いつも通りで時々異常。

ニ章。


クラスの中でも人気がある方で、元気なのが取り柄と自負してるやつだ。
多分サッカーでもしているのだろう。
白と黒のボールを追い掛けている。
俺はサッカー以外にあんなに駆け回って白と黒のボールを使う球技を他に知らない。
日差しが彼らを明るく照らし出している。
そのせいか何人かは、上着を脱いでいてシャツ姿だ。
「はあ……」
何故だか解らないが溜め息をつきたくなった。
しかしそれは、何も知らずに暢気に普段を過ごしている彼らへの不満や呆れからなのか、それとも……なんでだろうな。
「ん!?」
驚いてうっかり大きな声が出た。
食事中じゃなくてよかった。
昼休みというのに教室に残っていた何人かがこっちを見たが、俺はそれを無視して窓の向こうへと視線を戻した。
別のモノが混じっている。
辛うじて人間の形を保っているものの、真っ黒の大きな渦をぐちゃぐちゃとうごめかせながら人間の中に混じってボールを追い掛けているのは、
「『魔』ですね。」
いつの間にか背後に図書館で借りたらしい何冊かの本を抱えたアスハが立っていた。
「うおっ!?」
本日ニ度目の驚きの声。
しかも短期間。
ニ回目なので教室内の視線を一身に集めることは無いと思ったら、女子グループがいる方から、
「あのニ人いつも一緒だよね」
「美男美女カップルだねー」
なんていうひそひそ声が聞こえた。
仕方ないだろペア行動なんだから…っとそんなことよりも、くそー、討滅師が後ろをとられるなんてアスハめ中々やってくれるじゃないか。
「あれ?また眼鏡が違うんじゃない?」
朝は丸眼鏡だったのに今かけているのは四角い形の銀色のフレームだ。
「おそらく…というか確実に誰も気付いてないでしょうね」
はい?それは貴女の眼鏡の話ですか?
「あれだけ大きくなるとちょっと厄介ですよ?見たところ昼に活動はしてないものの、具現化までは出来るみたいですし…」
大きい?具現化?
「ん…ああ、あの『魔』ね。」
指差し確認。
「何の話をしてると思ったんですか…」
俺だってDクラスの討滅師だ。それくらい一目で解る。というか眼鏡についての話を無視しやがって。
「あれは誰に憑いてるんだ?」
「夜になるまでわかりませんね」
『魔』というのは不思議で、夜まで人を襲うことはまず無い。
勿論物事には例外があるもんで、昼間でも活発に活動出来るやつもいるにはいるが、『魔』の中でもかなり上級のヤツだけで滅多に遭遇しないし、そういうのを討滅するのはBランク以上のお仕事だ。第一、そこまで成長するのを黙って俺達が見逃すはずも無い。だから殆どの『魔』は低級の頃に討たれて消える。
段階別だと弱い方から、「夜間具現」「夜間活動」「昼間具現」「昼間活動」「逆転」といった感じに別けられる。
ちなみに「逆転」というのは精神が『魔』と入れ替わることだ。今までに何例かしかないので良くは知らないが、討滅にはSクラスのみが当たったが、その頃のSクラス3名の内1人が命を落とすと言う結果だったらしい。
今グラウンドを走り回っているのは、そこそこ上級のヤツらしく「昼間具現」の段階まできている。
夜になると活発に活動を始めるのだろう。
しかしその活動というのも様々で、学校の窓硝子を全部割ったり、バイクに乗って爆音ならして町中走り回ったり、といった一見不良の様なものだが、酷いものでは人を喰うまでなるが。
そこで何故『魔』なんかが生まれるのかというと、その人(宿主)が持っている何らかの「怨み」や「嫉み」といった負のエネルギーが大きくなり過ぎると生まれるらしいが、まだそこんとこははっきりとは解っていないらしい。
「今の内討っときたいけど、昼間に動くな、ってのがなあ。」
「そうですね。でも規則だから仕方ありませんよ」
返答からするとアスハも同じ意見だったんだろう。
しかしそれでもやっぱり討つことはない。
何故なら「夜間に人を襲った場合、又は害を及ぼした場合のみ討滅が可能」というのが協会で決まっているからだ。
ああ、協会というのは討滅師を中心とした『魔』を討滅する為にあるグループみたいなもので、簡単に言えば、言い方は悪いが「秘密結社」ってところか。
一応「ギリング=グロック」という名称はあるものの、創設者、創設年月日一切不明のいろいろと謎の多い組織だ。
ギリング=グロック本部には討滅師のH~Sクラスのクラス別の班をはじめとする、今朝お世話になった医療班や、アスハの属するサポート班などがあるが、いろんな部署がたくさんあり過ぎて俺も良く解らない。(食堂部とかいうのもある)
そもそも何人いるのかも解らないので班としての本来の意味は成してないと思う。
メンバーは殆どが先任者がスカウトしてくる。
良い人材というのは『魔』が見えるか見えないかで決まる、らしい。
当たり前か。
そもそも見えなかったら話にならないもんな。





――そこで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
思考中断。
閑話休題。
ふう…もう終わりか。
「席につきましょうか。もうじき校庭の彼らも戻って来ますし。それに次は数学ですよ」
俺が数学嫌いなの知ってて言ってるな。
「はあ…学校終わったら本部で今夜の作戦について話し合おう。」
「どうせいつもと一緒ですけどね。」
あう。ズバズバと言いやがって。というかアスハ最近反抗期か?
年齢的に反抗期とはズレがあるけどなあ、とかくだらないことを思いながら俺にとっては地獄の、成績上位のアスハにとってはどうでもいい数学の授業を受ける為に席に戻った。
っと…、
「古泉!サッカーは楽しかったか?」
俺はボールを抱えて教室に入ってきた古泉に呼び掛けた。
「あ?何言ってんだ?サッカーなんてしてねえぜ」
じゃあ何をしてたんだ、と聞こうとしたらすぐに答えが返ってきた。
「ハンドボールだ。」
…はん、まさかハンドボールだったとはね。

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