その２

弟は大学３年生。

１９９５年、夏、私は一年の留学生活の末、里帰りをしました。
この時、母から弟はあまり学校に行っていないようで、単位が
十分でなくて卒業できないかも、ということを聞かされました。

案の定、彼は４年間で大学を卒業できず、でも、留年することを
決意し両親もそれを経済的にサポートすることを承諾。その
一年後彼は晴れて大学を卒業しました。でも、単位はぎりぎりだった
そうです。

今、思えば、留年の年、後半は、母は弟に“ちゃんと卒業してくれ
よなあ” と半分冗談、半分本気のような言葉をかけていたと思います。
弟が心の奥底にどんな思いを描いているかは考えもせずに。

この年と次の年は、私もアメリカで運命を決定するような出来事が
起こっていたので忙しく、実家とあまり連絡は取っていませんでした。
当時インターネットでメールなどという便利な物は存在しなかった
ので、手紙でのやり取りです。

この当時の事は、だから、はっきり私も覚えていません。でも、家族内に
大事件はなかったと記憶しています。

大学を卒業後、彼はスムーズに仕事を見つけたか、苦戦したか、私は
知りません。でも、なんらかの仕事を持っていて、毎日しっかり
働きに出ていました。

１９９８年６月、私と旦那と二人で初めての里帰りです。この時彼は
２５歳。仕事あり。私達がアメリカへ帰る時には、彼は自分の稼いだ
お金で私の旦那に“甚平セット” をプレゼントしていました。

ここで、ちょっと家族の枠をはずれて、伝えておきたい事件があります。
私が家族と連絡をみつに取っていなかった頃、私のいとこの男の子が
自殺をしました。母はアメリカで頑張っている娘にわざわざ心配を
かけなくても、と私にはすぐ伝えてきませんでした。私が知ったのは
しばらくたってからです。

いとこの男の子は弟より２ー３歳年下。私の一番下の弟と同じ年だった
と思います。このいとこは、私の母の妹の息子になります。叔母には
二人の息子がいてこの子は下の息子になります。叔母の旦那というのは
異常な教育パパで、息子二人は小さい頃から勉強以外何もした事がない、
というくらい英才教育を受けていました。その期待を裏切ることなく
お兄ちゃんと同じ大学、早稲田大学にいとこも合格しました。入学後
まもなく彼は命を絶ちました。

この叔父と私の父は昔から“子供の教育方針”で意見が対立し、犬猿の仲
でした。父曰く、“子供にあんなに勉強ばっかりさせたら、子供が
だめになる” でした。いとこが自殺してから、父のこの叔父に対する
怒りはますます大きくなっていたと思います、“だから言ったじゃないか”
という具合に。

父はきっと、“子供がやりたいと思う事をやらせてやれ、のびのびと
育ててやれ、それが一番いい”と思っているはずです。でもその父は
“心を開く” という事が苦手な人です。自分にそれができないで、どう
して自分の息子にそれを教えてやれる事ができるでしょう？

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