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決心がついた。
ハルは断言した。
「源内?」
「わかった、止めん。と言うか、止めても無駄だろ、これまで通り」
もう何度目かになる溜め息を重ね、コーヒーを飲み、腕時計を見る。
「そろそろ出よう、我慢のできない奴らが騒ぎ出す」
「わかった」
「ハルくん」
立ち上がったハルと源内を伊吹が呼び止める。
「何を出すの?」
止める間もなくすうっとハルが顔を下ろす。頬にキスするような近さで何事か囁く。
「え」「え」
警戒した京介の声と瞬きした伊吹の声が重なった。
「本当?」
「うん」
驚いた顔で振り向く伊吹はハルの近さに気づいていない。
その一瞬、ひどく悲しげな優しげな笑みがハルの瞳に滲んだ。老成した高齢の男が小さな子どもを見る目だと京介が思った瞬間、ハルと目が合う。
鋭く貫くような怒りが届いた。
望んだ相手は決して自分の手には入らない。なのに目の前に、それを事も無げに攫っていく存在がいる。完膚なきまでに叩きのめしてやりたいが、愛しい相手はその存在を命に代えても守ろうとする。
できることはただ一つ。
「京介」
ゆっくり体を起こしたハルが呼び捨てた。
「はい」
思わず立ち上がる。
罵倒されてもいい殴られてもいい、けれどこの場所は生涯誰にも譲らない。叩き落とされても蹴り飛ばされても、伊吹が許してくれるなら、何度でもここに戻ってくる。
「遠くにいる」
静かな声で言い放った。
「予定」
意味が取れない。
「連絡」
「あ」
源内もまた首を傾げ、けれど伊吹ははっとしたように体を強張らせた。
「招待」
「……」
まっすぐに京介を見つめて来た黒い瞳に理解が落ちた。続くことばに自分だったらと思うと、京介は胸が詰まる。
「結婚式」
見届けさせろと訴えられている。大事な女性が必ず幸福になるのだと確信させろと命じられている。
「はい、是非」
約束すると、ハルは頷き、くるりと向きを変えたが、
「美並?」
「はい?」
第2会議室から出て行きながら、ハルは背中を向けたまま言い放った。
「そいつ、女に襲われてるから」
「えっ」「あ」
京介は引き攣った。
「阿倍野とか言うのに、果物ナイフで昨日刺されかけたらしい。怪我してないって言ってるけど?」
「ハルくんっ」
思わず呼んでしまった。
「いじめられろ」
ぼそりと唸ったハルは振り返りもせず、部屋を出て行く。すまん、と片手で源内が謝ってくれたが、それを見送って立っている伊吹は無言のままだ。
「あの、伊吹さん…」
「…どう言うことですか」
くるりと伊吹が振り返る。静かな目が怖い。
「今夜詳細を聞かせてください」
「う、うん」
(中略)
「…っ、あっ」
堪え切れなくて、京介は声を上げる。
「いぶ…き…」
視界が霞む。息が弾んで頭が朦朧とする。
(中略)
容赦なく高まっていく体が辛い。
(中略)
口を開いて熱を逃がす、それぐらいしかできることがない。
汗に溶ける。溺れていく。
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