医師が病気になったとき-特発性大腿骨頭壊死-

医師が病気になったとき-特発性大腿骨頭壊死-

診断されたときの気持ち


教科書で読んでいた病気ではあったけれども、そんな重大な病気であるとは、病気になるまで知りませんでした。ちょっと信じられない気持ちになりましたが、仕方がないとも思いました。よくきかれたことは、こんな稀な病気になって、「なんで俺だけがこんな病気にならなければならないんだ!」という気持ちにならなかったのかということです。実をいうと、青空の下ジョギングをすることができないことが残念でしたが、あまり落ち込まないですむことができました。それは、私が医師であったからです。大学生時代からいろんな病気について勉強してきました。めずらしい病気、ありふれた病気、病気はたくさんあるのです。人間がかかる病気は多いのです。教科書の片隅にある病気でも、その病気にかかった人がいるから掲載されているのです。自分がその病気かからない理由なんかないのです。そう思うと、私が特発性大腿骨頭壊死にかかっても不思議ではないのです。私は、消化器内科の医師として、いままで多くの人の病気にかかわってきました。30代の結婚前のホテルマンが胃癌で苦しみながら命を落としたのも診たし、自分と同じ年齢のビジネスマンがまだ結婚もしていないのに胃癌で亡くなった際にも主治医として診療に当たってきました。病気、死というのは、ときにとても冷酷なもので、その人が志をもって生きていようとそうでなかろうと、関係ないのです。私が厚生省の難治疾患である奇病にかからない理由など、ないのですよね。いままで医師として、いろんなつらいことも味わってきたけど、自分が病気になったときに冷静に受け止められたことについては、医師になってよかったなと思いました。
 入院、手術は半年待ちの状態でした。その間考えていたことは、「社会人になって、1ヶ月以上も休めるのは初めてだな。ちょっと楽しみだな」ということでした。そうです。手術さえ我慢すれば、学生時代に味わった長期休暇が手に入るのです。でも、これって不謹慎ですよね。でも本音でした。

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