オキナワの中年

オキナワの中年

夏化粧/池上永一



 「ブンガク」という概念がある。かつて「文学」という半ば権威的な閉域の中で受け継がれてきたものが、マンガやポップ・ミュージックなどに部分的に取り入れられる。逆にそういったサブカルチャーの感化を受けたものが、小説という伝統的なジャンルに取り組み始める。池上永一はそのような状況を代表する一人である。
 「夏化粧」はたまたま小説であるが、マンガであっても、映画であってもかまわない。この作品はいずれのジャンルに仕立てても、優れたエンターテーメントとなるであろう。陰の世界と現実世界を行き来して、我が子を救う主人公だけではなく、世界最速で走る少女、全く無名でありながらだれも知り得ない古代文明を解き明かす民俗学者、等々個性的な人物が次々と現れる。このキャラクター重視が池上の作品の特徴であり、しかもそれぞれのキャラクターの背後には、既に一定の歴史を積み重ねたマンガやアニメその他サブカルチャーの伝統がある。七つのアイテム、この作品では「願い」を収集するというわかりやすい設定も、コンピューター・ゲーム等で好まれる枠組みであるが、逆にありがちであるが故に、一つ一つのエピソードに斬新(ざんしん)なアイデアを盛り込むことで、一時も読者を飽きさせることがない。
 これをしょせんマンガにすぎないと批判するか、映画のようにおもしろいと評価するか意見の分かれるところであろうが、SFXが発展して、およそ人間が想像できるあらゆるイメージが映像表現として実現できる現代にあって、なお活字というメディアにチャレンジする池上の可能性に期待したい。小説でしか表現出来ないファンタジーが、現代もなお残っているか、ということである。また沖縄という素材についていえば、宇宙空間でもどこかの大陸の奥地でもなく、なぜ沖縄か、という問題がのこるだろう。なぜならこの島は超常的な神々の力が、近代科学の暴力の前に、完全に蹂躙(じゅうりん)された土地だからである。



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