自然の狩人

自然の狩人

「真理子」(20)



連絡も無く帰らない日が7日も続いた、法人設立(会社)を共に

立ち上げ専務として働く夫の友人に連絡を入れたが返事が

ない。仕事の細部は知らないから夫からの連絡を待つ

しか無い、妄想や邪推が頭の中を駆け巡った

生まれてから今までこんなに、心労したことなど

なかつた。夫の持ち物を片っ端から調べもした

昔の仕事(テレビ局の大道具)の同僚を探しあて、聞いて見たりもしてみたが、解からずじまい

お店は閉めたまま開店休業、もう頭の中には、お店の事

など、浮かぶ余地などまったくと言うほどない

ほとんど眠れず、神経が参って、四六時中「ぼーっ」としていた

浮かぶのは夫の事だけ 食事も喉を通らない

真理子の食事の世話をするのが背一杯だ

『何故帰って来ないのだろう』『若い愛人でも出来て遁走したのだろうか?』

『知らない所で交通事故にでもあつて。死んでしまつたのだろうか?』

『でも、会社の専務も捕まらない』『どうして?..なのだろう』

頭の中で交差する、疑問

台所の食卓のテイブルに力無く座って 冷蔵庫のビールのロング缶を開けて

口に運んだ そうもう一日待つて連絡がなかったら

警察に捜索願いを出して、探そう 

いいや、それもダメなら探偵に頼んで探そう

二本目の缶を空けると、食べ物を口にしていない身体に

「じわーっと」ビールが滲みた

頭の中の悩みの、片隅の底から、武と真理子が幼かった頃の

可愛くて、懸命に働きながら子育てをしていた頃の姿が

甦って来る 声にならない「ああーっ」と」胸が圧迫されて

涙がハラハラと流れ出る そう、涙は悩乱する苦悩の心

を癒すかのように、今、(私は不幸なのかも知れない)と

誰もいない台所のテイブルに 雨の日に葉に

溜まる水玉のように涙がしとど溢れる、今までの生きて来た

人生で流した事のないくらいな涙が、テイブルに落ちていた


誰もいない台所で、泣けるだけないた

少しだけ悲しみが遠のいたような気がした

でも、身体に力が入らない、何かをする、気力が失せて

しまつて、空っぽの意思と力が抜けた身体、そのまま座って

突然、食器棚の横に置いた電話が鳴った。

「もしかして、待っていた電話、直には立ち上がれない」

テイブルにお腹をぶつけて、痛みなど感じない

もどかしくも、急いで受話器を取る

電話から夫の声が『あぁーお前か?』嬉しさと安堵感が

広がって『すまない、早く連絡しなければいけなかったのに』

『仕事が大変な事になってしまって、専務が持ち逃げした。』

『今月切りの売り上げと今までの売り上げ金が』

『づーつと専務の行方を方々捜してて、早く連絡お前に

すれば良かったんだけど』 『しなくてご免、心配しただろう』『本当にごめん』

『心当たりを探すから、暫らく帰れないかもしれないけど』

『連絡は入れるよ、帰ったら詳しく話すから』

電話は一方的に切られた、夫の身を案じ仕事の世話をし

共同経営者として頑張り営業を担当し高額な仕事を取って来た。

夫は工事の現場管理と下請け業者との折衝等をしてきた

経理等は、そうお金の出し入れは実質、専務が握っていた

電話があつた事で、安心は出来たが

新たに、厄介な事が発生した 出来れば専務を探しあて

被害も小額で済む事を祈りたいと

でも、思うのだつた,夫が無事で「よかった」

不思議と 悩乱していた心の呪縛と身体に少しだけ

力が甦った感じが感じられた



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