わきみずのほとり

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精神医学



 現在、精神疾患による入院は多数かつ長期となっている。ノーマライゼーションの考え方の一層の普及のためにも、精神疾患に対する「心の障壁の除去(心のバリアフリー化)」を進め、「地域ケア体制」を構築していくことが重要である。心の健康、いわゆるメンタルヘルスとは、人格に調和があり、一貫性と安定性があり、自分を取りまく現実をありのままに受けとめることができるということである。欲求不満があっても、それをある程度コントロールでき、自己の主体性を保ちながら、他人との間に良い人間関係を持ち、新しい課題に直面したとき、回避せず、現実的、合理的な解決をはかった上で、日常生活の中に楽しみを見いだし、社会的役割と活動をすることができるよう、精神保健活動が存在する。将来に対して可能性や希望を持ち、自己実現をめざすことが、精神病、人格障害、精神遅滞、アルコール依存や薬物依存などの精神障害の予防には効果的である。

 精神保健は、広義では精神的不健康の予防を領域としており、すべての人間を対象に積極的に精神的健康の増進を目指している。ライフサイクルのそれぞれの時期における取り組みは以下の通りである。

○家庭における精神保健

 家庭崩壊、家庭内暴力、不登校、離婚、自殺、家出、虐待等の問題行動があげられ、予防・対策として、母子保健医療体制の整備、生活環境や社会環境の整備・改善、健康福祉センター、保健所、医療機関による精神保健相談、子育て支援や課程支援などの活動が行われている。

○学校における精神保健

いじめ、校内暴力、不登校、非行、薬物依存等の問題行動に対し、集団生活の訓練、忍耐力や社会適応力の養成、児童間の人間関係・教師と児童間の人間関係等に着目し、学校保健法に基づき健康診断や健康相談の一環として、児童・生徒のみならず教師や学校環境の改善が図られている。近年は問題が多様化・重度化してきており、児童・生徒、教師、保護者等の学校関係者はもちろんのこと、第三者の協力機関の存在が必要とされ、スクールカウンセラーが設けられるなど、一人で問題を抱え込まないよう取り組みがされている。

○職場における精神保健

産業精神保健と呼ばれ、労働環境による神経症やうつ病、適応障害などの心の病が問題となっている。これに対し労働安全衛生法により、労働者の心身の健康と保持と増進を図ることを事業主の責任であるとした。集団における人間関係の調整、チームワークと役割行動、労働環境の調整、事故の予防、休息や娯楽の取り方などストレス対策を目的とし、ストレス関連疾患や疲労の予防を図っている。

○地域における精神保健

急激な都市化、生活環境の変化等から地域において多くの問題が起き、従来の相互援助システムが危機に陥っており、全ての市民を対象に地域精神保健活動が進められている。心的外傷後ストレス障害対策の推進、社会環境への不適応による精神的不健康の予防や早期発見、改善向上、心の健康作りを目的とする「積極的精神保健福祉」と、障害に関わらず街作りそのものにつながるノーマライゼーションの具現化を目指す「総合的精神保健福祉」に分けられる。

 狭義での精神保健は精神疾患の正しい見方、処遇の改善、精神疾患の予防であり、主に精神障害者が対象となる。

1.一次予防:精神障害の発生を予防する。精神保健知識の普及、心身および社会的環境の整備。日常生活、就職、結婚問題などきめ細かい対処。国民の精神的健康の保持・増進による精神障害の発生の予防。

2.二次予防:精神疾患の早期発見・早期治療。慢性化の予防により、社会適応能力を保たせる。後遺症の予防。精神障害者の医療面の向上。

3.精神障害の三次予防:精神疾患の治療後の社会復帰やアフターケア、再発の予防。精神障害者の社会復帰、地域ケア。精神障害者の自立と社会参加の促進。

 そして、これらを実際の活動として体制化したものを次に述べる。

・精神保健法成立(1988):国民の精神的健康の保持増進を図ることを目的とし、法律の名称を精神保健法とした。精神保健指定医の資格と役割を明確にし、精神障害者の社会復帰の促進を図るため、精神障害者社会復帰施設に関する規定を制度化した。

・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法):平成7年5月に精神保健法が改正され、法律の名称を変え、平成5年12月に障害者基本法が成立し、精神障害者もこの範囲に明確に位置づけた。また、これまでの精神障害者の保健医療施策に加えて福祉施策を充実させる必要性が高まり、社会復帰等のための保健福祉施策の充実、法体系全体における福祉施策の位置づけの強化などが改正内容であり、法律の目的はこれまでのものに加えて、「自立と社会参加の促進のための援助」という福祉的要素を明確にした。精神障害者保健福祉手帳制度・社会適応訓練事業の創設、社会復帰施設、事業の充実などが制度化された。この他に正しい知識の普及啓発や相談指導等の地域精神保健福祉施策の充実、市町村の役割の明示、より良い精神医療の確保等を掲げている。

・「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」改正(1999):精神障害者の人権に配慮した医療の確保に関する事項の改正、精神医療審査会の機能強化、精神保健指定医の役割等、医療保護入院の要件の明確化、精神保健福祉センター機能の拡充、精神病院に対する指導監督の強化を目的としている。

しかしながら、我が国の精神保健に関する施策やサービスの整備は十分に進んでいないのが現状であり、今後、医療・保健・福祉の全般にわたり向上されていかなければならない

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