ベルギー(四歳)の雑記部屋

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芝村の舞さんの場合




ガンパレード・マーチ サイド・ストーリー
~芝村の舞さんの場合~


「…さて」

…その日、速水厚志は日課である訓練の手を止めつぶやいた。

「どうした、速水・・」

突然手を止めた速水に、ほとんど抑揚のない一見不機嫌そうな声がかけられ

た。

同じ士魂号複座型に乗り込むパートナーの芝村舞だ。

現在の時刻は十九時。

勤務時間はとうに過ぎてはいる。

であるから、速水が『帰る』と言った所で別におかしい事ではないのだが。

この時間帯に訓練をお終いにするとは、この男にしては珍しい。

怪訝そうに眉を顰める舞に速水は笑って答えた。

「あー…ち、ちょっと今日は用事があってね…悪いけどこれで抜けさせてもら

うよ!!あ、それから訓練、付き合ってくれて、ありがとう。じゃっ」

「む…そうか、ではまた。それともう1つ。芝村には礼などいらぬ。覚えてお

くが…と、もうおらぬわ。……一体どうしたと言うのか…」

(……ん?抜けさせてもらう?帰らせてもらう、ではないのか?)

やはり腑に落ちぬ速水の言動に一人ぽつんと残された芝村の末姫はちょこんと

首を傾げるのであった。

@@@@@@@@@@@@@@@@



想像と言う言葉がある。妄想と言う言葉がある。

他にも夢想・予想・理想・臆測…

かくも人間とは、考える事が大好きな生物である。

考えるが為に明日に不安を持ち、考えるが故に今日に不満を持つ。

それはいついかなる場所でも変わらない。

例えそれが戦時中。

それも正体不明の人類の天敵「幻獣」との闘いの最前線。

まだ年端も行かぬ少年,少女達で構成される、ここ5251小隊であろうとも。

…もっとも、彼らの場合、今日に望みを持ち、明日に未来を見たりと、これは
これで、まんざらでもない様に見えるのだが…。

月が闇夜を照らしている。

闇を完全に振り払うでもなく、かつ闇に消されることもなく。

戦の用意を始めよう、今はまだ…目覚めぬ力が目覚めるまでは…

――――――「ナオウ」――――――――    

夜のプレハブ校舎の屋上。

ブータは満足そうにうなずいた。

@@@@@@@@@@@@@@@@

「むう…。」

舞が不機嫌そうにつぶやいた。

速水が居なくなった後、舞は士魂号の整備をしていた。

速水と別れ特にやることも無くぶらぶらと校内をぶらついていたら、半ば強引

に整備班の連中にハンガーにつれて来られ手伝う事を要求されたのだ。   


「…むうぅ」

はあ…

今度はため息も一緒に出た。

顔はいつものように無表情だが、明らかに様子がおかしい。

先ほどから士魂号の整備も実のところ形だけでほとんど仕事になっていなかっ

た。

いつもの集中力がまるで無い。

舞は胡乱げにハンガー備え付けの時計を見やる。

…十九時四十五分。

ここに来て整備の手伝いをし始めてまだ一時間もたっていなかった。

そのわずかな時間の間に何度あのバカ女に『なってない』と注意されたこと
か。

(…ふん。そんなことは言われなくとも解っているのだ)

横目でちらりと、自分と同じく士魂号の整備をしているクラスメイトの少女、

壬生屋未央を垣間見る。

「…なにか…?」

と、舞の視線に気がついた壬生屋が、舞に向けて冷ややかな視線を送った。

――ギンッ

・・文字通り周囲の空気が音をたて固まった。

周囲の整備班の生徒達が固唾を飲んで成り行きを見守る。

ある者は避難する準備をはじめ、ある者は自分の持ち場をこれから起こるであ

ろう災厄に備えて死守しようとする。

何故か反りのあわない、この二人の毎日のように繰り返される小競り合いとき

たら、ある意味、幻獣との闘いより凄まじいのだ。

それに巻き込まれ再起不能となった人間は数知れない。

ゴクリ…誰かの唾を嚥下する音が必要以上に響く。

皆が固唾を呑み見守る中、沈黙を破ったのは舞のほうだった。

「別に何でもない…」

「そうですか」

何事もなかったかのように作業を再開する二人。

『ホッ』

事無きを得た整備員達全員の安堵の息がこだまする。



それにしても…

「気になる…」

厚志のらしくない言動。

一体彼はどうしてしまったのか?

そんなことを考える自分の方こそ、らしくないなのでは?などとは露にも思わ

ない。

ただ、いつもと違う速見の行動が気になって仕方がない。

舞は未だかつて感じたことの無いその正体不明の感情に戸惑っていた。

それが、…その得体の知れない感情が…世間で言うところの『恋愛感情』とい

う奴であるのかは解らない。

自分以外の人間の事が、自分の事以上に気になったりする理不尽極まりない現

象。

そもそも幼い頃からずっと芝村であった舞には『ユウジン』という存在すら今

までに持った事がない。

彼が初めてなのだ。

ひょっとしたらユウジン…友達と呼んでもいいかもしれない、そんな存在

は…。

「ええい!止めだ。これでは仕事にならんではないかっ!!」

突如として、作業の手を止め叫ぶ。

「し、芝村さん?」

驚いたように壬生屋がこちらをみる…が。

(…なに構うものか。その通り。私は芝村だ。文句があるのならかかってくる

がいい、いつでも相手になってやろう)        

舞は手の甲に埋め込まれた多目的結晶体にリンクする。

(…光栄に思う事だ、速見よ。芝村である私にここまでさせるのだからな)

見つけたらたら蹴りのニ~三発でも食らわしてやろう。

そんな事を考えながらテレパスを使い彼の現在位置を確認する。

膨大な情報の本流が舞を包み込んだ。

さまざまな反応…そしてその中でもひときわ暖かく心地よい反応。

(…見つけた)

すぐさま、その場所へとテレポート。

舞の体がまぶしく光る。

それと同時に舞の姿が一気に掻き消えた。

「…い、一体どうしたと言うのです?」

後に残された、はかま姿の大和撫子は困惑げにつぶやくのだった。

「ま、舞?!どうしてここに…?」

突然現れた舞に驚いた速見が声をあげた。

静かな公園。

そして夜の公園に一人佇む速見。

その速水が向かい合っているもの。

「にゃあ」

小さな箱に入れられた、それよりも更に小さい子ネコだ。

突然現れた舞に怯えるように速水に不安げな目を向けている。

舞がテレポートで現れたのはそんな場面だった。

「速水…これは?」

「…昨日の帰りにみつけたんだ。飼い主に捨てられたみたいでさ…。実はこの

子たちの事が気になってずっと仕方が無かったんだ。」

「…だから…」

「うん。ハハ。とうとう我慢できなくなって訓練ほっぽり出して来ちゃったわ
け…。…ひょっとして、怒ってる…よ・・ね」

速水が上目ずかいでこちらの様子を伺ってくる。

舞はそれに、ぎこちなく笑ってみせ

「いいや…私は全然おこってないぞ」

「え?…でも」

「そなたの気持ち、解らんでもないからな。」

言うと、いぶかしる速見のそばに屈む。

「ほう…これは、な、なかなかモコモコとしていて・・か・・かわ・・」

「…気持ちが解るって……ひょっとして舞は・・」

子ネコに恐る恐る手を伸ばす舞に速水。

「なっ、ち、っちが。そ、それはべつに…そなたの事が気になってどうこうと

言うわけではなくだな…」

酷くうろたえながらも必死に弁明を試みる舞に、だが速水は一言。

「舞もひょっとしてこのネコを見に来たとか?」

……………

しばし絶句。

「ば、ばか者!!」

「?」

速水は不思議そうに首をかしげる。

……………………無言の間。

二人はしばし見詰め合い…

「………」

「………」

ぽっ。

何故か、どちらの顔も赤くなる。

「は、速水!!」

「な、何?」

しばらく言を止め何かを思案するように舞。

そして決心を決めたのか一人、うなずいて…

「そ、そなたに大事な話がある!・・」

「な、何…?」

「そ、その何だ…わ、私は…」

「ふけつです!!」

舞が何事かを言いかけたその瞬間。

舞が公園に現れたときと同じような光が辺りを満たした。

何者かがテレポートでこの場所にやってきたのだ。

「み、壬生屋?」

「人が、心配して、テレポートまで使って来て見れば!!……な、何ですか、

これは!!年ごろの娘がこんな夜中に男性と逢引とは!」

何やら頬を真っ赤にして、凄い勢いで何やら捲し上げる壬生屋。

「芝村さんも芝村さんなら、速見さんも速水さんです!!」

「い、いや、ご誤解だって…!」

「聞く耳持ちません!あなただけは、他の男性の方とは違うと思っていたの

に!これは裏切りですっ!!しかもよりによって相手がこんな無愛想な恥知ら

ずの馬鹿女だなんて!」

「い、いや、だから何の事だかさっぱり・・・」

「な、何を!そっちこそ、人がせっかく大事な話を速水に…」

「な、だ、大事な話って何です、大事な話って!!」

「ああ、もうっ。だから違うんだってば!舞はちょっと黙ってて!・・」

「ハンガーでの様子がおかしかったので心配して来て見れば…こういう事だっ
たのですね?芝村さん!!」

「う、五月蝿い!!そなたに心配されるいわれなど・・・む?ちょっと待て、

今、そなた何と言った?」

「だ、だから…」

(シンパイシテ?…誰を?…。いや、確かに言った。こやつは今…)

「あなたの様子がおかしかったから心配して追いかけて見れば…その、は、ハ

レンチな事をおくめんもなく……」

気になって・・つまり心配して、…と

自分を?この自分を心配して?気になって?それでわざわざここまでやってき

たと言うのか?

それはつまり…

速見の何時もと違う様子が気になって追いかけてきた自分と同じ?

(…そうか・・そう言うことか)

友といっていいかもしれない存在。

自分のことを友と思ってくれている存在。

「フフ…ははは。」

「ま、舞?」

「し、芝村さん?」

突然、笑い出した舞に怪訝そうに二人。

「だが、これはこれ、それはそれ。先ほどは、よくも邪魔をしてくれたもの

だ。借りは、きっちりと代えさせて貰うっ!」

壬生屋に向き直り身構える舞。

それに呼応して壬生屋も、間合いを計り飛びのいた。

「よ、よく分かりませんが、この壬生屋未央。挑戦を受けたからには全力で御

相手させていただきます。」

「…うむ。それでこそだ」

「ち、ちょっと、2人とも?」

今にも流血沙汰は必至な戦闘を繰り広げようとする二人の間で右往左往する速

見。


『せあッ!!』
「う、うわぁぁぁぁ?!」


かくして、惨劇は始まったのであった。

身をもって二人を止めようとした速水。

彼がどうなったかは言うまでもあるまい


合掌……・・


ちなみに、子猫はこの騒ぎの後、速水の家で飼われる事になったと言う。

めでたし・めでたし

「な、なんにもめでたくなんかなー――――――――――一いっ」

速水の悲痛な叫び声はいつまでも、いつまでも夜の公園に鳴り響いていたと言
う。

じ・えんど






しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる


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