「ミナコの思考回廊」

「ラーメン」


「ラーメン」


俺がまだ中学生だった時。大震災というやつに遭った。

家族の姿はずいぶん前から見当たらない。
もう家とは呼べぬ廃墟の隅に座っていた。

すると俺と同じくらいの年頃だろうか、同じくボロボロになった衣服を纏った少年が目の前に座り込み、首を傾げて顔を覗き込んできた。
その姿がちょうどお座りしている犬のようで、俺は力なく笑った。


「あ、生きてた」

場違いなほど明るい調子の声だった。

「もう助からないって思ってんの?そんな悟りきった顔、若者には似合わないよ」

軽薄そうに言われた内容は、図星だった。
彼はよいしょ、と俺を起こした。

「肩かしてやるよ。生きてりゃ楽しいこといっぱいあるだろうし」

「、、、、、どんな、こと、ですか?」

感覚を失った片足がブラブラ揺れるのを感じながら尋ねると、
彼は明るい調子のまま、言葉を紡いだ。

「そうだなあ。役所の近くにある、竜王っていうラーメン屋、知ってる?
 すっごく美味しいんだよ。きっと、あと一滴でも何かをを加えたら
 味が変わっちゃうんだろうなあ、ってくらい完成された味!最高だね!
 ほら、食べたくなってきただろ?未練、生まれちゃっただろう?」

気づけば俺は、ひたすら頷いていた。涙を流しながら。

 「だから頑張ろう。大丈夫、生き抜けるよ」

 「、、、、、うん」

この周辺地区では唯一の生き残りであろう俺は、喉を引きつらせながら返事をした。背後ではまだ、瓦礫に炎があがっていた。



 この事件から約十年が経とうとしている。

すっかり復興の手が行き届いた町で、俺は毎日のように竜王に通っていた。
彼の言葉どおり、竜王のラーメンは驚くほど美味しくて、最近では時間の許す限りこのラーメン屋に立ち寄るようにしていた。

 (本当に美味しいよなあ、ここのラーメン)

今日も幸せに浸っていると、すっと隣の席に腰を降ろす人がいる。
いらっしゃい、という店主の声が遠くに聞こえた。
忘れられるはずもない。幼い面影を残した人。

涙が頬をつたい、スープの中に落ちる。


 「味が変わっちゃうって、言ったじゃない」

 あの日と同じ軽い調子で、彼は笑った。


© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: