「杉の花粉」の独断と偏見に満ちた愛読書紹介コーナー

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5 オベリスク

「うつ」の見せる夢:『オベリスク(墓標)』

暁の一瞬の間隙を縫って、夢を見た。

酷く短い夢。

 昔の職場の多くの上司と船に乗る。
艫綱が結ばれたのは不可思議にも山間の村。

 思いを告げる若い女性を振り切るように村を観る。

低い山に点在する家屋。
正面からは、何処にでもありそうな静かな寒村。

横に廻ると石造りの側面に彫られた名前
生前の名前なのだろうか。
一様に古く、はっきりと読むことが出来ない。

全ての家の側面に、其々幾つかの名が彫られている。
背面にまでビッシリ名の彫られた立派な家もある。

点在していると思った家屋は、一定の間隔で列を組む。
過ぎた家屋を振り返る。
見事に整理された墓標が並ぶ墓場が出現する。

墓を守る正方形の屋代に近づく。
家屋と同じように名が彫られ。

四方を閉じられた格子戸から大腿骨が一本突き出していた。
真っ白な髑髏(シャレコウベ)が幾つか覗いている。

周りの景色が色を失い・・・。
目覚めた後、暫らく呆けたままタバコを吸う。

昔に見た夢 を思い出していた。
 幼い頃から 住み慣れた町 巨大なオベリスクがそそり立つ。
白い靄に包まれて近づくことさえ出来なかった。
墓標だった のかも知れない。

『五百羅漢』 を見つめていると 必ず見知った顔に出会う という。

夢幻の墓標 刻み込まれた幾つかの名。
誰の名前 があったのだろうか。

私の名?
家族の名?

 今は それが私の名であることを、ただボンヤリと望んでいる。
死に憧れている訳ではない。

祖母の名、母の名、そして父の名。
我が家の墓標に刻まれた名前。

もう此れ以上、愛しい人を失うのに耐えられないだけのこと。

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