけど、あなたと二人の関係よ。きっと二人を守ってくれるって、そう思ったんじゃないかな」
そこでしばし口を閉ざしていたバルドルが口を開いた。
「あいつの考えだ。また俺たちを使って何か企んでいるに違いない」
「まぁ、たしかに」
パレが相槌を打った。
マリは少し嫌な顔をする。
「お願い、二人が頼れるのはあなたしかいないの」
リカードは俯いている。
「何で?すぐに答えられない理由があるの?」
「あいつは」
リカードが言った。
「あいつがトロイメを殺した!」
バルドルとパレの表情が一瞬にして変わる。
マリも彼の威圧感に押しつぶされそうになった。
「決まりだな。これで俺たちにそいつらを守る義理はないって事だ。元々そんなものは無いがな」
バルドルが追い討ちをかけるように言った。
「そういう事だ。帰ってくれ、入り口まで送る」
リカードがそう言い、マリを部屋から連れ出した。
「しかし驚きだね、まだ隊長が俺たちとつながりを持ってたとは」
「次に会ったら殺してやる」
バルドルとパレも部屋を出て行った。

リカードは無言で歩いて行く。
マリは少し困惑していた。
事はスムーズに進むものとばかり思っていたからだ。
声をかけ辛い。
そんな事を考えているうちに入り口に着いた。
「気をつけて」
その時リカードがマリの胸元もポケットに何かを入れた。
マリは不思議に思う。
「あいつらに会ったら伝えてくれ、そこに来いと。隊長にもよろしく伝えておいてくれ」
そう言い残すと、彼は基地の中へ戻って行った。
マリは体の向きを変えて歩き出した。
そしてさっきリカードがポケットに入れた物を取り出す。
それは何かが書かれた紙だった。
丁寧に広げて中を見る。
『秘密基地』
そこにはそう書かれていた。
「秘密基地?」
マリには意味が解らなかった。
それにもう一つ彼女を困らせる要因があった。
「どうやって二人を見つけ出そう・・・」
未だ捕まっていないのに、そう簡単に見つかるはずが無い。
マリは落胆しながら街の中を歩いていた。
その時、彼女はフードを被った男とぶつかった。
「イテッ・・・」
「っ・・・、大丈夫か?」
マリは顔を上げて男の顔を見た。
そして、その顔を見てつい声を上げてしまった。
「いたーっ!!」
フードの男は急に大声を上げられビックリした。
「おい、どうした?」
男の連れであろう男が現れた。
「レ、レオンだよね?私、マリ」
「あーっ、あの時の!」
ぶつかったフードの男は逃走中のレオンだった。
もちろんもう一人の男はトールだ。
「知り合いか?」
「あぁ、前に助けてもらって。なんでこんなトコにいるんだ?」
「ちょっとこっち」
マリは強引に二人の腕を引っ張り、暗く細い路地へと入った。
「どうしたんだ?!」
「これ、リカードから」
マリは二人にさっきの紙を見せる。
「リカードから?秘密基地・・・」
トールはずっと紙を見ている。
「彼、ここに来いってあなたたちに伝えろって。でも、世界って狭いね」
マリは一人笑った。
二人はキョトンとしている。
「秘密基地ってあそこの事か?」
「多分な。とりあえず行ってみよう。あいつに会えば動ける範囲が広がるかもしれない。出国だ。マリ、君はどうするんだ?」
レオンがマリに訊いた。
「あなたたちがノヴァと接触する時まで一緒にいさせて。今彼は彼で忙しいから」
「そうか。じゃあ行こう」
三人は段取りを決め、早々にバレンシアから出国した。

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