御影石の鳥居は威厳を保ち岡部氏の名前を彫っている。材木の鳥居は10年過ぎたのか、朽ち果て |
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赤い柱だけ残っている。無残な姿を晒すより「いっそのこと切り倒せばいいのに」と思うが誰も祟りを恐れ |
自然に任せる。笠木と額束だけは、腐ってはいるが厳かに枯葉の上に揃えてある。「心或る者に金持ち |
はいないのか」。修復は不可能なくらい腐っている。新品に建て替えるしかない。「お前が替えろ」と言わ |
れそうだが、財布が否決する。 |
元旦、参拝したとき私は決心して、狛犬に打ち明けた。鳥居再建のため、どこか篤志家を探してみる。 |
稲荷は商売の神、地域の商売人に呼びかけ募金を募る。これは初夢の物語で見たが叶うまい。遠い氏 |
子にお願いする。見たこともないから付き合いもないし、金を出しそうに無く、舌なら出す。 |
商工会の年始で、初対面だが面倒見の良さそうな他所の区長がいた。「太賀神社の壊れた鳥居なん |
とかなりませんかね」とおどおどしながら、お願いしてみた。「市との会合の時、話してみましょう」という。 |
外交辞令も多い世の中だが、うちの地区の区長の何もしない口調よりは益しだ。 |
次の年の新年会、例の区長に尋ねると「私も動きましたよ。しかしなかなか宗教には町は金を出せない |
と言うんです」一応は談判してくれたことに深く感謝した。 |
次の年の新年会、例の区長は「いやー氏子総代の岡部さんに、稲荷の鳥居が折れて、尖ったまま残っ |
ています。子供が遊んで突き刺されたら大事です。寄付願いませんか」と口説いと言う。 |
真新しい鳥居が6本建てられていた。世の中、捨てる神あれば、拾う神あり。 |