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「…え?」
「私だけではない……セレドの父母も…皇宮のものも……皆、子どもだった」
レアナが言いたいことがよくわからなくて、小首を傾げる。くすりと甘い声が笑う。
「セアラは…違ったかも知れないけど」
「姉様…?」
「…私達が…何も知らなくても過ごせたのは……見えない大きな世界が守ってくれていたからなのね。それにずっと気づかなかった……私があなたの傷に気づかなかったと、同じように」
抱きしめているレアナの体もまた、微かに震えていると気づいて、ユーノは思わず両手を上げた。回されている腕の下から、そっと相手の体を掻き抱く。昔抱きかかえられた時よりも硬く締まり、力強く跳ね返す弾力に、少し驚いた。そう言えば、ラズーンに来てから、レアナもセレド皇宮でいるよりも多く、色々なことを手伝っていた。片付けをし、料理に加わり、子どもの相手や老人の助けになっていた。短い丈の衣服で動き回ることも増えた。体つきも変わったのかも知れない。
「…ありがとう……ごめんなさい……」
囁くようにレアナが呟いた。
「姉、様…わたし…」
「ごめんなさい………ごめんなさい……ごめんなさいを言うのは……私の方なのよ、ユーノ」
ヒック、と小さくしゃくりあげる声が耳元に響いた。泣いていると気づいて、思わず離そうとした体を、レアナがしっかりと抱き寄せる。
「ごめんなさい……気づかなくて……謝れなくて……ちゃんと……見ていなくて……」
本当にごめんなさい。
「私は……姉失格だわ」
ふいに視界一杯を涙が覆った。
繰り返した眠れぬ夜、1人で手当てをし、痛みを堪え、苦しみに耐え、誰かに助けを求めたくて、誰にも声が届かなくて、誰か誰かと望みながら、誰もいないと諦め続けた暗闇に、小さく仄かな灯りが点る。
「ねえ、さま…っ」
訴えれば駆け寄ってくれるとわかっていた、気づけば慰めてくれると知っていた、足りぬ力で必死に助けようとしてくれると思っていた、だからこそ。
「違うの…違う……私は……姉様に……っ…笑ってて……欲しくて…っ」
痛みなど知らぬままに。汚れなど受けぬままに。悲しみなど抱えないままに。
ただ幸福に。
「みんなに…っ…幸せで…いて……欲しく……って……っ」
「うん………うん……っ」
レアナが強く力を込めて、傷がじぅんと痛みを増す、それでもその痛みは、今まで味わったことがないほど甘やかで。レアナの濡れた頬が首に触れて、くぐもった声が苦しそうに吐いた。
「『外』を見たわ……何もなかった……何も、本当に何もなかった………あの中で生きられるわけがないって……そう思って気づいたの……あの中で、あなたはずっと、生きていたって…っ」
あなたは、ずっと、あそこに、居たのに。
「私は…何も……見えていなかった………っ」
ついに堪え切れなくなったのだろう、わあああっっと激しい号泣がことばを奪う。つられて口を開いたユーノも一緒に声を上げて泣きながら、体を覆っていた重くて分厚い岩のようなものがザラザラと崩れ落ちていくような感覚を味わった。
全てが崩壊してしまって、明るい未来が何も望めなくなってしまったのに、何か見えない大きな透明な円環のようなものに包まれた気がする。
しばらくそうして2人で抱き合って泣き続けていたが、少しずつ落ち着いてきて、互いに力を緩めあい、やがてそっと体を離しながら、相手の頬を指先で拭った。
「ユーノ」
「はい」
「1つ決めたことがあるの」
「はい」
「…セレドを頼みます」
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今までの話は こちら 。