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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)
夜の列車、網棚で眠る
Mogomlsari(モグルスリー)駅で乗り換える・・・・・と言われていたけど、そのまま乗車。
別に確信があったわけではないのだが、そんな予感が・・・・・あった。
とにかく、列車は西に向かって走っている。
それだけで満足だったのだ。
列車は夕日に向かって走っているのは間違いない。
一人の汚い身なりをした少女が、通路をこちらへ向かって歩いてきて目が合ってしまった。
俺に近づいてくると、一枚の写真を差し出して来るではないか。
何気なく手に取ってみると、キリストのような写真が写っていた。
そして、何か書かれてあったが、何が書かれているのか、まるで理解できない。
俺が分からないと言う顔をしていると、インドの青年が近づいてきて言った。
青年「その子は、お金を恵んでくれと言ってるんだよ!」
俺 「・・・・・・・。」
青年「私は父も母もいない。弟を養っている貧しい女です。何か私のために、恵んでください。そういうことらしいよ!」
俺 「はー!なるほど、バクシーシなんだよね。」
青年「イエス!バクシーシ!」
俺 「それなら、あんたが恵んでやれば!自分の国のことでしょうに!」
青年「この子はあんたに恵んで欲しいと言ってるんですよ。」
俺 「・・・・・・????」
新種のバクシーシにやられてしまったのか。
そうらしい。
いくらか、小銭を少女に渡して引き取ってもらうはめになった。
相変わらず、乗客たちが乗ったり降りたり・・・・、その度にジロリと睨まれてしまう。
そんなこんなで、優しい青年と車内で出会った。
丁寧な英語で話し掛けて来る。
学生のようだ。
俺 「この列車はデリーへ行きますか?」
デリー行きの列車かどうか訪ねると、・・・青年は紙に次のように書いてくれた。
「This Train Direct go to Delhi! It is a Express train.」
*
午前十時過ぎに、パトナ駅でこの列車に飛び乗って、今午後5:30、もう夕闇が迫ってきていた。
とすると、後十二時間も汽車の旅という事か。
青年の話によると、デリーに到着するのは、明日の朝になるという事だ。
パトナから実に、二十時間の汽車の旅という事になる。
なんとインドの広いことか。
助かった事に、乗り換えが無いという事だ。
ラクソール~パトナ間の苦痛の旅ではなく、割と楽しい汽車の旅になりそうな予感がする。
夕焼けが映える。
美しいインド大陸の夕焼けである。
もう目的地のデリーに到着したような気分でいる。
空席だった席が、だんだんと埋まっていく。
俺の席には、子供ずれの家族が席を埋めた。
親父はスーツを着た紳士に見える。
お母さんの方は、白いシーツを巻きつけたような民族衣装を身にまとい、インド人特有の黒いボッチが広い額に付いている。
顔はわりと整っているのだが、ぶくぶくと太った中年女である。
昔は美人だったに違いない。
小さな子どもが、その母親の弛んだお腹の皮膚をつまんで、キャッ!キャッ!と騒いで遊んでいる。
親父はそれを黙ってみている。
暫くして、自分の家で作ってきたのだろうか、大きな弁当を広げ始めた。
インド特有のカレーの料理だ。
箸やスプーンはない。
右手一本で、何度も指を動かしてご飯を丸めると、それをカレーに浸して口の中に放り込む。
寿司職人の技のように、指を器用に動かしていく。
なんとも豪快な食事風景ではないか。
三つ目の駅で、食事を済ませて降りていった。
*
午後十一時。
Kanpur駅に到着。
地図に書かれてある駅に到着した事で不安は解消された。
これで安心して眠れるという事だ。
車内で、チャエ(0.3Ru≒10円)と弁当(カレー)を3.5Ru(120円)で購入。
乗客が少なくなったとは言え、まだまだ安心できない。
今まではインドの学生が、いつもそばに居てくれたので、安心だったけど今は一人。
荷物をイスに置いたままではトイレにも行けないし、グーグー!と熟睡する訳にもいかない。
目を覚ますと、荷物が無くなっていたという事になりかねないのが、このインド国鉄の列車なのだ。
どうしようかと、・・・・・・考える。
そうだ!
荷物を網棚の上に放り投げ、自分も棚の上に攀じ登る。
荷物の上に腹ばいになり、そこで眠る事にした。
これはあの恐怖列車での体験が役に立ったと言う事だ。
その時は良いアイデアだと思い、寝相が悪ければ下に落下するという事など、少しも考えなかった。
何かのテレビで、アフリカでは長い旅をする時、水も食料も現地調達し、夜眠る時は木の上に登り、自分の身体を木の枝に縛り付けて眠ると言うことを放送していたのを見たことがあった。
時には、十分おきに木から落ちそうになり、目が覚めたと言うことを聞いたことがあるが、今まさにアフリカのそういう状況にあると言っていいだろう。
アフリカでは猛獣に教われない為に、ここインドでは盗難に遭わないための手段なのだ。
ここインドでは、命まで取られる心配こそ無いが、荷物を取られたのでは旅が終ってしまう恐れがあるでは無いか。
とにかく、油断しないにこしたことはない。
疲れのせいか、・・・・危険な場所で眠っているという事も忘れ、ぐっすり眠ってしまったようだ。
乗客たちの異様な目を尻目に眠りに着く。
明日の朝、どういう形で目が覚めるのか、見ものである。
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