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Dec 6, 2014
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         (武田家内紛の序章)

 隠居所で信虎が珍しく一人で大杯を呷っている。 

「いまいましい」  

 孫の氏真に対する憤りが口をついてでる。 

「大殿」  

 襖越しからお弓の緊張した声がした。

「入れ」  

 声と同時に緊迫した顔つきのお弓が姿をみせた。

 そうしたお弓の態度、顔付は信虎にとり、初めて見るものであった。 

「如何致した?」  

「このような書状が、わたくしの部屋に投げ込まれましたぞ」

 お弓が小さく折りたたんだ紙片をそっと差し出した、一読した信虎の

顔色が変わった。その変化をお弓は見逃さなかった。  

「事が露見いたしたか?」  

 信虎が口中の酒を飲み下し、魁偉な相貌を歪め呟いた。

「これは勘殿の書状ですね」

 お弓がそんな信虎の様子を眺め、書状を置き去った者の名を糾した。

 信虎も一目で分った、書状の片隅に道鬼と記されていたのだ。

 信虎は無言で肯いた。

「直ぐに小林兵左衛門殿と海野昌孝殿と警護の士が参ります、この城から

逃れませぬとお命が無くなります」  

 お弓が普段の態度に戻り、冷静な口調でとるべき行動を信虎に述べた。

「直ぐに旅の用意をいたせ。金子も忘れるな」

「あい」

 お弓が姿を消すと同時に、小林兵左衛門と海野昌孝が部屋に現われた。

「大殿、いかが為されます?」  

 日頃、温厚な顔つきの小林兵左衛門の相貌が険しくなっている。  

「騒ぐな直ぐにこの場から立ち去る、行く先は京じゃ」

「京に上られますか?」  

 警護頭の海野昌孝が驚きの声を洩らした。

「まずは駿府城下を逃れることが先決じゃ」

 信虎が飲み残した酒をぐびっと咽喉に流し込み立ち上がった。

「兵左衛門、わしの旅装の用意をいたせ」

「はっー」  

 小林兵左衛門が素早く部屋から辞去した。

「大殿、城下を抜けるまでは我等にお任せ下され。その後は甲斐に戻ります」

 海野昌孝が、この先の動きを信虎に告げた。

「わしの警護なんぞは無用じゃ。甲斐のために命を捨てよ」

「御屋形さまにお叱りを被ります。城下を抜けるまではご一緒いたします」  

 海野昌孝は一言残し、忍び足で去った。

 勘助め、何処からわしを見張っておる、信虎が闇を透か見た。

 駿府城のあちこちに松明の明りが、慌ただしく動き廻る様子が見える。  

「莫迦者め、わしを殺せるものか」   

 信虎がしわがれた声で嘯いた。

 小林兵左衛門が旅装を持ってもどった。  

「着替えを頼む」

 信虎は愛用の兼光の大刀を手にし、旅装に替えさせている。

「大殿、旅支度は整いました」  

 兵左衛門が乾いた声で告げた。

「城下を抜けたら、お弓と三人で京に上る」

「大殿、拙者はここに残りまする」  

「兵左衛門、死ぬ積りか?」  

 信虎が平伏する小林兵左衛門を見下ろした。

「大殿、良き機会が訪れました。どうか拙者をこの場にご放免下され」  

「兵左衛門、いまなんと申した?」  

「拙者も武士の端くれ、見事に死に花を咲かせたく思いまする」

「そなた残って戦うと申すか?そうすれば万に一つも助からぬぞ」   

「もとより覚悟のうえ、屋敷で今川の刺客と戦い時を稼ぎまする」

「兵左衛門、無用じゃ」  

 信虎のしわ深い顔が奇妙に歪んだ。人の親切を素直に受けれないのだ。

「長い間、大殿とご一緒で楽しゅうございました。ここでお別れいたします」

 小林兵左衛門が信虎を見上げている。

「兵左衛門、久しく見なかったが面(つら)が乾き良き武者顔じゃ」

 信虎の言う面が乾くとは死を決し、見事に討死を覚悟した者の表情を言う。

 お弓も初めて小林兵左衛門の武士としての覚悟をみた。

 闇夜の彼方から追手の声が聞こえてきた、信虎が兵左衛門の肩に手を置いた。

「そなたも武士じゃの、武者働きもさせず許せよ。冥途で待っておれ」  

「そのお言葉を頂き十分にございます。さらばにございます」 

 小林兵左衛門が軽く低頭した。  

「武田武士として見事な働きを為せ」

「はっ、お弓殿、大殿をお願いいたしますぞ」

 お弓が切れ長の眼を見開き肯き、兵左衛門を見つめ直した。

 見事に覚悟を定めた武士がお弓の前に居た。 

「大殿、用意がととのいました、ご案内いたします」

 海野昌孝と二人の護衛の士が旅姿で現われた。  

「さらば、案内いたせ」

「はっ、二人の配下は残り時を稼ぎまする。その間に城下を抜けます」

「皆の者、命を粗末にいたすな」

 一声のこし信虎が部屋から足早に去った、その背後に忍び装束のお弓が

信虎を守るように続いていた。

「小林さま、貴方さまもご一緒に行かれませ」

 残った護衛の二人が兵左衛門に逃げるように勧めた。

「いささか長生きをいたした。そなたらと武田武士の最後を今川の腑ぬけども

に見せようぞ」 

 小林兵左衛門が信虎の飲み残した酒を口に含み、大刀の柄に吹きつけた。

「さらばご一緒に戦いまするか、明りを消し夫々一人となって戦いますぞ」

「判った」  

 三人は闇の中で最後を飾るべく備えについた。

 漆黒の闇の中を信虎は海野昌孝の先導で進んでいる、背後はお弓が警戒し

ながら続き、五名は一団となって城下の軒下を駆けた。

 無数の松明が隠居所に向かっている。

「さらばじゃ」 

 信虎が再び低く呟いた、小林兵左衛門の温顔が脳裡を過ぎったのだ。

 遠くで怒号と雄叫びの声が聞こえてくる。

 小林兵左衛門と二人の警護の士は、襲いくる今川の刺客と壮絶な闘いを

繰り広げ、身を朱に染め討死を遂げたのだ。

 小林兵左衛門は最後まで奮闘し、身に数創の手傷を負い力尽きた。

 一行は駿府城下を無事にぬけ漆黒の闇をぬって駆けた。

「大殿、大丈夫ですか?」  

 お弓が信虎の老体をいたわり心配している。

「大事ない行け」  

「この先に古寺がございます、そこで少し休息を取りましょう」

 海野昌孝が励ました。すぐに鬱蒼とした杉林の中に小さな寺が現われた。

 一行は息を整え水で咽喉を潤し彼方を眺めた。松明の明りが動いている。

 こうして信虎一行は忽然と駿河城下から消えうせた。

 この知らせが躑躅ケ崎館の信玄の許にもたらされた。激怒した信玄は重臣を

召集した。盆地の甲斐の八月は暑い。

 主殿に集った重臣達が扇子で風を送り信玄を待った。

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Last updated  Dec 6, 2014 05:16:36 PM
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