魂の還る場所

魂の還る場所

ayumu06さんへ。1

 その瞬間を、私達は気付かないフリをした。
 一枚の絵の前で目が止まり、同じタイミングで立ち止まり、同じタイミングで互いに視線を向け…視線が絡み合ったたことを単なる偶然で片づけた私達。
 けれど本当は、偶然の方がずっとずっと低い確率の出来事で、必然なのだ。
 あの瞬間。
 リアリストな私達はそれを偶然で片づけたけれど、その瞬間、誰よりロマンチストだったのだ。
 偶然なんて言葉で片付けて。

 一瞬だったのか、それとも数分だったのか・・・
 どれ位の時間だったのか判らないけれど、二人の時間が重なった。
 何かが届いた訳でも、伝わった訳でもなくて、感じた訳でもなかった。
 ただ、心の動いた瞬間が同じだっただけなのだ。
 あの絵に惹かれた瞬間が同じだっただけ。
 自分が惹かれるものに素直に従って、あの絵をもっと近くで見たいと思った。
 淡い光を放つ白い花が、夜の闇の中に輝く絵。月の光を宿した花が、優しい光を照らし出している…。
 夏の夜にたった一晩だけ咲く花、真珠色の優しい光で闇を照らし、その後ろで大きな月が優しく見守っているような、あの絵。

 あの絵は、なんと言うタイトルだっただろう?

 知りたかったのは、それ。
 それ以外に何もない。
 ・・・何も。

 冷房の効いた美術館を、まっすぐに進む。
 あの絵に続く廊下を、他の絵には僅かな視線も渡さずに。
 夏の喧騒も熱も此処には届かなくて、それだけでも充分、何かが違う感じがする。
 まるで特別な場所みたいに。

 ・・・あの日も・・・
 そうだ、あの日も、そんな風に感じた。
 最初この美術館に入ったのは「何となく」だ。
 特に好きな絵や画家も無かった。綺麗とか良いなとか思う絵もあるけれど、それも結局「何となく」で、画家の名前も絵のタイトルも覚えているほどでは無い。
 此処に足を踏み入れたのは、本当に偶々だった。
 そして見つけたのだ。
 心が動く瞬間を。
 あの絵を。
 ・・・こんな風に、もっと観たいと思うよりも先に、身体が動いた。
 あれから何日か経ったけれど、同じに優しく微笑んでいる月下美人。
 高名な画家の作品ではないけれど、自分に響いた絵だ。

 ・・暫く眺めて、やっと目的を思い出す。
 この絵のタイトルが気になって、此処まで来たのに。
 額縁の下に、飴色に金色の文字が書き込まれているのを見ようとした時、何となく、振り返ったら。

 偶然は、必然。

 「巡り会う」なら、尚更。

                                         20020818 10:20up


 観劇に向かう道すがら、ぽろぽろ零れてきた作品・その1です。(笑)
 携帯のメール機能を使ってメモし、自分のPCに送って、そのまま編集・・・。

 この作品は、先日シズクさんとお会いした時に「ソウルメイト」の話をお聞きしたのが切っ掛けで出来た作品です。
 いわばシズクさんとの合作かも・・・でもayumu06様へのキリ番プレゼント第1弾です。
 ↑え?第1・・・?
 頂いたお題(キーワードと言え・笑)のうち、「美術館(絵)」と「パールホワイト」(作中では違う表現になっています…すみません…)を今回は使用しての作品となりました。

 ・・・まさかスガシカオさんのアルバム掛けながら書いたとは思われまい・・・(笑)
 ↑このCDもシズクさんからです。ありがとうございます~♪

 今回ついでに「月下美人」の花言葉を調べてみたのですが、国や出展先(本)によってこうも違うか!?というものが出てきました。
 話には聞いていましたが、本当に様々ですね。
 一部抜粋(花言葉に関して検索かけたらいっぱい出てきたので)・・・

     はかない美・はかない恋・繊細・快楽
     やさしい感情を呼び起こす。
     強い意志
     真実の時
     貴方に一度だけ会いたい
     幽玄
     あでやかな美人 

 と、まぁこんな感じでした。 


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