買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2009年04月12日
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もしお勢を深く尤(とが)むべき者なら、較べていえば、やや学問あり智識ありながら、なお軽躁を免れぬ、譬えば、文三の如き者は(はれやれ、文三の如き者は?)何としたものであろう?

二葉亭四迷「浮雲」を再読しました。25年ぶりくらいでしょうか。

以前読んだときのことは、はっきり言って覚えていませんが、今回「本田昇」や「お勢」が軽薄にも卑賤にも思われませんでしたし、いかに未だ幼態とはいえ、気難しくて独善的で、「文ちゃん、あんたほんまにどうしようもないなぁ~」と思ってしまう僕は、二葉亭言うところの社会に敗れさっているということなんでしょうか。

とはいいつつ、著者にしてからが、必ずしも「文三」を肯定的に描いていないことも事実です。


(中略)
「あれが自分かと思ふといやになってしまひ申候」と彼は明治三十六年に北京から逍遥に宛てて書きます。

(中村光夫さん「二葉亭四迷伝」より)

この余計者の系譜は、二葉亭がロシアの小説から呪いのように引継いでいるものでしょうが、これに急激な西欧化と旧価値観との相克という、二葉亭が生きた時代特有のベクトルが加味されて、この問題を複雑化させているように思いました。

また、題名である「浮雲」の由来は、「文三」と「昇」の間で揺れ動く「お勢」のことを意味するとともに、中途半端にふらふらする「文三」のことと両義的に感じました。
それと、「お勢」は急激な欧化に揺れ動く日本を象徴するもので、実は彼女が主人公だ、という説もあるそうです。

さて、

「浮雲」が彼の生涯のテーマを扱ったものであることは、二十年後の「其面影」で同じ主題がくりかえされているのを見ても明かですが、この小説をかりに三十台の二葉亭が、明治三十年代に書いたとしたら、彼自身の力量も、はるかに充実し、公衆の鑑賞力もずっと進歩していて、「浮雲」のような未熟未完の作品に、自己の文学的自信を賭けたり、そこに辛うじて盛り得た企画の新しさが、同時代の文壇ばかりでなく、後世の称賛からも誤解されるという悲劇は避け得たかも知れません。
(中村光夫さん「二葉亭四迷伝」より)

ということで、引き続き「其面影」を読んでみることにしました。

「浮雲」
「真面目で優秀だが内気な文三と、教育ある美しいお勢は周囲も認める仲。しかし文三の免職によって事態は急変、お勢の心も世知に長けた昇へと傾いてゆく。明治文明社会に生きる人々の心理と生態を言文一致体によって細緻に描写し、近代文学に計りしれない影響を与えた二葉亭四迷(1864‐1909)の記念碑的作品。」
(「BOOK」データベースより)

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Last updated  2009年04月12日 07時46分44秒
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