専業トレーダー DaTsU

フィクサー


。人生に行きづまりを感じ始めた彼は、同僚が担当していた大企業の訴訟問題
にかかわることになり、やがて恐るべき陰謀に巻き込まれてしまう。

監督:トニー・ギルロイ
出演:トム・ウィルキンソン、ティルダ・スウィントン 他



地味めの作品が多かった今年のアカデミー賞レースで、数少ないスター映画の1本、それが『フィクサー』だ。絶好調のジョージ・クルーニーが製作総指揮と主演を兼任した企業犯罪ドラマである。だが、同じ製作総指揮を『オーシャンズ』シリーズ他で気心が知れたスティーブン・ソダーバーグが務め、撮影監督を『シリアナ』や『グッドナイト&グッドラック』で旧知の仲であるロバート・エルスウィットに依頼しているから、この作品の“クルーニー度”はいつも以上に痺れるくらい高濃度だ。

役柄も然り。今回、クルーニーが演じるのは、マンハッタンにオフィスを構える巨大弁護士事務所に15年も籍を置く、クライアントのスキャンダル揉み消し担当、題してフィクサーである。お得意様が人身事故を起こせば、即、馳せ参じて事故などなかったように事後処理する彼、マイケル・クレイトンは、そんな達成感のない影の稼業にほとほと嫌気が差している。このキャラ設定からして、クルーニーにアカデミー助演男優賞をもたらした『シリアナ』の、中東戦略のコマとして使い捨てられようとしているCIA工作員と、まさに瓜二つ。またかよ、と思ってしまう。

そんなマイケルが、企業犯罪の片棒を担がされることに疑問を感じ、被害者側に付こうとした途端、抹殺された同僚に代わって罪を告発しようとする件に及んでも、まだ、主人公の立ち位置は凡庸だ。『シリアナ』の他にもソダーバーグの『エリン・ブロコビッチ』等が脳裏に浮かんでは消えていく。しかし、クルーニーが監督と脚本を任せたトニー・ギルロイは、企業犯罪そのものより、むしろ、その背後で蠢く各分野のスペシャリストたち(弁護士、企業のオーナーと法務部長、そして、殺し屋)の魑魅魍魎を描いて、法律の分野から見たアメリカ社会のからくりを、観客に読み解かせようとする。システム続行のためにモラルを忘れた人々の呆れた実態は、今のこの時代、国境を超えて痛烈な問題提起にもなりうるのだ。

殺し屋に追跡されていることを知らないマイケルが、夜明けの野原に佇む数頭の馬に心を奪われ、思わず車を降りて丘を駆け上がっていくシーンは、人物設定でやや説明不足が目立つ中で、箸休めには最適だ。まあ、ちょっと難解な部分があり、気取った感じがするのも、クルーニー映画にはありがちなこと。絶好調男は、常に映画で社会を啓蒙しようとしているのだから、それを快く受け入れるのが映画ファンというものだろう。


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