南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

 (3)またしても空振り


《11月―キノコ奮戦記》~2002年11月の記録

 ∬第3話 またしても空振り

車は、以前アカマツを見かけたケメル方面へ向かって出発した。
今日は雲一つない快晴。絶好のキノコ狩り日和。
「あ、雪!」
アンタルヤの南西部に連なるベイダーラル(ベイ山脈)の一部がすでに冠雪しているのに気付き、私は思わず声を上げた。先週末の冷え込みで、アンタルヤ近郊に初雪が降ったのだった。

「それにしても、昨日のアラバルック(カワマス)には驚いた。袋から出そうとしたら、ツルッとすべって取り落としそうになっちゃった。おぉ!跳ねてる跳ねてるって」
店頭では、さすがにそれほど生きのいい魚をみることがないので、話にも力が入った。アラバルック特有の斑点も鮮やかに、全身がキラキラと輝きを放ち、ぬらぬらと滑っていたのだ。
焼きたてに醤油を少々垂らすと、言葉も出ず黙々と箸でつつきながら、あっという間に食べ尽くしてしまった。
日本食に慣れた夫は、ピラフをわざわざ茶碗に盛り、その上にほぐした身を乗せ、箸で食べるという念の入りようで、そのこともからかいのネタになった。

ウキウキとした行楽気分に、会話も弾む。
ところが、まだアンタルヤの町を出る前に、またしても車の不調が発覚。エンジンオイルが漏れ出し、燃え始めているというのだ。昨日の松林でのオフロード走行が、老体には応えたに違いない。
夫は車を修理工場に出しに行き、私と娘は自宅待機。ほとんど諦めていたところへ、1時間半ほどして直った車に乗って夫が帰ってきた。
まだ12時。「行く?」「行こう!」

今度こそ、一路南を、アカマツ林を目指して出発。
道路の左右にはすぐに松が見え始めた。しかし、なかなかそれらしい松林が登場しない。友人に指差された時には、ほんとアカマツだわ、と私にも区別がついたのだが、夫に「どの辺なの?」と急かされると、どうにも自信がもてないのだ。
時々、間違いなくアカマツと分かる幹の色も赤褐色の松を見かけはしたのだが、1本2本では話にならない。
そのうち夫が、「この辺り全部アカマツじゃない?」と言い出し、半信半疑ながら車を停めて松林の中に入ってみることにした。

沿道にカフェ・テーブルを出して小さなチャイバフチェスィ(ティーガーデン)を営む田舎家があり、アカマツの下に生えるキノコのことを知らないか、このあたりで取れないか、と聞いてみた。
「ここに住んで2年ほど経つけど、雨の続いた後だって一度だってキノコを見つけたことはないよ」
「もう少し先を右に入ると小さな村があるから、そこで聞いてみたらいいよ」とアドバイスしてくれた。

砂利道の農道を入り、水の干上がった川原を横目にしながら進んでいくと、辺鄙な山の中にもかかわらず観光客のグループに出くわした。ドイツ人観光客だ。
周囲に有名な遺跡一つない、ありふれた山の中の小村なのに、どうやらドイツ人はこんな山奥まで宿泊にやって来るようだった。小さいながらホテルやカフェまで作られ、ドイツ語で書かれたワンダールート(山の中の散策ルート)だの滝やら渓谷やらを指し示す標識や看板があちこちに立てられていた。

行けども行けどもキノコの生えそうな松林には出会えず、道は狭まるばかり。
夫はいい加減痺れを切らし、もう帰るぞ、とUターン。
私は場所を変えてなおもアカマツ林を探したいと意欲満々だったが、夫の反対を押し切って車を先に進めたとしても、大きなアカマツ林が必ず見つかるという保証はなく、未練を残しながらも帰途に着くことに同意した。

アンタルヤまで30kmの標識。
「えー、30kmも来てたの」
夫は不首尾に終わった松茸探しが少々不満げ。
しかし、たった1~2時間のドライブで簡単に松茸にありつこうという方が、どだい虫のいい話だった。
「その松茸、どんな風に料理してくれるの?」と、空っぽのビニール袋を指差して、夫は得意の冗談を飛ばした。
私はとても冗談に付き合う気分にもなれず、澄み渡った青空の彼方に目をやり、頭の中に松茸の香りや食感を思い描いては、「はぁ~」とタメ息をついたのだった。

(つづく)

∬第4話 キノコ恋しや




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