トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2006/09/20
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カテゴリ: テレビ番組
zenryaku

■私にとって倉本聰の代表作と言えば「北の国から」よりもこの「前略」の方で、それは何故かと言われれば、それが放映された時期と自分の多感さとの交錯具合が基になっているように思う。本当に自分にとって1976年という年は色んなものの始まりを意識した年だった。

■実はさっきまでこのドラマの3話分くらいを本当に久しぶりに見返していたわけだが、もうあのショーケンのナレーションだけで訳もわからず震えてしまう。音響的には純のそれに比べ明らかにマイクの集音効率が古臭くて時代を感じさせるのだが、響いてくる言葉は間違いなく心をザワザワさせる。

■近代ドラマにおけるナレーション効果をいち早く決定づけたのは山田太一の「それぞれの秋」の方がこれよりやや先で、あのドラマでも小倉一郎の心の声はものすごく効果的にドラマの奥行きを広げたと思う。相手に向かって発するセリフでは伝えきれない感情をブツブツささやくナレーションという形式で視聴者に訴えかけた。ドラマ史的にもエポックメイキングな作品だったと思う。

■それに対し、前略におけるショーケンの語りは時に悲哀であり、時に告白であり、時に慟哭だった。劇中無口であるがゆえにその内面をぶちまけるためにそれはとても見る者に響いた。そもそも書簡形式の書き出しの”前略”という言葉がある時からその意味を逸脱して心の声を引き出す前提の言葉と化した。それは怒りや戸惑いや行く当てのない感情の発露として繰り返される。

前略おふくろ様、恐怖の海ちゃんです

前略おふくろ様、何も言えません

萩原健一のサブはちょっと小首を傾げてズンズン歩く。たいていその時彼は下を向いて歩いている。のっぺりとした坂道が多い。そしてそのバックに例のテーマ曲がピアノで流れ始める。ある時はモデラート、ある時はアンダンテ、しかもグールドのモーツアルト並みにゆっくりと。もうそれだけで私のようなファンは前略的世界に吸い込まれてしまう。そうじゃない人にとっては何でもないシーンのはずだ。

■北林谷栄、加藤嘉、梅宮辰夫、桃井かおり、室田日出男、川谷拓三、小松政夫、それぞれが適材適所に配置され、本当の人生のように働いたり動いたりしている。なかでもおふくろ様役の田中絹代のエピソード(彼女の葬式の回の数日前に本人が死去)は奇跡のような偶然で、このドラマを永遠にしている。



岡野「あれはまだ若くて 本当につぼみで ピチピチしていて きわめて健康で 胸のふくらみが 私に眩しくて・・・」ラフマニノフ、圧倒的に盛り上がってつづく。

■板場の喧噪が懐かしい。胸をうつのは出てくる人たちの言葉遣いの丁寧さにもあった。先輩には礼儀を重んじ、相手の立場を尊重する。梅宮の役は当初小林旭だったらしい。ショーケンの下でなんかやってられるかと言って彼が断ったかどうかは知らないが今頃地団駄踏んで悔しがっているに違いない。このドラマを見てその道(板前修業)を志した人は数多いという。

(きっと)つづく





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Last updated  2006/09/21 02:23:24 AM コメントを書く


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Comments

ミリオン@ Re:「北の国から」を友達にすすめてみる(01/02) こんばんは。 嬉しいです。頑張って下さい…
Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…

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