★★★★ しましま LIFE ★★★★

2010.05.31
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カテゴリ: 本の日記。
今年、今の時点で読了した
アーヴィングの作品は3つ。



・第4の手

・未亡人の一年

・オウエンのために祈りを



どれも上下巻で1000ページの長編であるが、
常に2冊並行状態なこともあり遅読となった。





主人公はアメリカのハンサムなニュースキャスター。
持論でいうとアーヴィングの登場人物にみられる

何事に着け満ち足り過ぎていることかなと思う。
労せずとも学力で困ることはなく、学生時代に両親を
亡くすが残された遺産で学費も生活も困ることはない。
感じのいいハンサムな彼はいつも女の子にモテモテ、
スポーツ部に所属してレギュラー、卒業してからは
志望のアナウンサーへの道を進みそこそこ成功している。




が、その一方で人物としての彼は非常に茫洋としている。
友人の証言でもわかるように記憶に残らない人というか、
たしかに感じはいいのだが人間としての深みに足りない。
「寝た女」は数知れずいるが恋愛の経験とはいえず、文中、
亡くした両親への悲しみは一切、綴られていないので、

何事によらず無頓着な彼の個性が大きいとは思うが、
求めずして与えられる者の不幸もそこにはあるのだと思う。





そんな彼の転機となるのが「事故」。
生放送の仕事中、ライオンに食べられて
利き腕の右手首から先を失ってしまう。

人にライオン男として記憶されることになる。
不思議なタイトルはその後の彼が使う義手や、
移植によって得た手、などのカウントである。




と、まとめると悲惨な話のようだが、
そこは アーヴィング、悲惨さはない。
ライオン男 の面目躍如、とりあえず
まだ茫洋としており、彼は彼である。
ある一人の女性とめぐりあうまでは。






アーヴィングの特徴として物語性があげられるが、
同じストーリーテラーでもキングとはえらく違う。
テンポよく転がるキングにくらべて緩やかに進む。
エピソードや引用、年代記述など深く脇道に分け入る
うち、いつのまにかまたストーリーに引き戻される。





何故、キングと並列なのかと言うと、
たくさん作品を読んだ大好きな作家
として際だつ違いを感じるからだが、
たとえば「第4の手」では、手を失った
主人公の主治医の描写が何十ページも続く。
その描写が半端ではなく、もしかしてこの人が
主人公だったのかな? と思うくらいである。
そんな待遇はキングの脇役にはみられない。
ちょっと紹介してみると・・・






移植医療の世界で自他共に認める「手」の
権威である主治医は離婚して妻に引き取られた
まだ幼稚園児の一人息子との心の絆に悩む。
別れた妻が心血をそそいで実の父を憎むよう
息子に働きかけていることもしらず、自宅で
過ごす毎週末の息子との面会に心を砕く。




そんな主治医の家には雇い主を憎む家政婦がいる。
主治医はあまりにも無頓着なために別れた妻にも
家政婦にもかほど憎まれていることに気づいていない。
が、主治医の息子への思いを知るにつけ家政婦の
主治医への認識はかわり、ありがちだが突拍子もない
二人の成り行きへとプロットは支流を伸ばす。




一方、徐々に息子との絆を見いだす主治医の
努力に一役かうのが 犬の糞 である。
犬の糞を憎む主治医は広い自宅の庭にしばしば
糞を探しみつけては名選手でならした大学時代の
ラクロスラケットですくって捨てるようになる。
その技術は向上しジョギング中の川沿いでも発揮される。
ラクロスでつちかった動きで走るスピードを緩めることなく
ラケットですくった糞を川に飛ばすのが楽しみとなる。




虚弱な息子を案じる主治医は川沿いの
ジョギングに息子を同伴するようになる。
別れた妻の悪意によって父と子に贈られた
悪食犬を愛した息子は自分の糞を食べる
犬の様子に心を痛め、父から学んだ犬の
糞捨てゲームで犬の健康を守ろうとする。
ジョギングでも息子は父のよい弟子になる。




川には大抵、練習中のボートがいて、
道路から飛んでくる犬の糞を憎んでいる。
息子のシュートで飛来した糞に憤るコックスの
様子に歓声を上げて笑顔を見交わす父と子・・
悪趣味だと思いつつ、いといけない子供が
父を見いだすエピソードに心があたたまる。







かなりの時間を共に過ごした後、ページを
めくると突然、主治医は消え主人公が戻る。
が、そこに不自然さはなく、アーヴィングの
うまさに唸る間もなく物語りに連れ去られる。
こんなにもネタバレでいいのか? とも思う。
が、大丈夫。 これくらいではビクともしない
面白さが小説にはあると信じる。






全体の読後の印象は、
こんなに凄い作家だったっけ・・・・





ちょっと驚いたのだが。
もしかしたら年を経て読む方の
感じ方が変わったのかもしれない?
願わくば、善く年をとりながら
読書を楽しんでいきたいものだ。

















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最終更新日  2010.12.06 11:29:54
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Re:第4の手。(05/31)  
なんか、すご~い!
雑誌でコメンテーターになってもいいほど
の文章が書かれてて
読み進んでしまいます。。。

(‘‘!

大人ノ階段が上になるにつれて
視点も鋭く?
楽しみ方も自由な?
読書や映画や、その他もろもろ・・・?!

人間自体がまあるくなって
どんどん満月のように内面から輝く
ようになりたいな~ぁ

(?_?)*

(2010.05.31 17:57:21)

Re:第4の手。(05/31)  
luumama  さん
松島トモ子のライオンに噛まれたニュ-ス
可愛い子役がいつの間にかライオンに噛まれた
ずっと引きずってお気の毒です

ワンコが自分の糞を食べるのは
アミラーゼの吸収が悪いから
自分の糞を食べることで補うので
その週間は成長と共に治ると聞いています
しかしそれを投げるとは。。。

冷静に読んだら 変?(笑)
ところでアーヴィングって名前で
ダ‐ビィンって連想するのは変?
そんな学者いなかった?


(2010.05.31 23:01:19)

Re:第4の手。(05/31)  
姫35  さん
書評が素晴らしくて読み入ってしまいました。

確かに
自分の年齢が上がることによって
経験ゆえか
感性が変わるのか
感じ方も変わりますね。 (2010.05.31 23:46:37)

Re[1]:第4の手。(05/31)  
jabanna  さん
りっちゃん

>なんか、すご~い!

ありゃ! 
褒めてもらった!?


>大人ノ階段

味覚は学習の産物といいますが、
物事の味わいも確かに深まる??
音楽も本も映画も基本、好みは
かわっていないのですが、裾野が
広がってゆくような気がします。


>どんどん満月のように内面から輝く
>ようになりたいな~ぁ

なりたいですね~~~
そうして人をもっともっと
幸せにしてあげたいね♪

(2010.06.01 08:10:29)

Re[1]:第4の手。(05/31)  
jabanna  さん
ルゥちゃん

>松島トモ子

ショッキングでしたものね!
小説を読んでいて、わたしも
そのことを思い浮かべました。
その後、どうされているかしらね・・・


>アミラーゼ補給

ほっえーーーーー
初めて知りましたが、それは大事な作業!
おしえてくれて有り難う♪

小説の悪食犬は成犬で糞だけではなく
ありとあらゆる食べてはいけないものを
食べては消化不良を起こして男の子と
パパを悲しませます。
バカな子ほど可愛い心理は世界共通かな?


>しかしそれを投げるとは。。。

その、庭で無造作に使われた道具や
糞の片付けは家政婦の仕事・・・


>冷静に読んだら 変?(笑)

ヘン、ヘン。
冷静でなくても超ヘン。
そしてどんどんどこまでも
ヘンになっていくねん(笑)


>ダ‐ビィン

進化論のダーウィン??
シラブルの成り立ちが似た名前、
脳が勝手にピカーんと動く~

(2010.06.01 08:35:56)

Re[1]:第4の手。(05/31)  
jabanna  さん
姫さま

長文、読んでくださって有り難う♪


>確かに
>自分の年齢が上がることによって
>経験ゆえか
>感性が変わるのか
>感じ方も変わりますね。

好きな作家もなにもかも
基本は全然かわらないのに、ねぇ。

第一、マサイ族並みの視力をほこった
我が目がシニア目と同時に乱視となり、
見る、ということ自体が以前と違う・・・
見たくない物が増えるので(自分の顔とか 笑)
神さまはうまく人間を作っているな
って思う と書くのは論点が違う~(^-^;)


(2010.06.01 08:42:29)

Re:第4の手。(05/31)  
@ミキヲ  さん
jabannaさんは、間違いなく進化して、感性も視点、視野も広く、深くなっていると思います。
jabannaさんの鋭い書評、コメントを読むとジョン・アーヴィングを読みたくなりました。
3冊平行読み。(汗)


>サリンジャー
フラニーとゾーイーです。
ちなみに、20年ほど前に買って、実家に置いてあった本です・・・。
アメリカ文学派というほど読んでませんよ。(汗)

>キング
トム・ゴードンに恋した少女です。
ちなみに、チビの野球とjabannaさんが浮かび買いました。(*^^*)
(2010.06.02 22:29:03)

Re[1]:第4の手。(05/31)  
jabanna  さん
@ミキヲさん

>進化

お~ 有り難うございます!!
最近、感じるのが読書って蓄積だなぁって。
全てを覚えておくことはできないけど、
はっ とさせられる文章が必ずあって、その
エッセンスのようなものが心に残るというか。
それはたとえるなら心の風紋?
あるものはべつのあるものと同じ風を受けて、
形を変えつついつの日か砂丘を成す・・・


>3冊平行読み。(汗)

4冊までならいける。
お互い。(笑)


>フラニーとゾーイー

ををををーーーーー!!
身近でそれを読んだ人は皆無。
わたしをふくめて・・・


>アメリカ文学派というほど読んでませんよ。(汗)

でも、一番読みやすくありませんか?
フランスやスペイン、イタリアなどの
ものにくらべて、英語圏の作品って?
翻訳かな・・ とも思ったりするけど、
映画にしたってそうだから、やはり、
日本人の思考回路がそうなのだろうな・・・


>トム・ゴードンに恋した少女

いい小説ですよね♪

身近なものが秘める驚異と恐怖。
キングは究極の恐がり&心配性(笑)


>ちなみに、チビの野球とjabannaさんが浮かび買い

ぶししぃ(^______^)


(2010.06.05 02:14:05)

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