「ミナコの思考回廊」

「群青」




彼女が長い前髪から覗く瞳を細くして笑うとき、瞳の色は夜の闇色から、瑠璃石の群青へと瞬間に染まる。

それは、他人を惹きつける色だ。
同時に全てのものを相容れず、はね返す鉱石の色だ。
その表面は磨き上げられたように滑らかに光り、その内側に秘められているであろう想いを閉じ込めてしまう。
そこからは何も、伺い知ることはできないのだ。


彼女と肩を並べて、波打ち際を帰った。


「今日のテスト、どうだった?」

「ん~、ふつう」


彼女がこちらに顔を向けた時、ザア―と音を立てて海を風が渡った。
風の行き去った方向に目をやった彼女は、何か呟いたようだった。
しかし言葉はそのまま海に飲み込まれ、引き結ばれた口が再び音を発することはなかった。

それでも、いつになくあらわになった瞳には、諦めにも似た何かが宿っているように見えた。

取り繕われた表面の群青を破って、それがもう少しで溢れ出しかかる。
私は彼女の横顔を見つめ、その何かを僅かでも逃すまいと待ち構えたが、一瞬表面に現れかけたそれは、
強く彼女自身に押さえつけられ姿を消した。

次の瞬間。

私はその群青を引き裂き、中にあるものを引きずり出したい衝動に駆られた。
今その中にある、綺麗なものも汚いものも引きずり出して、彼女とふたりで分かち合えたら。


「ごめん、ぼーっとしてた」


しかし、再度ゆっくりと向けられた瑠璃石の群青は、更に深みを増し、かたくなに染められていて。



私はぐうっと黙り込んで、それから少しだけ泣いた。



© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: