第1話「サム(some)を救え」のあらすじ かわいそうなサム(some)。語法で有名なスワンの言うように、We need cheese.とWe need some cheese.という2つの文で「チーズが要る」という意味は同じなのでしょうか? someはあってもなくても同じだというのでしょうか? サム(some)は自分が顧みられないでいるのは20世紀の日本のバブル経済とその崩壊を目の当たりにして、みな忙しかったせいであるから仕方ないと我慢してきました。でも今は21世紀。もう我慢の限界です。とうとう、しくしく泣き出してしまいました。そこに「英文法ルター」が通りかかります。言語学者のソシュールやバルトというサポーターを得て、ルターはサムを救います。 第2話「ルターの対比的文法解説」のあらすじ サム(some)を救出してホッとしていたルターのところへ【無冠詞】がやってきます。今度は【無冠詞】が仲間はずれにされているというのです。自分がした仕事が不十分だったことを思い知らされたルターは深く反省します。そして「対比を利用した文法解説」によって【無冠詞】もa / an / someやtheと関係があることを皆に示します。
Uncountable and plural nouns can often be used either with some/any or with no article. There is not always a great difference of meaning. We need (some) cheese. We didn’t need buy (any) eggs.
〈統合〉について言うと、日本語の場合、助詞「が」の機能の1つになっている。 例えば 月が東の空に見える。 のように「月が…」と言えば、「月は…」というのと異なり、対句は作らない。 〈統合〉は「いつだれがどうした」のような語りの形式に向いていると言える。物語文では「むかしむかしあるところに白雪姫という女の子がくらしていました」のようにa girl named Snow White「白雪姫という女の子」と提示して、「どんな子?」「だれ?」を述べながらその主人公に焦点をあわせて物語ろうとする。だから「対比を避ける」機能のあるa / an / someが用いられる。 日本語に関して言えば、以上のことが言えますね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
比較言語の観点で:英仏中日 〈話題を対比する場合〉と〈話題の対比を避け、そのものだけに言及する場合〉 文法上の視点の持ち方 「対比する/対比を避ける」という切り替えをある機能語が果たすというのは英語だけのことではなく、他言語にもある。例えば、対比を避ける機能語として、英語では【a / an / some】、中国語では【很】、日本語では主格の助詞「が」などが該当すると私は考えている。
英語 【名詞】冠詞の有無 (1)【無冠詞】:対比的 I like dogs.([動物では]イヌが好き) I like dogs, not cats.(ネコではなく、イヌが好き) Tea or coffee? Tea, please.(コーヒーか紅茶はいかが? 紅茶、お願いします) 定義文向き。グループ内に並列関係にある、違いに関心がある。 He was elected chairman.「彼は議長に選ばれた」 They are doctors, not nurses.「彼女らは医者で、看護婦ではない」
(2)【a /an やsome】対比的ではない。提示文や物語文向き。「どんなものか」に関心がある。 定義文での例外的措置:単数の場合は冠詞が付く I am a student.「私は学生です」 He is a doctor.「彼は医者だ」 (He is doctor.ではなく、英語では具体的イメージを優先したため、不定冠詞を用いたHe is a doctor.となったと私は考える。ちなみにフランス語では定義においては対比を重視しているので、無冠詞が徹底している) Yesterday I met an Australian.「昨日オーストラリア人にあった」
【形容詞】 対比的。定義する文ではそれぞれの違いに関心がある。 He is Australian, not American.「彼はオーストラリア人で、アメリカ人ではない」 解説:『プログレッシブ英和』(集英社)には「国籍を言う場合はHe’s an American.とはあまりいわない」と註が付いている。 国籍を話題にする場合は対比することに焦点があるので、無冠詞になっている。それに対して、話題を提示する場合や物語文では対比説明はせずに、Yesterday I met an Australian.「昨日オーストラリア人にあった」のように言うのが自然になる。
(2)a / an / someは対比的ではなく、意識は分散せず「そのものだけを話題にする」。曲が流れていくのに似た〈統合〉のイメージでとらえると良い。
ルター:以下のスワンの例文では、どうなるでしょうか? We need (some) cheese. バルト:(1)無冠詞は対比的で、それぞれの違いに関心があるわけですから、 We need cheese.「(バターなどではなく)チーズが必要だ」 milk ミルク butter バター (2)a / an / someは対比的ではなく、意識は分散せず「そのものだけを話題にする」ということで、 We need some cheese. 「チーズが必要だ」 ということになりますから、(1)無冠詞のWe need cheese.「(バターなどではなく)チーズが必要だ」は、ちょっと聞き手には強く聞こえる場合がありますね。だからふつうに言いたい場合、さりげなくsome cheeseと言うわけです。Give me water.「(他のものではなく)水をください」よりGive me some water.「お水ください」がソフトに聞こえるのと同じ効果がsome waterにはあるわけです。 ルター:なるほど。someは機能としては「対比を避ける効果」があるんですね。心優しいsomeにぴったりな役回りですね。早く教えてやらなくっちゃ。バルトさん、佐藤さん、ありがとう。
以下は雑誌『新英語教育』(三友社)の2002年1月号「授業に歌を」の記事です。someのことにも触れています。 ■『犬が好き』事件を検証する 大学生だった私が、塾で中学1年生を教えていたある日、一緒に働いている恩師と「『犬が好き』と英語で何というか?」で議論になった。 恩師の主張:I like a dog.と絶対に言わないということはないのだから、I like dogs.とI like a dog.、どちらを言ってもかまわないではないか。 「I like dogs.だと思うけど…」と、私はこの主張には不満だったが、その時点では「理論武装」できておらず、弁の立つ恩師には勝てず、泣き寝入りした(悲しい!)。この議論が今の私を作ったと言っても過言ではない。そして30歳を過ぎた頃、私を助けてくれたのはレトリック研究で有名な佐藤信夫さんと仲良しの記号学者ロラン・バルトくんとソシュールくんだった。ありがとう、みなさん!
■無冠詞は「対比」、説明文向き (リンゴやナシではなく)「バナナが好き」のように「種類の違い」を対比的に説明する場合【無冠詞】を使います。 対比する【無冠詞】 ・数えられる名詞[数を数える場合]は複数形 I like ┌ bananas.(リンゴやナシではなく)バナナ ├ apples. リンゴ ├ pears. ナシ ├ … … ※2022/10/04訂正加筆 「好きな果物」で丸ごと食べないメロン、スイカ、パイナップルなどは I like melon/watermelon/pineapple.のように単数形になる。
・数えられない名詞[量で量る場合]は単数形 I like ┌ chicken. 鶏肉 ├ pork. 豚肉 ├ beef. 牛肉 ├ … … (適用:Give me water.と無冠詞で言うと「(他のものではなく)水をくれ」と強く聞き手には聞こえます。そこで話し手はGive me some water.として話題のものだけに言及します。「対比を避けるsome」よ、くじけず頑張れ!)
■a / an / someは「対比を避ける」、物語文向き (a) 1. I’ve just bought a melon.(1個) (a) 2. I’ve just bought some melons.(数個) (b) I had some melon(ある程度の量)for breakfast. (a)対比を防ぐ【a/an+単数形 some+複数形】 (リンゴやナシではなく)「メロンを買った」と対比したいなら別ですが、ふつうに「メロンを買った」と語りたい場合、並列関係にある他のメンバー[例えば他の果物であるリンゴやナシ]を連想させない言い方として【a/an/some】をつけます。 (蛇足:I like a dog.が単文として不自然なのは、Yesterday I saw a girl named Maria.のように「どんなa dog / a girlか」を物語る語句が抜けていたからなのです。21世紀、無意味な2文比較はもうやめようよ、チョムスキー君。) (b)量を示す【some+単数形】 「メロンを食べた」と言っても、まるまる一個、 a melonを食べる人は少ないのでは? まるまる1個食べたと言いたいなら別ですが「(切ってある)メロンを食べた」とふつうに言いたい場合、1切れでも2切れでも関係なく「量」を漠然とはかる言い方として簡便に some melonと言います。
無冠詞の言葉を聞いて、急にルターは深刻な顔になった。自分はみんなが仲良くなるように、そして不遇な文法項目を救いたいがために活動しているのに、無冠詞の話によれば、新たなセクト・派閥を作ってしまっただけになってしまっている。こうして無冠詞が疎外されているのがいい証拠だ。これはa / an /someたちの認識不足なのだ。無冠詞が居てくれて初めて同じグループだと言える。だからクリスマス会をするなら、無冠詞を招いて当然なのだ。これは無冠詞が嘆くのももっともで、someだけ救った気になってうかれていた自分が悪い。ルターは自分のしたことが全うしていないことに気づかされたのだった。
●ルター、冠詞たちのクリスマス会に参加する 今日は遅いからと、無冠詞にとりあえず帰ってもらったルターは、a / an /someたちのクリスマス会に無冠詞と定冠詞theを連れて出席しようと考えた。そこでa / an /someたちに分かってもらえばいいと考えたのだ。まずはsomeに電話してみた。
ルター: もしもし、ルターと申しますが。 some: ああー、ルター先生。この間は本当にありがとうございました。 ルター: someくんだね。いやいや、どういたしまして。実はね、頼みがあるんだ。 some: いいですよ。僕ができることなら。 ルター: 今度クリスマス会をア・アン(a / an)さん姉妹とするそうだね。それに参加できないかな、と思って。 some: そんなことですか。喜んでご招待しますよ。いらしてください。 ルター: 僕だけじゃなくて、無冠詞くんと定冠詞のtheくんも一緒でいいかい? some: えー。どうかなー、それは。僕はいいですけど。 ルター: a / an さんたちのところでやるのかい? some: そうです。 ルター: じゃあ、a / an さんたちがいいって言えば、いいかい? some: いいですよ。 ルター: そう、それなら僕からa / an さんたちに了解とるよ。 some: わかりました。24日の6時からです。お待ちしています。
このあとa / an さんたちに電話して、すんなり了解が取れた。定冠詞theくんも行けると言うことで、メンバーは揃った。
無冠詞: 他人のこと、うらやむようで嫌なんですが、不定冠詞a / anさんは日本の人にとっては珍しい感じがするので、いつも初級の入門者には大事に扱われていますよね。そのあとは指示代名詞の「this / these / that / those4兄弟」と「定冠詞theくん」が登場すれば、もう十分、っていうかんじで冠詞の学習は終了。最近の中学テキストでは無冠詞も扱われているけれど、やっぱりオレは誤解されている。それがくやしい。ルターさん、今日はそこのところをはっきりさせてくださいよ、みんなの前で。 ルター: わかった、わかった。すみませんけど、a / anさん、ホワイトボードとマーカー貸してください。
ここに揃ったa /an / some とtheと無冠詞がどうしたら仲良くできるか? ルターは黙って板書し始めた。
●ルター、「対比を利用した文法解説」を説明する
ルター: 今日は説明法の説明、言うなれば「メタ説明」ですので、学習者向きと言うより、教授者向きの内容になります。一人で話すのもなんなので、someくん、生徒役になって下さい。 someくん: はい、わかりました。 ルター: 「対比を利用した文法解説」というのは、実際は無意識に行われています。中学生ならtoo ~ to「…するには…すぎる」とso ~ that ~ can’t ~「…で…できない」をほぼ同じ意味だと言うことで一緒に指導したりしていますね。 someくん: おなじみですね。 ルター: でも、「対比的文法説明法」と僕が言っているのはそういうものだけを指しているのではないのです。例えば、(本を借りに…)「図書館に行った」と言いたい場合、someくんはどう英作文するかな? someくん: Yesterday, I went to the library ….ですね。 a / anさん: あら、Yesterday, I went to a library ….というのも、いいんじゃないかしら。 someくん: うーん、そうだな。the library でもa libraryでもよさそうだな。 ルター: そうそう、こんなときこそ、「対比を利用した文法解説」が役にたつんだ。2文を比較し、対比することではじめてそれぞれの意味がはっきりするんだ。 結論から言うと、通常はthe libraryが自然に感じる。 a libraryだと2つの意味を聞き手や読み手に伝える。ひとつは「a library…とはどんな図書館なのかな?」という期待を聞き手や読み手に持たせる効果がある。英語におけるa /anは文脈から浮く効果があり、話し手や書き手が「どんな?」を直後で説明すると聞き手や読み手は納得して文脈に戻る。そういう文脈上での「動き」がでる。 もうひとつはone of the libraries「いくつかある図書館のうちの一つ」という意味なので「他にも図書館がある!」という意味が余計に出てしまい、聞き手や読み手にとってある面でノイズになる。 だから通常はthe library となって、文の後半に話題の焦点が行くようになっている。
(1) Yesterday, I went to the(→)library to borrow some books. 文脈から浮かず、気にせずにさーっと過ぎられる【the】の働き
例) They went to the library to check out books on earthquakes, but they were too late. (http://www.americancorpus.org/) 彼らは地震についての本を借りに図書館に行ったが、遅すぎた。
(2) Yesterday, I went to a(↑)library to borrow some books. 文脈から浮いているので気になってノイズになる【a】の働き = a libraryと聞くと「どんな図書館か? 気になる」「他にも図書館がある! と分かる」のどちらかの反応を聞き手はとるので、ある面、ノイズになる。 例) J. L. Johnson started a library in Lynchburg, Virginia, that contained eight hundred books and an assortment of papers (http://www.americancorpus.org/) バージニア州リンチバーグにある800冊の本を保有する図書館
I like you, even if you don't like me. (Swan) (たとえ僕を好きでないとしても、君が好き)
サムくん: いやー、慎み深く、遠慮深いな、僕って。 ルター: 果たしてそうかな?
《譲歩》 説得の手法 (a) Even if ...「たとえ…でも」と、相手の言いそうなことを先取りする(=相手に納得してもらいたい)。 (b) It is true..., but...「確かに…だが、…」と、相手の言っていることを認める姿勢を示して置いてから、反撃する。 (c) Whatなど + on earth「一体全体」やanyway「いずれにしろ」「兎に角」(とにかく)などの決まり文句を使うと、相手は説得されてしまう。 (d) 主観的な意見を「~だ!」を言うとき、1文だけで述べると説得力に欠ける。しかし2文で言うと説得力がある。 ・客観的事実をthough「~だけれども」と足すと、相手は納得してしまう。 ・極端に範囲を区切ってunless「~なら別だけど」と言うと、相手は説得される。