ベルギー(四歳)の雑記部屋

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最終決戦




※ゲームをやった事のある人じゃないとわからないかも。一部、ネタバレ有  り。ですのでゲームやったことある人でもSランクエンドを見てない人は見 ないほうがいいかも…な内容です!






…………最初はただの空想だった。








空気に混じる鉄の臭いは血の臭いだろうか?

彼は激しく咳き込みながら、その度に走る激痛にさらに咳き込む自分を、どこ

か他人事のように考えていた。

出血はいたるところから。

しかも、その一つ一つの傷、どれをとっても致命傷ときている。


……全く笑える


『刈谷・・!・・コラッ!・・刈谷、聞こえるか?・・聞こえたら返事をしろ

っ!』


以前はコックピットだった物のスピーカーから、聞いた事があるような気もし

ない事もない音が流れてくる。






……少し懐かしい?・・いや。

……罪悪感?

……何の?何に対する?

……さあ? だが、所詮は音。



耳に入る音すべては雑音でしかない。






――――――――――ぎゅぉぉぉおぉぉおおおおおおおおおおお――――――





いや、たった一つ例外があった。


眼前で怒り猛れる鉄の巨兵が声をあげた。

血を流し、傷つきながらも、自分に逆らう様に立ちはだかる彼等…

それだけは単純に美しいと思えた。

でも

こんなに美しい物を壊さなきゃならない。



一瞬、迷ってしまう。



そのせいで、攻撃された。

凄く痛い。

何だろう…あの青い光は?

……あぁ、どうしよう。


自分はあんなにも美しい物を壊さなければならない。

そう思うと、なんだか悲しくなる。


…いや……違う…そうだ!…そうだよ!!・・あれは違うんだ!


不意に思いつく。



あれは自分に壊されてこそ『完全』になるのだ、そうに違いない 



…と



完全、完全完かかんぜんカかカカンゼンカンゼンカンゼン……ゼンゼンゼンゼ

ン……

意識はまた闇に落ち。



彼は『竜』と同化した。



そして目の前の『物』めがけて






……ビュ







今度はためらうことなく攻撃できた。


















轟ゥ。


すさまじい衝撃と共に、また耳障りないくつもの警告音が狭いコックピットに鳴り響いた。



「厚志・・!行けるか?」



相棒の、いつもと何ら変わらぬようでいて、だが微かに不安とそして躊躇の混

じった声。


ただ、それがこんな時だというのに無性に嬉しくて


・・いやこんな時だからこそかな?



「勿論!!」



即答し、だが少し見栄を張りすぎたかなと思う。

実のところ、もうとっくの昔に限界など超えていた。

だが、又こうも思う。


『限界を超えた限界に限界なんてあるのかな?』


例えば、それは、人を一人殺すのも百人殺すのも同じ?みたいな?


……あれ違ったかな?


人を一人殺した人間はただの犯罪者で、百人殺した人間は英雄?


……ちがう?

……まぁ、どうでもいいけど。


極限まで延長された時間の中で思考する。


なぜ、自分がこんな目に合わなければならないのかと







……体中は痛いし、何だか血も出てる。

……士根号はボロボロで故障しまくりだし

……ってことは森さんに、また怒られる?

……それはヤだな。

……下手したら刺されるかも。

……なんかこの前、原さんに上手なナイフの使い方、教えてもらってたみたい

だったし。

……怒るなら幻獣にして欲しいよ。

……全く。

……こっちだって好きで壊してるんじゃないのに。

……幻獣にナイフで、えいやーって。

……それは、ちょっと見たいかも。

……でも、ほんとに刺されたらどうしよう?

……消毒?

……ってか、違うだろそれは。

……きっと僕は、あまりの痛さに気を失って、気が付いたら病院で、そこには

きっと、心配そうな顔で僕を覗き込む舞の顔があって、それから……フフ。そ

れから先は内緒♪。








……いいかもしれない。

……よし決めた。

……僕はその為にがんばろう。










「……おい、厚志」


「なんだい?」


「お前、今私を使って変な事を考えていただろう!!」


わお、大正解。


「ハハハ、そんな事ないって、ハハハハハハハハハ。じゃ、張り切って行こ 

 う!!」


「こ、こらっ、ま、またんか!!厚志?」


「ハハハハハハハハハハ」






狭いコックピットに響いていたはずの耳障りな警告音のうち、幾つかが鳴り止
んだ。  




















「え…えーと……」





絶望と喪失感。
その二つを足して二で掛けた……そんな重苦しい空気の指揮






車の中。 オペレーター席に座った瀬戸口孝之は真から戸惑った顔で何事かを

言いよどんだ。

先ほどの『刈谷』であった物の反撃。

それは実際に戦っている戦場から何百メートルもはなれているはずのこの場所

まではっきりと大気を震わせていた。

何とか、かわした物の、ほとんど至近距離から打たれた速水たち乗り込む士根

号が無事かどうか。


…そこに居合わせるほとんどの者は最悪の事態を想定していた。


無論、瀬戸口もだ。

だが、その最悪の事態すら想定していたはずの瀬戸口が言いよどんだのだ。

…一体、何事?と言う視線が瀬戸口に集中したのも無理はない。


「オペレーターは職務を果たしなさい。」


その中において冷静な…冷静すぎる善行の言葉で、硬直していた瀬戸口の脳回

路が再起動をはじめる。


(このおっさんは…!)


「報告します!!敵『竜』の攻撃を受けた士根号複座型、パイロット両名

は……」


みなが息を呑む音だけが聞こえる。


「両名は無事。…無事、なお現在パイロット両名はコックピット内でいちゃつ

いている模様!!」 



『なっ?』



瀬戸口の報告と共に複座型内部のスピーカーから拾った音声が流れ出す。



『ハハハハハハハハハハハハハハ』

『こ、こらっ…厚志!!何を笑っておるか!』

『かわいいなぁ…舞は。』

『なっ、ちょ…今は目の前のデカ物を何とか…こ、こらっ!変なところを触る

 な!!前を見ろ前を!!だ、駄目だ!ぶつかる?!』








………………………流れる沈黙……………









「ククク……ッ…ハ、ハハハハハ」


「し、司令官?」

突然、笑い出した善行に不審そうに原。

だが、その顔も何かをこらえるように引きつっている。


……やがて……


指揮車中の人間が笑い出すまで、そう時間はかからなかった。
















ののみは静かに祈っていた。

『誰かの為』ではない。 ここではないどこかの誰かの為にでもなく 今ではな

い未来の誰かの為にでもなく

……ただ、自分達の未来の為に。  




鉄の巨兵がゆっくりと標的…『竜』に向き直った。







そして雄たけび上げる。






雄雄しく、雄雄しく、ただ雄雄しく。

















まず先に動いたのは士根号。 間合いを詰めるべく一足飛びに『竜』に向かい

飛ぶ。


轟!!


何の予備動作もなく『竜』、先ほどの生体レーザー。

それを、予測していたのか士根号、半身だけ身を引き、すれすれのところでか

わし、その勢いを殺さず、後ろ回り蹴り。


―――――――直撃!



が、士根号の三倍はある巨大な『竜』の防御を崩すには至らない。

逆に士根号が蹴りの際、受けたダメージの方が大きい程だ。 だが、構わず士根号は間髪いれずに攻撃を繰り出す。 ガッ、ガガッツ、ガッ!! 次々とパーツの破片が飛んでいく。



乱打 乱打 乱打 乱打 効率や、配分など、何も考えない攻撃。







だが、やはり『竜』の巨体は揺るがず……… それでも!!










乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打

乱打


乱打








その間『竜』半歩たりともは動かない。

まるで士根号に乗る二人をあざ笑うかのように口をゆがませ……

だが、二人の乱打は続く。

もう既に武器はなく、弾薬もなく、間合いを取りなおし、精霊手を使うほど気

力も体力もなく。

だから、それでも、乱打は続く。

彼らにはそれしか出来ないから。


















「なぁ…」


ぽつり、と声を漏らしたのは今までほとんど放心状態であった『彼ら』の教師のうちの片割れであった。


「なんです?」


答えたのはもう一人の教師。


本田と坂上だ。

現在、戦場に一番近い人間でもある。

本田は『刈谷』を何とかとめようと、『刈谷』にこちらからの電波が届く所ま

で何も考えずに車をすっ飛ばしてきたら、そこについていた。

坂上は戦う速水達をサポートしようと、速水たち乗り込む複座型にこちらから

の電波が届く所まで一番効率が良い場所を選んだら、たまたま本田と出くわし

た。


ただそれだけの事。


そしてどちらも失敗した。

本田の声は『竜』には聞こえたが、『刈谷』には届かず。

坂上の声は最初の内こそ複座型に届いていたが、『竜』の最初の一撃に電子機

器が全て壊れてしまい使い物にならなくなった。


こうして、二人は彼等の戦いを一番近くで見ていることになった。


「なぁ…」


「だから、なんです。」


「気のせいかもしれないがよ……あいつらの…複座型の拳…なんか光ってねー
 か?」


「何ですって?」


サングラスをはずし坂上。


「た、確かに……確かに光っています!!あれは……一体?」




驚愕する二人の目の前で、複座型は舞う。










絢爛たる舞を






















……青い光がくる。

……ばかな!!

……やられる?

……僕が?

……なんで、なんで、僕ばっかり

……憎い、憎い、憎い

……何が?

……え?

……何が憎いんだい?

……お、お前は誰だ?

……君さ ……僕?

……そう、僕。

……そうか、僕は狂ってるんだ。ハハ、おかしいよ。うん、絶対変だ。

……そう、僕は変だった、間違った選択もしてしまった。でも、狂ってなん 

  かいない。

……嘘だ、もう後戻りできない。間違った選択は、二度と取り消せない。

……本当に?

……違うのかい?

……所で、僕は君の良心ってやつらしい。

……?

……まぁ、言っても解らないだろうけど、OVERESシステムが君の狂気と僕とを

切り離したらしいんだ・・・全く、やつらも解っちゃいないよね……わざ

わざ僕を切り離したりしなければそもそもこんな事にはなりはしなかっただろ

うに…ま、あちらは『竜』さえ出せれば手段は選ばないつもりなんだろうけ

ど……

……何をいってっるんだ?

……いいんだよ。別にそれで。まぁ、僕らは貧乏くじを引かされたってさ。

でだ、どうする?このまま僕は『竜』と一緒に滅びるか? やつら…岩田や坂

上達『OVERES』は気づいてないみたいだけど、ただ『竜』を倒すだけじゃ、こ

の世界に掛けられた呪いは解けない。

……呪い?

……そう、呪い。僕達が助からない限りハッピーエンドにならない呪いさ。 ……どう言う事だ?

……リセット。なかった事になってしまうんだ。今までの事が全部。 そしてゼロからやり直し。

……それは………ヤだな。

……OK,その言葉を待ってた。さぁ目を閉じて……

……見える、見えるよ…青い、青い光が


















そしていまや、複座型の青く光る拳は一撃一撃、確実に『竜』を壊していって

いた。

『竜』が壊れていく。

青い光はどんどん強く、どんどん輝きをまし…… そして、『かつて刈谷だっ

た者』は『かつて刈谷だった者でさえなくなった物』へとその姿を転じていっ

た。


…すなわち。












「ここ…は…?僕は、『竜』に取り込まれて…?」


「なっちゃん!?」  


























この時代の事を書き記した歴史書は当然のことながら多い。 当時の幻獣と人

類の戦力差や、九州に配備された小隊の力関係から、戦時下にはやった節約料

理の資料まで、それはもう多種多様な種類の書物がある。 だが、その全ての

本の締めくくりの言葉は、まるで示し合わせたように同じだと言う。 すなわ

ち 『めでたし、めでたし』と








END




しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる


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