ベルギー(四歳)の雑記部屋

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シキとメイド(妹)の場合







俺の名前は遠野四季、と言いたい所なんだが何と言うか今はそうとは言い切れなかったりする訳けで。


実の所『遠野四季』と言う存在はもうこの世には存在しない。
誰しもが唯一平等にその訪れを待つ死という奴を体験したって事なんだが。


じゃあ今ここでこうやって存在する俺と言う存在は一体どこの誰なんだといえばやはり遠野四季と言うしかないわけで


一番、語弊のない言い方を選ぶとするならばかつて遠野四季だったものの断片とか残滓とか言うもの、といった所だろうか。


らちが明かないので暫定的に俺の名前は四季であるとおもってくれればいい。


まー、ここにこうして分けのわからない現象の中でかろうじて自分が存在していると定義づけること…つまり『我思う故に我あり』と言う定義なわけだが…にしている俺にしてみても正確な所なんてものは何にも解っちゃいないのだからなんとも言えないのだが


そしてそんな『何も解っちゃいない』状態の俺だが一つだけ解っている事がある。




「・・・??・・・・」




それはこの俺が存在する空間に時折、客が訪ねてくること。
それも生前、縁があった者たち。




見れば不思議そうに首を傾げるメイド服が一人。







どうやらまたお客のようだ。













月姫 S ide S tory



白昼夢




ケース4 シキとメイド(妹)の場合








「・・・ここは・・・・??」




翡翠は目を細めながら首をかしげた。




そして辺りを見回す。






白。
ただ視界にはそれだけが映る。




空間そのものが白と言う色になりかわってしまったとでも言うかのように見渡す限り全てが白。




「何だかよく解からない状況です」




呟いてみるも現状は変わらないわけで。





なぜ自分はここにいるのか。


記憶を振り返ってみるが解からない。


自分からここに来た記憶もなく連れてこられた覚えもない。



自分の最後の記憶はと言えば一日の終わり、仕事もすべて終え寝巻きに着替えてベッドに入ったという記憶。




すなわちこれは。





「夢?」



「んじゃ、つねってみてやるよ」




と、いきなり誰かの気配とともに、にょきっと手が視界の端から生えてくる。







ムニ。







両頬を引っ張られる感触。






痛みはない。






・・やっぱり夢?





それならば、こんな現実にはありえないような所に自分ひとりで立たされているのにも納得がいくし、自分の背後からいきなり誰かの手が伸びてきて頬をつねると言うご都合的な状況も夢ならではともいえなくない。






ぽん、と手を打ち。







「ほへはゆへはほですね(これは夢なのですね)」





納得。





そして手の伸びてきたほうに振り向く。
そろそろつねるのを止めてほしい。





「よぉ、久しぶりだな翡翠」





そんな風に声をかけて来たのは白髪の子供。


着物を着流したどこかひねた感じのするどこかで見たことのあるような。





「・・ほなたへしょうか?(どなだでしょうか?)」




知っているはずのなのに思い出せない。


まるでこの子供に関する記憶だけに靄がかかったような感覚。





そして・・




いい加減、頬から手を離してくれないだろうか?



精一杯、非難げな顔をしてみるが子供はそれをしってかしらずか手を離さないまま、




「ほぅ、お前は俺の事を認識できないわけか・・・。・・つまり琥珀が俺の事を認識出来たのはやはり感応者として俺と繋がりがあったからか?・・翡翠の感応者としての能力は俺には向けられないわけだからな――――――なるほど。だんだんここの仕組みが解かってきやがった」




ブツブツと独り言のような物を繰り返す。




「いきなり俺が子供の姿に戻ったのも翡翠はほとんど子供時代の俺しか知らないからか?・・やはり認識の問題か」



「・・・あほ(あの)」



「つまりこの空間は・・・」




なおもブツブツと言い募る子供。
手はなおも頬をひっぱたまま。








「・・・・・・・・」








黙考する事、数秒。




手を振り上げて、













びっす。













「な、何しやがる!」




頭にチョップを一発。




「翡翠チョップです」




頬の解放に成功。
若干、胸を逸らしながら翡翠。




「・・・お前、昔と変わった様でその実、根っこはあんまし変わってないな?」




ジト目で白髪の子供が睨んでくるが無視の方向で。




状況を整理するとこうだ。


ここは夢の中で自分とこの子供は知り合いどうしと言う設定。
ただし自分は彼の事を思い出せないもしくは覚えていない。


夢だから、といってしまえばそれ以上の反論は出来ないのだが。



目の前の子供を見やる。




「・・・?」




やはり思い出せない。





「・・いや・・変わってないというか元に戻りつつあるというか」




難しげな、そしてどこか嬉しげな顔で白髪の子供が言う。
今は遙か彼方に去ってしまった何かを思い出すように。






・・彼の言う昔とはいつのことだろう。





昔。



白髪の子供。



変わった。




幾つかのキーワードが記憶の琴線に触れる。




自分が守られている事も知らなかった無邪気な子供だったあの頃。


大切だった物が突然なくなってしまったあの日。


そしてあの人が帰ってきてから少しずつ戻りつつあるかつての空気。




姉さんがいて秋葉様がいて志貴様がいて。




・・・?




ふと胸に違和感を覚える。




姉さんと秋葉様と志貴様。





そして・・





「・・あなたは?」



「あん?」



「あなたは・・」




何かいいたい事があるはずなのに言葉が続かない。


漠然とした何か。


違和感と言うか喪失感と言うか。


だがそれも次の瞬間には胸を通りすぎ。


残ったのは、私はこの人の事を知っていたと言う確信めいた感覚。







「貴方はお元気ですか」






口を出たのはそんな半ば意図が不明な問い。



だが白髪の子供はハァ?と言う顔をしつつも、





「あーー、元気と言うかなんというか。言ってみればこれ以上ないくらいに元気じゃないんだが・・ま、ボチボチやってんよ」





死んでるもんなぁと、どう言った物かと言う顔で頭を掻き律儀に返答する。




「ぼちぼち、ですか」



「おう、ボチボチだ。お前の方はどうよ?」






逆に問われ少し戸惑う。


自分に問うてみる。


自分は元気なのか。


今の自分はどうなのか。





「・・・・・」





しばらく黙考し、




「ぼちぼちです」




彼と同じように答えておく。
思考の片隅で日本語って便利だな、などと思いつつ。




「・・そうか。ぼちぼちか」




そいつは良かった。



白髪の子供はそう言うと静かに笑った。



昔、どこかで見たことがあるような笑みで。




「これからも、アイツの事を頼む」




ポツリと、そして唐突に彼。




アイツ。


それが誰なのか。


何故だか解かる。




「勿論です。私は志貴様付きのメイドですから」



「いや、そーいう意味じゃないんだけどな・・って」




言いかけて止め、





「まぁいいか」





やはり静かに笑う彼。




「さしあたっての私の目標は志貴様の味覚を研究し、志貴様のご要望を完璧に備えた料理の勉強です」




前回の梅サンドも好評の様でしたのでと少しだけ自慢を込めて付け加える。




「・・・あー、まぁ程ほどに、な」




困ったような顔で言う。



・・スマン、志貴。



そんな呟きが聞こえたような気がするのは気のせいか。




・・何かおかしい事を言ったのだろうか?













「で、あれだ。コレは夢っつー事で」



「はい」



「何か悩み事やらグチやらがあったら聞いてやるぞ」




いきなりそんな事を言ってくる彼。




「いきなりですね」



「まぁ、と言うか先例に従ってというか他にすることもないしな。なければないで別にいいんだが」




他に俺がお前にしてやれることがあるわけでもなしと語る彼はどこか寂しそうに見えて。




「悩み、と言うほど物ものでもないのですが」



「お、何だ、言ってみろ」



「先ほどもいいましたようにお料理の腕を上げたいのですが、屋敷の仕事が忙しくて中々練習の時間が取れないのです」



「あぁ、そりゃ難儀だな。やっぱり料理なんてもんは実地で練習するのが一番だからな」



「はい。お料理の本や姉さんのレシピを見るだけでは上達は望めません・・そこでです」



「おう」



「出来ればここで練習させてもらえないかと。夢とは言えイメージトレーニングと言うのでしょうか?それくらいにはなるのではと」




ちょうど味見をしてくださる方もいらっしゃる事ですし。









「どうして後ずさるのです?」



「お前等やっぱ姉妹だ!却下!大却下!」



「新しいお料理のアイディアもあるのに・・」



「・・・い、一応、どんなアイディアくらいかは聞こうか」



「はい。ビーフストロガノフの」



「お、ロシア料理じゃねーか、いいねぇ冬だし」



和風仕立て




「和風仕立て?!」




「はい。志貴さまは和風びいきですので。本来、使用するトマトの変わりに梅干しを利用してみようかと」




「あー・・えっと・・・」




やや沈黙があり、




「ざ、斬新ちゃぁ斬新だな」




何ともいえない顔で言う。




・・強く生きろよ、志貴。




そんな呟きが聞こえたような気がするのはやっぱり気のせいか。






















そして、
















「?」





唐突に体が揺らぐイメージ。





「あー、あれだ時間感覚も狂ってるみたいだな」




遠くから聞こえてくるのはジリリリリリリ、と言う目覚ましの音。





・・あぁ、そうか夢が終わるのだ。





一瞬だけの、そしてこれは目覚めたらきっと忘れてしまうであろう類の夢。



薄くどこか遠くを見るような表情で微笑む子供。



様々な言葉にならない思いが胸に飛来する。



・・何なのでしょう、この感覚は



何か言わなければならない。



私はこの人に言いたい事が、言ってあげたい事が・・



しかし何を言うべきなのか、どんな風に言えばいいのか。




胸が、つまる。






「・・御元気で」





結局、口を出たのはそんな事で、





「おう。お前もな」





なぜか苦笑する彼。






・・何かおかしい事を言ったのだろうか?







翡翠が最後に思ったのはそんな事だった。




























白い、そして自分より他に何もない空間。





俺の名前は現在、暫定的に遠野四季。


実の所『遠野四季』と言う存在はもうこの世には存在せず、つまり誰しもが唯一平等にその訪れを待つ死という奴を体験したって事なんだが。





「御元気で、か」





もう少しだけ、この妙な場所で半端な幽霊生活を続けても悪くない。









そんな気がした。








END









あとがきみたいな



えっと・・うわぁ、何ヶ月ぶりだよってくらいの更新ペースです。
もうはや連載って言葉の連ってあたりが薄ら寒いですね。
うーん、じゃぁ断載?
呼び方を変える前にペースの方を何とかしろって感じですね(これは断罪)
やー、ゴメンなさい石を投げないでー。
次の話はもちっと、てか結構早めに載せたいと思ってるんで、ええもう。
そして次の話はいきなしこのシリーズのクライマックスです。
わぁ伏線とか何にもないのになぁ?
思わず自問自答です。

講うご期待~




しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる


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