エタ-ナル・アイズ

エタ-ナル・アイズ

2022.11.01
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「ったく…何だ?」

 俺はぼやきながら、受話器を置いた。

「お由宇もどっか行ってんのか?」

 どうも周一郎のことが気になって(第一、今までの商用旅行に高野が付いて行ったことなどない)お由宇に相談しようと2、3日前から連絡を取ろうとしているのだが、電話に出ない。

「おまけにルトの奴もいないし」

 溜息をついてベッドに寝転がる。学校は休みに入っている。就職を急ぐわけでもない俺にとって、毎日は暇で暇で仕方がない。

「ん…」

 こつ、と頭に何か当たって、枕にしかけた本を引っ張り出した。周一郎の部屋で見つけたもので、『ガルシア・ロルカ詩集』のタイトルが紺地の背にくすんだ金文字で押されている。学園祭の時の『覚え書』とかが気になって、ひょっとしたらと思って探したら、やっぱり持っていたから借りてきた。

「…『三つの河の(小譚詩)バラディリア』…」

 誰が読んだのか、所々に小さな黒い星印が付いていて、おそらく、これを読んだ人間のお気に入りだったのだろう、ページの端が薄黒く汚れていた。周一郎だろうか。本は結構古そうだ。他の人間も読んでいたかも知れない。

「……去り行きて………戻らなかった愛……か」

 ふっ、俺にはいつものことだがな。

 ちょっとだけカッコつけて苦笑しながら、次のページを捲ろうとしたら、

「滝様!」

「ん?」

 うろたえた声がドアの外から響き、体を起こした。岩淵が青ざめた顔で飛び込んできた。

「何だ?」

「高野さんからお電話です! 周一郎様が…っ」

「周一郎が?」

 いつにない岩淵の慌て方に、嫌な予感がした。

「電話回してるんだろ?」

「え、ああ、はい!」

 それにようやく気付いたように岩淵が頷く。受話器をとると、どこか遠い高野の声が届いた。

『滝様? 滝様ですね?』

「ああ」

『良かった。すぐにスペインにお越し下さい』

「は?」

 とんでもない要望にぎょっとする。

「そりゃ無理だろう。第一、パスポートだってないし」

『そちらは岩淵に手配させました。正規のルートではありませんが、証明は本物です』

 どういうことだそりゃ。

 きょとんとしつつ続いたことばに血の気が引く。

『お願いします。坊っちゃまが行方不明なんです!』

「何っ…?」

 一気に広がった不吉な予感とともに、厄介事が『おいでおいで』をしているのが見えた。

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Last updated  2022.11.01 00:00:16
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