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2006年11月06日
テーマ： 吐息(401)
カテゴリ： Essay
昔、家族で住んでいた街に下車した。
すっかり賑やかで都会的に変身していたけれど、紛れもなくわたし達が家族として暮らした街だった。
道行く人の群れの中に混じっていると、時折見知った顔を見つけることができた。
でもすでに、名前も浮かんでこないほど、遠い記憶となっていた。
まだたったの四年しか経っていないのに……。
それにしては、わたしを取り巻く環境のなんと激変したことだろうか。
信号を渡り坂道を登った。
もっと時間を遡れば、今の喧騒すらなかった頃のことが頭をよぎった。
建物も殆どなく、坂の上から吹き降ろす風に体当たりするように足を運んだ。
この坂を上りきれば、暖かい我が家が待っているはずだった。
でもそれは、わたしにとっては団欒と呼べるものではなかった。
姑の顔が浮かぶ度に、わたしの足はそこで立ち止まってしまうのだった。
今夜もまた、彼女の罵詈雑言が飛び交うのかと思うと……。
わたし達の結婚に反対をした姑との同居は、想像をはるかに越えたものだった。
心配する両親を説得し、わたしはこの家に、彼の元に嫁いだのだから、逃げ道はなかった。
でも、この辛さを越えなければ、わたしには幸せなどやって来ないのだ、と自分に言い聞かせた。
人の何倍も、ささやかで平凡な幸せを願ったわたし。
どこで驕り、どこで罪を犯してしまったのだろうか。
一つ一つあげつらい、指を折ってみた。
思い当たる節が両手の指では足らなくて、一つ又一つと浮かんでは消えた。
先日、娘に投げつけられた言葉が改めて胸を刺した。
「過去ばかり振り返ったって何も始まらないよ。そうやっていつまで昔のことばかり言ってるの。だから母さんとは口も利きたくないのよ」
わたしは言いたいことをぐっと飲み込んだ。
自分の存在が、生きているというその場所が、急に疎ましくて消えてしまいたくなった。
この情況を嚥下できなくて、どれほど胸をかきむしったことだろうか。
シャワーを浴びながら、こうして涙にむせた日々を思い出した。
この街で、わたしは家族に悟られないように、何度嗚咽したことか。
そうして立ち向かったから、今があるというのに。
それらすべてを娘に否定された気がした。
辛さは、年々重さを増してきた。
時計の針を、誰かがほんの少しだけ巻き戻してくれたなら、わたしは何食わぬ顔をして、きっと今でもこの街の喧騒の中を歩いていたに違いないのに。
坂道を登りきると、かかりつけだった歯科がある。
今日はそこへ診察に来たのだ。
歯科医は、わたしの住所が変わって名前が変わったけれど、以前と少しも変わらなかった。
「何か疲れるようなことがあったのかな？少し通ってください」
「はい」
肩に入っていた力が一気にすーっと抜けた。
すっかり賑やかで都会的に変身していたけれど、紛れもなくわたし達が家族として暮らした街だった。
道行く人の群れの中に混じっていると、時折見知った顔を見つけることができた。
でもすでに、名前も浮かんでこないほど、遠い記憶となっていた。
まだたったの四年しか経っていないのに……。
それにしては、わたしを取り巻く環境のなんと激変したことだろうか。
信号を渡り坂道を登った。
もっと時間を遡れば、今の喧騒すらなかった頃のことが頭をよぎった。
建物も殆どなく、坂の上から吹き降ろす風に体当たりするように足を運んだ。
この坂を上りきれば、暖かい我が家が待っているはずだった。
でもそれは、わたしにとっては団欒と呼べるものではなかった。
姑の顔が浮かぶ度に、わたしの足はそこで立ち止まってしまうのだった。
今夜もまた、彼女の罵詈雑言が飛び交うのかと思うと……。
わたし達の結婚に反対をした姑との同居は、想像をはるかに越えたものだった。
心配する両親を説得し、わたしはこの家に、彼の元に嫁いだのだから、逃げ道はなかった。
でも、この辛さを越えなければ、わたしには幸せなどやって来ないのだ、と自分に言い聞かせた。
人の何倍も、ささやかで平凡な幸せを願ったわたし。
どこで驕り、どこで罪を犯してしまったのだろうか。
一つ一つあげつらい、指を折ってみた。
思い当たる節が両手の指では足らなくて、一つ又一つと浮かんでは消えた。
先日、娘に投げつけられた言葉が改めて胸を刺した。
「過去ばかり振り返ったって何も始まらないよ。そうやっていつまで昔のことばかり言ってるの。だから母さんとは口も利きたくないのよ」
わたしは言いたいことをぐっと飲み込んだ。
自分の存在が、生きているというその場所が、急に疎ましくて消えてしまいたくなった。
この情況を嚥下できなくて、どれほど胸をかきむしったことだろうか。
シャワーを浴びながら、こうして涙にむせた日々を思い出した。
この街で、わたしは家族に悟られないように、何度嗚咽したことか。
そうして立ち向かったから、今があるというのに。
それらすべてを娘に否定された気がした。
辛さは、年々重さを増してきた。
時計の針を、誰かがほんの少しだけ巻き戻してくれたなら、わたしは何食わぬ顔をして、きっと今でもこの街の喧騒の中を歩いていたに違いないのに。
坂道を登りきると、かかりつけだった歯科がある。
今日はそこへ診察に来たのだ。
歯科医は、わたしの住所が変わって名前が変わったけれど、以前と少しも変わらなかった。
「何か疲れるようなことがあったのかな？少し通ってください」
「はい」
肩に入っていた力が一気にすーっと抜けた。
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お元気ですか
マスター梅
さん
お元気ですか、お元気ですか、お元気ですか。
またみんなで飲みたいですね。
あの人と、この人と、そして紫苑さんと。
お元気ですね、泣いてても怒っててもいいです。
元気な紫苑さんの顔がみたいです。
また一緒に飲みましょうね。 (2006年11月07日 14時24分09秒)
またみんなで飲みたいですね。
あの人と、この人と、そして紫苑さんと。
お元気ですね、泣いてても怒っててもいいです。
元気な紫苑さんの顔がみたいです。
また一緒に飲みましょうね。 (2006年11月07日 14時24分09秒)
歯痛
れいき8508
さん
歯痛は、魂の痛みと聞いています。
過去の紫苑さんが、その場所に生きて
いるのは、間違いない。
娘さんは、その消せない事実に
気づいていない。
消す必要はないのに。
娘さんは、前に進みたいから、
気づきたくないのでしょう。
そういう年頃です。
でも旅だった人は、気づいています。
あなたを愛しながら、愛しているから、
そっと、前に押してくれています。
朝のＮＨＫドラマ。
たくさんの子どもと夫を残して、
心残りで亡くなった母であり妻。
最もまかせられる女性、
作家仲間で、子のいない、広大な心を持つ
彼女に向かって、夫をそっと
後押ししてあげたのだろうと思います。
だってそうでしょう。
そんな、小説になるようなめぐりあいって、
そうあるもんじゃないでしょう。
(2006年11月11日 13時10分06秒)
過去の紫苑さんが、その場所に生きて
いるのは、間違いない。
娘さんは、その消せない事実に
気づいていない。
消す必要はないのに。
娘さんは、前に進みたいから、
気づきたくないのでしょう。
そういう年頃です。
でも旅だった人は、気づいています。
あなたを愛しながら、愛しているから、
そっと、前に押してくれています。
朝のＮＨＫドラマ。
たくさんの子どもと夫を残して、
心残りで亡くなった母であり妻。
最もまかせられる女性、
作家仲間で、子のいない、広大な心を持つ
彼女に向かって、夫をそっと
後押ししてあげたのだろうと思います。
だってそうでしょう。
そんな、小説になるようなめぐりあいって、
そうあるもんじゃないでしょう。
(2006年11月11日 13時10分06秒)
生きてるよー
紫苑（しをん）
さん
マスター梅さん
会いたいよー。
会って、愚痴って、管巻いて。
梅さんの少し冷ややかな目で、
「もう止めといたら？」と言われたい。
最近大人になって、そういうのができなくなっちゃたから。＾＾； (2006年11月12日 09時57分58秒)
会いたいよー。
会って、愚痴って、管巻いて。
梅さんの少し冷ややかな目で、
「もう止めといたら？」と言われたい。
最近大人になって、そういうのができなくなっちゃたから。＾＾； (2006年11月12日 09時57分58秒)
芋たこなんきん
紫苑（しをん）
さん
れいき8508さん
あのドラマはある種の憧れです。
ああいう出会いがあったらなーって思います。
静かでゆるやかで、それでいて現実の喧騒はそれなのに楽しんで…。
本当の大人の時間を持っているご夫婦。
素敵だねー。
わたしの憧れです。 (2006年11月12日 10時00分43秒)
あのドラマはある種の憧れです。
ああいう出会いがあったらなーって思います。
静かでゆるやかで、それでいて現実の喧騒はそれなのに楽しんで…。
本当の大人の時間を持っているご夫婦。
素敵だねー。
わたしの憧れです。 (2006年11月12日 10時00分43秒)
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